14 マズミの思惑
「ん〜。お前らおはよう」
「あ〜。昨日は食べすぎた……」
「あ。みんな起きたのね」
「ヘデラはまだ寝てるのか……」
「あ! そうだ。ハルト。ちょっと付き合ってくれない?」
「どうしたんだ!? とうとう彼氏が出来なくて狂ったのか」
「は? 何勘違いしてるのよ。買い物よ」
「ああ、そっか……」
「期待してたのはあなたの方ね」
「うるさい」
「ハルト君は人気者だね」
「ありがとな」
「とりあえず出かけましょうか」
アンスは鞄を持って玄関扉を開けた。
「なあ、なんで俺がついて行かないと行かないのか?」
「そりゃあ私一人じゃ持てないからよ」
「え。そんなに買うの?」
商店街に着く。
なんかみんなこっちを見てる。
「あれ噂の赤髪だ」
「魔王の幹部を倒したって聞いたぜ」
「横の男が足引っ張ったらしい」
おいおい注目浴びてるな。
するとアンスが鼻歌を歌い出した。
「アンス、なんか気分いいな」
「だってみんな私たちを注目してるのよ」
少し足を浮かしながら歩いている。
「そういえばさ。魔王の幹部を倒したってことは相当な報酬が入るのでは?」
「え? 入らないわよ」
は。まじかよ。
なんなに苦労した結果がこの注目だけかよ。
「なんで入らないんだよ」
「だって依頼に入ってないんですもの」
「それだけでかよ……。報奨金とかないの?」
「民間のハンター事務所ならあるよ」
独立しようかな。
「まあいいじゃない。もしかしたら買い物で負けてくれるかもよ!」
それだけの為に命を懸けたのか……。
「あ! この野菜美味しそうじゃない?」
「料理できないのによくそんなこと言えるな」
「ちょっと! この場では家庭的な子を演じてるの! 黙ってて」
こいつ家の外では猫かぶってたのかよ。
「なあアンス。その野菜もいいと思うけどあれは?」
「なに指さしてるのよ」
「お菓子だけど……」
「そんなんばっか食べてるからだらしなくなるのよ」
「おい! それは関係ないだろ!」
「おお。このお肉も美味しそう!」
人の話を遮るなよ。
「結構買ったな」
「そうね」
「じゃあ帰りますか」
「え? まだ帰らないわよ」
はえ? 聞き間違えかな?
「あと服買いに行かなくちゃ!」
「荷物は……」
「ハルトが全部持ちなさいよ。ちょっとは筋トレになるでしょ」
ふざけるなよこの赤髪。
家ではへそ出して日が昇るのを待ってるくせに……。
「この服とかいいんじゃない? あ! この服もいい! ねえハルトどっちがいいと思う?」
「右の服とか……」
「私はこの左の服がいいのにな~」
なんで聞いたんだよ。
「まあいっか! どっちも買お」
「おいおい。金欠になるぞ」
「うるさい。稼ぎもないのに口出さないで」
あれ? ムカついてきたぞ~?
「じゃあ帰りましょう!」
荷物を渡される。
前が見えない。
「なあアンス。マズミさんとの約束覚えてるよな」
「あ! 今思い出した!」
「頼むよ。恩人なんだぞ」
「まあいいじゃない。マズミなら約束破っても許してくれるでしょ」
「だらしない……。ちゃんと約束は守れよ」
「分かってるって!」
本当に切実に願う。アンスの性格を直してくれ。
「やっと着いたよ。重かった~」
「あ。お帰り」
「ああ、ただいま……って何してるんだ?」
「二人でボードゲームして遊んでた」
「へー。楽しそうだな」
「でもこれルールがいまいち分からないの。ハルト君なら分かる?」
二人の遊んでいるボードゲームを見る。
……訳が分からん。
「お! 二人ともいい手ね!」
「アンスは分かるの?」
「ええ。これがね……」
楽しそうな三人を置いて買ってきたものを床に置く。
かなり重かった。
少し休むとするか……。
「ハルト。起きて」
ヘデラの声が聞こえる。
「ハルト。起きてよ」
「あれ? もう暗くなってる……」
「寝落ちしちゃったのね」
そうだったのか……。
「あれ? アンスは?」
「あー。マズミさんと会うって」
覚えてたのか。良かった。
「もう寝る時間だからお休み」
布団に入ってしまった……。
暇だな……。
ちょっくら深夜徘徊でもするか。憧れてたんだよな。
「お~。昼間と違って少し肌寒いな」
明かりが消えていている。騒がしいこの町も休息が必要なのだろう。
そういえばアンスとマズミさんはどこで会ってるんだろう。いつもの公園って言ってたよな……。
よし探すか!
少し歩いていると話声が聞こえた。
「ねえマズミ。用って何?」
アンスの声だ。
この空き地みたいなところが公園なんだろう。
ベンチと街頭だけがある。
ちょっくら盗み聞きでもするか。
お。そこの木がいい感じに死角になってるな。
「アンスさん。大事な話なの……」
「だからなによ」
「それはね……」
何だろう気になる。
「私ね。アンスさんのこと……。好き……なの……」
「え!?」
え? なんつった今。
「ねえマズミ……どうしたの急に……」
「小さいころね。私のことをいつも追い回してたじゃない」
「そうだけど……それと好きって何か関係があるの?」
「あなたが独り立ちして気づいたの。私はアンスさんがいないとダメなんだって……」
告白かよ。しかも女の子同士で……。
「最近、ハルトさんやヘデラさんが来て笑顔が増えたじゃない……」
「まあ楽しいけど……」
「私、それを見て嫉妬して……。小さいころのように甘えてこないんだって思っちゃって……」
「う、うん」
「あなたを独占したくなってきたの……」
ほえええ。まじかよ!
「ハルトさんが来て奪われないかっていつも心配で……」
「大丈夫だよ。ハルトは奥手だし……」
「そんなので私の心配は消せないの……。だからさ……ちょっと動かないで……」
その時、少し琥珀色のオーブが出てきた。
「あれ? 動かない」
「顔、こっちに向けるね……」
「うそ! ちょっとまって!」
何が起きるんだ。
「キス……しましょ……」
……! 見るしかない!
「ちょっと! 私まだしたことないの!」
「よかった……私が初めてなのね……」
「マズミ! 目が怖いよ!」
「じゃあ目を瞑ってていいわよ……」
マズミさんの顔が近づいていく……!
「ストップ! マズミ!」
「…………」
チュッ♡
見てしまった!
マズミさんがアンスを襲ってる!
「んん~」
長い! ディープキスだ!
やっとマズミさんが口を離した。
すげえ。口と口の間に糸が引いてる……。
「……」
アンスが顔を赤らめている!
「気持ちよかったね……」
「うるさい……」
二人のはにかみ顔が照らされている!
「もう一回……」
「嫌!」
「ちょっとどこ行くの!」
アンスが逃げてしまった。もうちょっと見たかったのに……。
「あ~あ。逃げちゃった……。まあいいわ。第一ステップは完了……。絶対堕とすから……」
サザンが言っていた怪しさってこれか。
ガチのヤンデレか……。ヘデラとは比べ物にならないな。
「私も帰りましょ! いいオカズが出来たわ!」
とんでもないものを見てしまった……。




