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20 悪魔の城


 「起きて」


 うるさいな~。もうちょっと寝かせてくれよ。


 「あと五分……」


 「起きてってば! もう着いたよ!」


 この幸せな睡眠がもっと続けばいいのに……。


 「起きないと女の子にしちゃうよ!」


 「起きました! 起きたから……。去勢は……」


 「はいおはよう。とはいってももうこんばんはになるかな」


 なんかアンスの顔が見えない。

 それくらい暗くなってしまったのか……。


 「今何時くらい?」


 「二十時くらいかな」


 まじか、かなり遅れを取ったのか。

 ふとあたりを見渡す。

 ヘデラの肩から見える隣町の様子は禍々しいという言葉が似合うただ一つのものだ。


 「なんか怖いね」


 「当たり前の感想ね。入るわよ」


 ヘデラのおんぶから降ろしてもらい町へと足を踏み入れようとしたとき、ふとした疑問が思い浮かんだ。

 この町へ行く道中に魔物に出会ったか? 少なくともこの乗っ取られた町にはいないとおかしいが一匹たりとも魔物が見えない。

 その疑問を持ったまま町へと足を踏み入れた瞬間に、目の前が光輝いてきた!


 「レディース、アーンド、ジェントルメーン! ようこそ! 我が楽園へ!」


 何が起こった? いきなり目が眩しくなり、耳からデスボイスが響いてきた。

 少しずつ目から光が抜けてくる。そこに見えてきたのは、複数の大型ライトがこちらに向けられていて、町の奥の塔の上に何か魔物の陰が見える。


 「なになに!? なにが起こったの!?」


 「ハルト! 耳がああ! 悪魔のような声がああ!」


 「落ち着けお前ら! ほら……あの……、演出だ! 出迎えてくれたんだよ!」


 自分でも何言ってるか分からない。


 「みんな。周りを見て」


 唯一冷静だったサザンの一声で俺たちは少し落ち着き、サザンの適応能力に感服しながらも周りを見渡す。

 そこにはさっきまで姿わ表さなかった魔物の群れが俺たちを囲っていた。


 「なにこれ!? さっきまでいなかったじゃない!」


 ヘデラの驚きは俺も同感だ。魔物が明らかに意思をもって行動している。

 魔物の顔こそは見えないが、大勢の陰が俺たちに今にも襲い掛かってきそうな勢いだ。


 「おやおや。気づいた様子だね~。君たちには逃げ場がないということに」


 またもやさっきのデスボイスが聞こえてくる。

 マイク越しなのか分からないが塔の上に立つ陰がそのデスボイスの持ち主だろう。


 「ハルト。どうする? 引き返すのは無理みたいだけど……」


 「どうするも何も、これじゃあ袋のネズミだ。あいつの指示を待とうじゃないか。幸いにも、問答無用に襲うことはしない様子だし……」


 「作戦会議は終わったかな?」


 こちらからざっと五百メートルは離れているだろうに、こちらの様子が分かるのか。


 「ねえ! さっきからうるさいんだけど! うちのハルトの鼓膜が破れたらどうするのよ!」


 「やめろヘデラ! こっちの戦況は不利だ! 下手に相手を刺激するんじゃない!」


 「だって……」


 「そのとおり! 今君たちは我が手の中なのさ!」


 しかし何がしたいのかが分からない。魔王の幹部が相手なんだから、何か裏があるはず……。


 「そこの少年! 考え事は後にしな! とにかく、今は我の話すことを聞くがよい!」


 見透かされている。少なくともサフランのような筋肉バカじゃないことは分かる。


 「君たち! 帰りたいよな! 帰してほしいよな!? ならばこちらの言うことを聞くがいい……」


 皆が固唾を飲む。だが俺には紳士的な言動なのにデスボイスってのがどうも気になる。


 「ルールは簡単! この塔にたどり着くだけでよい! たどり着きさえすればそこの魔物達に帰路を開けてやろう」


 なんかデスボイス紳士と考えると怖くなくなってきた。


 「この塔の一階に褒美が入ってる。それを手に入れればクリアだ」


 「なんか簡単じゃない? 聞いた感じルールだけじゃなく内容も小学生が考えた感じだし……」


 「ヘデラ。小学生か何かわ分からないけど、どうやらそうはいかないみたいよ。あそこの物陰を見てみなさい」


 アンスが指を差したところは、この町の門からすぐそこの建物の陰。

 薄目で見ると何かいることが分かる。


 「なあ、アンス。あれはなんだ?」


 「弓を弾いてる魔物よ。塔にたどり着けばいいって言ってたけど道のりは茨の道ね」


 アンスだけじゃなくサザンも気づいている様子だ。


 「ほう。どうやらバカではなさそうだな。そのとおり! ここの塔にたどり着くまでにトラップを仕掛けさせておいたのさ!」


 「なるほどね。あいつのお遊びに付き合えって言われてるわね。上等よ! こっちは大金がかかってるのよ! 女の物欲を舐めるんじゃないわ!」


 「面白い! では健闘を祈ろう!」


 そういい塔の中へと陰は消えていった。


 「なあ。思ったんだけどさ……」


 「ええハルト。どうやら私も同じ気持ちよ」


 「あのデスボイス紳士。大したことないよな! ちょっと目がいいだけのガビガビ野郎だな!」


 「そうよハルト! こんなゲームさっさと終わらせましょう!」


 ぺチッ!


 いきなりサザンが平手打ちをしてきた! こんな娘に育てた覚えがないのに……。


 「あいつを舐めたらだめ。絶対に」


 サザンの本気の忠告だ。さすがにこれにはヘデラも押し黙る。


 「サザン。あいつの名前を知ってるの? 魔王の幹部って言われているけどあいつは知らないわ」


 「魔物の中では有名。その圧倒的な頭脳とカリスマで魔王の幹部まで伸し上がってきた天才。魔物界の異名は悪魔の拷問官。名前は……イレン」


 普段のサザンでは考えられない真剣さ。その真剣さが余計に今回の敵のイメージを増幅させる。


 「とにかく私について来て。一筋縄ではいかないから」


 そう言うサザンの背中は、小さいながらも頼もしく思えてくる。


 「まずはあの弓を構えている魔物。ヘデラ、指を差すからそこに向けて攻撃を」


 「分かったわ」


 ヘデラの放った魔法は、敵を倒すとともに戦線開始の合図の鐘となった。

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