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17 決起の群衆


 「お帰り。どうだった?」


 「別に……」


 「明日も行くことになったよ」


 「なら私も行く!」


 「ヘデラの魔力はもう十分だろ」


 「気になるな~」


 するとアンスが俺に耳打ちしてきた。


 「どうする? 人数多い方がよくない?」


 確かにそう思う。

 となればサザンも必要だ。


 「サザンも来る?」


 「うん」


 「よし。なら二人にも伝えといた方がいいな」


 「え。ちょっとまっ……」


 「実はな。アンスはマズミさんから告白を受けてるんだよ」


 アンスが顔を赤らめている。

 しかし二人の反応は微々たるものだ。


 「知ってる。ヘデラから聞いた」


 「なんでヘデラが知ってるの?」


 「ハルトから聞いたからよ」


 「ハルト。ちょっとこっち来て」


 「なに?」


 ぺチッ!


 「ごめんなさい」


 「次はないからね」


 「はい」


 「とにかく、私はマズミと友達でいたいの。みんなも協力してくれる?」


 「仕方ないわね」


 「いいよ」


 「よし! 決まり! じゃあ今日は明日に備えましょう!」




 「みんな。準備はいい?」


 アンスが問いかける。

 俺たち三人は頷き、教会の扉を注目する。

 その瞬間、アンスが開けようとした扉が独りでに開いた。


 「お二人さん。ようこそ……あれ?」


 マズミさんが出てきた。

 ヘデラとサザンを見つめている。


 「あ~。ちょっと色々あってね」


 「色々ってなんです?」


 「えっと~」


 「二人も魔法を習いたいって」


 「あら。そうでしたか……」


 マズミさんの顔は何ともいえないビミョーな感じだ。


 「まあまあ。マズミ。今日もよろしく!」


 「そうですね。じゃあ皆さんも中へ」


 マズミさんが教会の奥へと先駆けていく。


 「よし。みんな、私をサポートしてね。なんとしてもマズミの暴走を止めるのよ」


 「分かった」


 俺たちも教会の中に入った。



 「さ! 今日も魔力を高めましょうね。ハルトさんは昨日と同じことをしててくださいね~」


 「ねえハルト。昨日と同じって?」


 「この紙に書いてあることをしろってこと」


 するとヘデラとサザンが持っていた紙を凝視する。


 「へー。意外といいこと書いてあるじゃん」


 「そうなの?」


 「これは魔力を高める基礎的なことから魔法の使い方の応用まで書いてあるよ」


 サザンが言うなら間違いない。


 「じゃあ三人は部屋から出てくださいね。私はアンスと特訓しますので」


 マズミさんの部屋から追い出される。


 「ねえハルト。この紙に書かれてること、本当に効果あるからやってみたら?」


 「でもアンスの助けは……」


 「私たちがなんとかするよ」


 「まあサザンが言うなら……」


 「じゃああっち行ってて」


 ヘデラが手払いをする。

 こいつらただただ百合を見たいだけじゃないか?

 仕方がないから一人でやるか。

 ほうほう。これをこうやるとこうなるのか……。

 ……分からん。専門用語が多すぎて何を書いてるか解読しなくては……。


 「きゃー!」


 !? アンスの叫び声だ!


 「おい! 何があった!」


 ドアの前に立つ二人に急いで話掛ける。


 「ねえハルト! このドア開かない!」


 「まじかよ!」


 ヘデラがドアノブを今にも壊れそうなくらい動かそうとするがびくともしない。


 「マズミ! それ以上は……! ダメ……!」


 アンスの喘ぎ声が聞こえてくる。


 「なあヘデラ。邪魔せずこのまま見届けるってのは……」


 「確かに。アンスがマズミさんと繋がったら、ハルトのライバル減るもんね」


 「お前ら。そこどいて」


 諦めかけた俺たちにサザンがドアの前に立つ。


 「なにする気だよ」


 「見てて」


 するとドアの前に手をかざしたサザンが少し目をつむる。


 「なにしてんだよ! アンスがレズ堕ちしちゃうぞ!」


 「黙って」


 威圧感がある。サザンも元は魔物だもんな。


 「あれ。ハルト。なんかドアがメキメキ鳴ってない?」


 確かに聞こえる。しなる音が。

 よく見るとドアの木材が腐ってるではないか!


