19 みんなでご飯!
「遅かったね。お二人さん」
アンスとサザンが昼飯を取るための場所を確保してくれていた。
「まさか森に入るとは思わないだろ」
そう。隣町に行くためには森を超えないといけないのだ。
取っ組み合いをしていたために少し後方にいた俺たちは、遅れながらも二人の姿は確認できていた。
しかし、森に入った途端にその姿は見えなくなっていったのだった。
「ヘデラが魔力探知を出来て助かったよ」
「そうね。ただ、魔力探知ってすっごく難しいのよ。それが出来るって……ヘデラは何者かしら?」
女神の面したヤンデレ痴女だろ。
「もっと褒めてもいいわよ」
「そんなことよりご飯食べましょ。なんせサザンの手作りなのよ!」
「お。それは期待できるな」
そう聞き、サザンは大荷物の中から風呂敷を出した。
「さ、中を確認してみて、ハルト君」
そそのかされてつつも中を確認する。
「うん?」
思わず声が出てしまう。
ただ期待していたものとは違った。
「これ……、なに?」
「おにぎり」
そう。普通のおにぎりである。サザンの腕ならもっと豪華な物を作れるはず……。
「あら。美味しそうじゃない」
確かに形は綺麗だ。
「ハルト。なんかいい匂いしない? 花の香みたいな」
ヘデラにそう言われるまでは気づかなかったがほのかにに香付けがされている。
「これなんの匂い?」
「食欲を増す匂い」
「はえー。そんなものも作れるのか」
「さ! いただきましょう!」
腹はいっぱいだ……とはいかない。軽食ぐらいの量。飢えはしのげるくらいの量だった。
「しかしまだいい匂いは残っているな」
「そうね。もしかしたら魔物がよってきたり……なんちゃって」
「冗談はよせアンス。そんなまさかは起こらないだろ。な、ヘデラ」
ヘデラの方と目が合う。なんか野獣の目をしている。
「なんだよ。怖いな」
その瞬間、ヘデラが俺にめがけて抱き着いてきた!
「ハルト~! もっと食べさせて!」
「やめろ! 近づくな! あ。そこはダメ」
「まずい! ヘデラが野獣化した! サザン! 何とかして!」
「おかしい。人にはそんなに効かないはず……」
「サザン! 考え込まずに助けてくれ!」
「ハルトのジュニアをよこしなさ~い」
ただでさえ取っ組み合いをしたばっかりなのに。もう体力なんて残ってない。
「うわ!」
「えへへ。押し倒しちゃった」
「分量を間違えた? いや。ほかの二人は正常……」
「ちょっとヘデラ! どきなさい! サザンも手伝って!」
もうめちゃくちゃだ。これじゃあ隣町を救うなんてことはできやしない。
「もう限界だ! 俺の体力はもうゼロだ!」
「押し返す力が弱ってきてるね。ほら! こうして手を動かなくして……」
完全に負けてしまった。俺の童貞人生は短かったな……。
「ほい」
微かに見えたサザンの手払いは光の帯を巻いていた。
暖かい。そしていい匂いに包まれている。まるで天使の中。いや、これはもう女神の域に到達している。
女神。そう女神だ。想像してみよう。この暖かさは俺を愛していないと出ない。それはもう狂気的に、今ある日本語で言うならヤンデレ……。ヤンデレの女神……。
「は!」
「あ。起きた」
「ここは、俺は何を……」
そこには俺をおんぶしているヘデラが目の前に。
日は沈みかけている。夕暮れ時だ。
「おはよう。ハルト。いい夢見れた?」
「悪夢なら見れた」
しかし何がどうしてこうなったのか……。
「不思議そうな顔ね。何が起きたか気になるでしょ」
アンスの問いかけに少し顔を頷く。
「あの後ね。サザンがヘデラに対して魔法を掛けたの。なんだと思う?」
「そりゃあ死の魔法を……」
「違うよ。欲求を強める魔法を掛けたの」
サザンが訳の分からないことを。
「なんで? 俺が襲われるのを見たかったってことか?」
「違う。限界以上の欲求はね、逆に意欲をなくすんだよ。いわゆるオーバーフローってやつ」
なんか頭がこんがらがって来た。
「あの時のヘデラの欲求を抑えるには私には無理。だからこうしたの」
「頭いいんだな」
しかし、女の子に力で負かせられる時が来たとは……なんか悲しい。
さらにおんぶまでされている。これじゃあ完全に赤子じゃねーか。
「ヘデラ。もう歩けるから降ろして」
「やだ。もっとハルトを感じないと……、あ! キスでもしたら考えてあげる」
「ならこのままでいいや。着いたら教えてね」
「ハルトったら……また寝る気ね。なまけ癖は抜けてないようね」
「いいじゃない。もっと私に依存してくれたら……。そう。私という沼にもっと引きずり降ろさないと」
「気持ち悪いね。それはそうとハルト! 着いたら起こしてあげるから。少しでも体力残しておきなさいよ」
「は~い。アンスちゃん」
「ちゃんづけ! 私にもして!」
「ヘデラおばさん」
「せめてお姉さんにしてよ」
しかしヘデラのおんぶは気持ちい。もうこのまま身を任せよう……。




