13 助太刀いたす!
まずいまずい。非常にまずい。
「おい。なに慌ててるんだよ。俺様に喧嘩を売るってことはその気があるってことだよな?」
「違います! 見間違えただけで……」
「何と見間違えたんだよ」
「ゴブリンと……」
「ふーん」
「見逃してもらえませんか……?」
「無理だな」
「え?」
「だってお前らはゴブリンという下等生物には強気なのに俺様となると逃げ腰になるよな。俺様はな、弱いものいじめをしているやつを見ると反吐が出ちまう。ただ単に雑魚を狩っていい気になる屑には制裁が必要だな」
怖い。
「お前は弱いが、そこの金髪のガキは強いそうだな……」
「ちょっと! 何がガキよ! 私はこう見えてもね……」
「おい! ヘデラ! ここは素直に退散だ!」
「だって……」
「だってもなにも、これじゃあ分が悪すぎる!」
「分かったわよ……」
「お前ら。話は終わったか? 俺様を待たせるんじゃない」
「終わりました!」
「で、結論は?」
「今日のところは……」
「だから無理だって言ってるだろうが!」
サフランの咆哮が森に響き渡る。
「俺様も暇だし、ちょっと遊ぼうや……」
するとサフランが右手に力を込めて俺に向かってきた!
「うわ!」
すんでのところでよける。
その時後ろから轟音が聞こえた。
なのごとなのかと後ろを振り返る。
そこには三十メートルはあるだろう……。サフランを中心に扇型に木々が消し飛んでいた。
「外したか……」
やばすぎるだろ!
「ねえ! ハルト! これヤバイでしょ! あんなのくらったら……」
間違いなく一撃で死ぬ。自覚する前に……。
「あんまりちょこまかと動くんじゃねーよ」
するともう一回右手に力を入れる。
「今度は外さねーよ」
また来る!
「……!」
あれ? 避けられたぞ。
「また外したか」
しかしその攻撃力は比にならない。
だがさっきから相手の動きが見えるぞ。
もしかしてこれがいい装備の力か?
「おい! そこの金髪! 今度はお前だ!」
「ヘデラ! 危ない!」
「うわ!」
「ちっ! 避けたか……」
こいつ弱くないか?
「ねえ! ハルト! 多分サフランは攻撃力だけよ! それ以外はポンコツだわ!」
「おい! ガキ。黙ってろ!」
ヘデラは華麗に避ける。
勝てるぞ!
俺は新調した剣にバフをかけサフランに向かう。
「おりゃ!」
不意打ちなのか背中に傷が入る。
「ちっ! どいつもこいつも!」
「ハルト! 避けて!」
「ほい!」
「また外したか……」
さっきからサフランが攻撃を外しまくってるせいで周りの木々が薙ぎ倒されて更地になる。
「あああ! ムカついてきた!」
自分から外しといて何キレてんだよ。
「なあヘデラ。これが本当に魔王の幹部か? 倒すの楽勝じゃねーか!」
「これで躓いてたら生きてけないでしょ」
「おいてめーら。遊びは終わりだ」
その言葉を発したサフランが急に青のオーラを放つ。鱗が逆立ちし青髪が空中で暴れてる。鉤爪が銀色に輝き、牙が伸びる。
「ヘデラ。これまずくない?」
「いやいや。さっきの動き見た? 楽勝よ!」
だといいんだが……。
「背中の傷が痛むぜ……」
「!?」
こっちに向かってくるスピードが早い!
瞬発力が格段に上がってる!
「ハルト!」
やばい。死ぬ!
………………あれ?
痛くない。
あれだけの強さだと痛みを感じる前に死ぬのか……。
「……ト君。……ルト君」
サザンの声だ。死後の世界で幻聴が聞こえるとは……。
「起きて」
目を開ける。
「?」
「やっと起きたよ」
そこにはサザンが膝枕をして俺をなだめている。
「あれ? サザンも死んだの?」
「なに言ってるの? とにかく起きたのなら早く戦闘の準備をして」
「え?」
改めて辺りを見渡す。
さっきまでの惨状が目に入る。
「あのザコ以外はなかなかやるな」
「まあハルトはこんなもの。ここからが本番よ」
アンスもいる!