 「ハルト君。これだけやれば後は蹴りでも開くよ」


 「お、おお。そうだな」


 思いっきり力を込め、右足でドアを振りぬく。

 開いた!

 中には半裸状態のアンスとそれに馬乗りになってるマズミさんがいる。


 「きゃー! マズミ! みんな見てるよ!」


 「あら? しっかり戸締りはしたはずですが……」


 アンスが自分の体を毛布で隠す。


 「ねえちょっとマズミ! 服! 早く!」


 「え? あー。え?」


 困惑している二人にサザンがアンスの服を拾う。


 「はいこれ」


 「あんがと! あとハルトは出てって!」


 「え!? なんでだよ!」


 「当たり前でしょ! なに女の子の体を平気で見ようとしてるの!」


 「確かに……」


 「ハルト。一緒に行きましょうね~」


 「あ、ちょっと……ヘデラ。見させ……」


 ヘデラに背中を押されて部屋から出ていく。


 「ハルト。顔向けて」


 なんだ? 少し顔が怖いが……。


 「なに欲情してんの?」


 「え? 別にそんなことは……」


 ゴン!


 「っいったー!」


 ヘデラが脳天めがけて拳を振り下ろした。


 「お仕置き。私以外でムラムラしたから」


 「お前そんなキャラじゃないだろ! もっとこう……やさしさはどこいったんだよ!」


 「さすがに裸はダメでしょ」


 どういう線引きなんだろう。


 「ちょっと! アンスさん! どこ行くの!」


 「帰るだけだよ。じゃあまたね!」


 部屋からアンスとサザンか駆け足で出ていく。


 「もう、なんでうまくいかないの……」


 マズミさんが二人の背中を見届けている。


 「ヘデラ。俺たちも帰ろう」


 「そうね」


 「ちょっとお二人さん」


 マズミさんが話しかけてきた。


 「なんで邪魔するの?」


 顔が怖い。口角は上がっているがどこか不気味さを感じる。


 「あのーそれはですね……」


 「アンスがやめてほしいって言ってたよ」


 「おいバカ! 直接言うんじゃない!」


 「そんなはずないでしょ。アンスさんは喜んでいましたよ」


 「え? そうなんですか? 嫌がっている声が聞こえていたんだけど……」


 「あれはあえて嫌がっていたんです。嫌よ嫌よも好きのうちって言うでしょ! アンスさんは愛情表現が苦手ですからね。いわゆるツンデレってやつですよ!」


 「本当ですか?」


 「もちろん!」


 「てことはハルトが普段冷たくしてるのも……」


 「そんなわけないだろ! もう帰るぞ!」


 ヘデラの腕を引っ張り教会を後にする。


 「また、来てね」


 かなり雰囲気が怖い。

 教会の外ではアンスとサザンが待っていた。


 「ねえ。もうやばいでしょ」


 「落ち着けって」


 「なにか断る口実が出来たらな~」


 アンスが呟いた時、教会に沿っている道から会話が聞こえた。


 「なあ、聞いたか。隣町を魔物が占領してるらしいぜ」


 「ああ、それな。なんか魔王の幹部がやられたとかなんとかで襲ってるらしいな」


 アンスと顔を合わせる。


 「ちょうどよかったな」


 「ええ。早速ギルドに向かうわよ!」



 噂を聞きつけたのか、ギルドには人だかりができていた。


 「隣町を魔物が襲ってるって聞いたけど本当だったのか」


 「しかも魔王の幹部が関わってるって聞いたぜ」


 依頼が張り出されているボードに皆が顔を向けている。

 様々な噂が蔓延る中、アンスの顔が少ししかめていた。


 「この町の住人も気になってるのか。アンスはどうなんだ?」


 「隣町ってすぐそこよ。いつ襲ってくるか溜まったもんじゃないわ」


 故郷が侵されるのは俺でも嫌だな。

 するとギルドの中から慌てて人が出てくる。

