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23 勝利の方程式

 落ち着け! 俺! 相手は頭を使って仕掛けてくる。サフランのように怪物級のような攻撃力は持ってはず。


 「小僧! 我の異名は聞いてるだろう」


 なんだ? 異名? 確か……サザンが言ってたな……。地獄の拷問官か……。


 「その顔は知ってるようだな……。我が相手を痛めつける時は苦痛を与えるのだよ。即死はさせん。苦しみながら……。そして、もがき! あがき! 希望にすがりながら死んでいく様を見るのが楽しくてね……」


 「何が言いたい」


 「人間のガキは初めてだ……。見たところ十五……いや、十六ってところか……。今までは現実を知った大人が相手だった。反応は面白くない……。やつらはすぐ諦め命乞いをしてくる……。しかしだ! ガキは違う。希望を持ち、この世界へと足を踏み入れたばかりのやつだ。何も知らない青二才のガキ。反応が想像できん。実に楽しみだ!」


 変態の相手は慣れてはいるが、こいつはベクトルが違う。

 とにかく剣を構えろ! イレンが何をしてくるか観察しろ!


 「そうだ! その反骨心! 大人では出せないその反抗……。見せてもらおう!」


 なんだ? イレンのやつはこっちに向かってこない。なにか横にある道具を取り出している。


 「我は幾分か頭がよくてだな。相手が何をしてくるかが分かってくるのだよ」


 「なにを言っている! 来いよ! ガキ一人倒せないやつは魔王の器はないぞ」


 「そう。頭がきくやつに対しては、まず相手の調子を狂わせようとする。そして君は次にこう言うだろう『実力は大したことない。頭だけのカス』とな」


 「実りょ……」


 かぶせるように言うが、イレンの想定の内。


 「そうそう。相手の調子を狂わせようとすると、帰って自分の調子が狂う。面白くない。今までと同じだな」


 なにかないか……。思いつかない。


 「そう焦るな。実際に我は力はない。考えずにかかってきたらよい」


 イランが手招きをしている。そう答えるなら乗ってやろう! こっちはサザンのバフがかかっているのだよ!

 剣を振りかざし、イレンに向かう。心なしか体が軽い! これならいける!


 「無駄」


 空振りか……。 入ったと思ったのに!

 今度こそ!


 「残念」


 なにかおかしい……。ならこれなら!





 「次はどうした。さあ来い!」


 明らかに俺の攻撃を避けている。遊ばれている。


 「そろそろ二十三回目の攻撃……。小僧もうすうす気づいただろう」


 こいつ……イレンは頭だけではない。実力もちゃんとある。魔王の幹部たる実力が……!


 「そうさ! その顔! 絶望の淵に立った時の顔だ! これを見ないと拷問は始まらん!」


 「なんでだよ! クソッ!」


 「教えてやろう。なぜ戦闘力もあるのかを……。我は魔物の王を目指すときは自信はあった。しかしだ。現実は頭だけでは魔王に届かん。いくら苦労してもだ。なぜだか分かるか?」


 問いかけなんかするな……。


 「理由はな……。説得力がないのだ。いくら知力を巡らせようと、実力社会の魔界では通用しない。考えれば分かることだ……。だが当時の我は見失っていた。野心しか持てなかったのかもな。だが俯瞰して見つめなおしたら、見えてくる。魔王になるプロセスが!」


 うるさい。黙れよ……。どうしたら……どうしたらいいんだ!


 「そうだ! 迷え! 悩み続けろ! そして、絶望の未来を想像しろ!」


 クソッ! クソッ! あああああああああ!


 「はっはっは! 愉快だ! ガキの絶望は面白い!」


 プツ……。

 あれ? なんか糸が切れた……。頭の糸が……。


 「剣を肩に置いてどうする。はっは! 自分が勇者にでもなったつもりか!?」


 相手は頭を使う。相手は常に正解の道を選んできた。誰がどう見ても正解の道を。合理性の道を……。

 そうだ。合理性だ。相手は不合理をしない。それは想定外の道だ。

 相手を狂わせる……。不合理。不条理を。予期しない行動を……貫け!