 制服を着ているからギルドの人だろう。

 人込みを避けて一枚の張り紙を出した。

 その時、その張り紙を見た人が大声を上げた。


 「え! 成功報酬一千万マニーだって!?」


 場が一瞬にして静まり変える。

 ふとアンスを見ると顔が震えていた。


 「どうしたんだ? アンス」


 「ハルト……一千万って聞こえた?」


 かなりどよめいている様子だ。


 「聞こえたけど……」


 群衆の中からぽつぽつと呟きが聞こえてくる。

 皆が動揺している感じだ。


 「なあアンス。何か言ったらどう?」


 するとアンスが俺の肩を激しく揺らして訴えかけてきた。


 「ハルト! これヤバイわよ! 一千万よ!」


 「分かったから! あまり揺らさないでくれ!」


 周りの人がアンスの声を聞き我に返ったかの様に驚きの声を上げ続けた。


 「これこなせば一千万か!」


 「ちょっと町救ったら大金持ちじゃねえか!」


 「おい! これでビール樽何個買えるんだ!」


 そこにある一人の言葉が場の空気を変える。


 「ちょっと待てよ。一千万ってことは魔王の幹部クラスが関わってるってことだよな……」


 一気に静かになった。さっきまでの活気はどうした。


 「確かに……。こんな庶民では太刀打ちできないから金がかけられてるのか……」


 「ちょっとは夢見させてくれよ……」


 「こんなのギルドハンターでも無理だぞ……」


 なんだか弱音が聞こえてきた。

 するとまたもや一人の人間が声を出す。


 「なあ、この町にサフランを倒したやつがいるって聞いたか?」


 誰の声だろうか。期待と尊敬が混じったような言葉だ。


 「聞いたぜ。もしそいつがいればこんな依頼余裕だろうな……」


 「確か倒したパーティーって赤髪の女がリーダーだったよな……」


 その瞬間、皆の目線が張り紙から俺の後ろのアンスに集まってきた。


 「え? 私?」


 アンスが戸惑うなかまた誰かが言う。


 「おい! いるじゃねーか! 英雄さんが!」


 その言葉を皮切りにまた歓声がうるさいほど聞こえてくる。


 「頼む! お前が救ってくれ!」


 「一千万手に入ったら俺にも分けてくれ!」


 「そうだ! お前にしかできないんだ!」


 この町の住人は人任せだな。

 ただ当の本人は笑顔を見せていた。


 「しょうがないわね! この私に任せなさい!」


 アンスもちょろいな。


 「おいアンス。いいのか?」


 「頼られるのも悪くはないわね」


 全くこの赤髪は……。


 「ねえハルト! 一千万手に入ったら家買いましょ! さすがに二人で一つの布団は狭いからさ!」


 「おいおい。誰が行くって決めたんだよ。もう幹部はいいよ……」


 「ハルト君。これはみんなの為なんだよ。確かにハルト君には関係ないかもだけど、ヘデラやアンスは少なくとも負け戦とは思ってないよ。それにここで隣町を救えばみんなが安心して暮らせるんだよ」


 まあサザンが言うならその通りだな。


 「よし! ハルト! 明日にはもう隣町だから、しっかり準備してね」


 群衆の歓声から大きく聞こえてしまった。

 ここで俺が反対したら何されるか分からん。


 「分かった。付き合うよ……」


 「よし! 決まり!」


 するとアンスが人だかりに向かって大声を出す。


 「この依頼は私たちに任せなさい! みんな私がやっつけるから!」


 やめてくれよ。これ以上ハードルを上げないでくれ。


 「頼むぞー! 赤髪!」


 「金髪の女もサキュバスのガキも! 俺たちは期待してるからなー!」


 俺も入れろよ。


 「ねえハルト。注目されるのって、悪くないわね」

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