 「おい。その剣を首に近づけてどうする。まさか自害なんてしないよな。はは。つまらん。その剣を我に向けよ! おい! 聞いているのか! 小僧! 自分の命だぞ! そんな行動は馬鹿げている! おい! 我の……。俺の言うことを聞けえええええええ!」








 「おい……。なぜだ……。なぜなんだ……」


 「スキを見せたからだ。なんで俺に近づいたんだ?」


 「小僧が……馬鹿げた行動を……。止めなきゃならんのだ……。止めなきゃ……」


 「お前は言っていたよな? 知力があるやつにはみんな狂わせようとする。これは正しいから、みんなはそう戦う。しかし、そこにつけ込んでお前は……、イレンはここまで伸し上がってきた」


 イレンは黙って俺に耳を傾けている。


 「ここまで来たんだ。自分の行動は嫌でも信じざるおえないのさ。その合理性ってやつを……。だからお前は負けた。その自分の正しさを曲げるやつは許されないんだ。そこの隙が、お前を狂わせた……」


 イレンの顔は悔しさしかない顔だ。

 そして小刻みに震える拳は憎悪に満ちている。


 「許さん……。小僧……! 地獄でお前を待っている……。小僧が死んだ時は……永遠の苦しみを……永遠を絶望を……。我は……俺は……地獄の王となって……。お前を……地獄で殺してやる……! 永遠に……殺して……や……る……」


 死んだか。無理もない。腹には剣を突き刺した跡がある……。

 しかしどっと疲れが来たな……。


 「ハルト君……!」


 「お。サザンか。どうした?」


 「こっちはなんとか終わったけど……もしかして……」


 「その通り。見てくれ! タイマンで勝ったぞ! 魔王の幹部に!」


 「ハルト君が……あのイレンに……」


 「おいおいどうした?」


 冷徹なサザンが目に涙を浮かべている。なんか珍しいことが起きてるな……。


 「ハルトくーん!」


 「おい! やめろ! 抱き着くな! あと服が濡れる! おいって……」


 「すごいよハルト君! すごいよー!」


 なんか……いい。アニメで見たことあるな、この感じ。

 普段クールな後輩キャラが感情を出す時が一番心に来るってものよ。


 「ああ! サザン! ハルトは私のものよ! どきなさい!」


 ヘデラが俺に抱き着いているサザンを引き離そうとしている。


 「ヘデラ。もう少し浸らせてくれ……。ああ、いい!」


 「しかしよくやったわね。一対一のタイマンで勝てたなんて」


 「そうだろアンス。少しは見習ってもいいんだぜ?」


 「普段のあんたを見てるからね~。それは無理」


 「そんなことよりだ。俺のこのパーティーの役割が判明したぞ! 聞いて驚け! それは意外性だ!」


 「は? 意外性?」


 「そう。爆発力ってものかな。俺がいればこのパーティーの力は普段の何倍にもなるってものよ!」


 「ヘー。ソレハスゴイネ」


 「しかし一千万か……。夢があるな……」


 「あ! そうよ! 一千万よ! あ……」


 「どうした? アンス」


 「どう山分けするかね」


 「そんなの簡単だよ。俺がイレンを倒したんだ。まあアンスも頑張ったからー、よし! 五十万を三人で山分け。残りを俺が……」


 「バカね。このパーティーのリーダーは誰? そうこの私。つまり全部私のものってこと……。あ! 安心しなさい。ちゃんと欲しいものは買ってあげるわ」


 「うるさい! 俺の功績の方がデカいんだ! そんな独裁は許されんぞ!」


 「じゃあハルトにはあげれないかな~」


 「なんでもう決まってるんだよ! やだやだ! 一千万は俺のものだー!」

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