「なにが起きたの?」
「私がギリギリのところでさらった。その時ハルト君、気絶しちゃったみたい」
「なんで二人はここに……?」
「出稼ぎに行ったお前らをアンスが心配してついてきたの。どうせ新品の剣を試したいから討伐に向かったと思ってギルドに聞いたら大正解。それでここに来た」
アンス……見直したぞ!
「ヘデラ! 私が気をひくからその間に魔法攻撃を!」
「了解よ!」
「コンビで向かうのか……俺様の対策としては正解だ。だが実力がついていない!」
「関係ないわよ。サザン。みんなの能力を上げて!」
「分かった」
「なるほど。そこの上位魔族のサキュバスがサポート役か……。ならそいつを先に殺すか!」
こっちに向かってくる!
その瞬間アンスがサフランの前に回り込む。
「聞こえなかったの? 相手は私よ」
「ちっ! ならお前からだ!」
激しい戦闘が繰り広げられる。
と言っても、アンスがサフランの攻撃を避けているだけだが。
「アンス! 準備できたわ!」
「いつでもいいわよ!」
そうは言っても攻防戦が激しくてヘデラは標準が定まっていない。
何か対策は……。
「魔王の幹部だから警戒してたけど、その程度なのね」
「当たったら死ぬくせになにほざいてら!」
なるほど!
「おいサフラン! 小娘一人に手こずっていたら幹部の名に置けないな!」
「あ!?」
よし! 挑発に乗った!
「早死にしてーらしいな」
「だから私が相手でしょ? 怖気付いたならさっさと謝りなさいよ!」
「あ!?」
動きが止まった!
「ヘデラ! 今だ!」
「!? しまった!」
するとサフランの立っている地面が割れる。
亀裂の中から赤い光が立ち込める。
その瞬間、サフランを中心とした大きな炎の渦がその場を焼き尽くす。
「最大魔力よ!」
よし! 完璧だ!
サフランの悲鳴が聞こえる。
「いっちょ上がり!」
「さすがヘデラね。ハルトもよく挑発したわね」
「まあな」
これは勝っただろ。
「お前ら。サフランはまだ死んでない」
「「え?」」
「分かるの?」
「魔力が感じる。油断しないで」
その時、炎の残り香からサフランの顔が現れ始めた。サザンの言った通りだ。
「いいコンビネーションだ」
「まだ生きてるのかよ……」
「しぶといわね」
「魔王の幹部を舐めるなよ……」
「さっきと同じ目にあうわよ!」
「そうはいかねえぜ。赤髪。お前からだ!」
向かってくる!
「おい! サフラン! そんなにアンスが好きなのかよ!」
「ザコは引っ込んだろ!」
クソ! 挑発が効かない。
「ちょっと! いきなり激しいわね!」
「当たり前だ!」
サフランがアンスを集中的に狙ってる。
何か考えろ。
ん? 後ろから足音が聞こえる。
「聖なる精霊たちよ。魔物の動きを止めよ!」
「「!?」」
なにが起きた?
サフランの動きが止まってる!
「この者の剣に力を!」
その言葉を聞いた瞬間、剣が虹色に輝く。
「さあ、ハルトさん。今がチャンスですよ」
後ろを振り向いてる暇はない!
突撃だ!
「おら!」
サフランの背中を刃が貫く。
激しく出血し、返り血を浴びる。
うめき声を上げながらサフランはその場に倒れ込んだ。
「勝ったのか?」
「本当ね」
「なんか呆気なかった」
「あら、あなたたちの実力ですよ」
その声は!
「マズミさん!」
「あらあら」
「え!? マズミ!? なんでここに!?」
「アンスさんと可愛らしい格好をしたサキュバスが不安そうに町を出てたらかついてきちゃった」
ストーカーかよ。
「ストーカーね」
「おいヘデラ! 口を慎め!」
「あら、大丈夫ですよ」
「もしかしてサフランの動きを止めたのも、ハルトの剣を強化させたのも……」
「そうですよ。私の仕業です」
すげー! マズミさんにこんな力があるのか!
「マズミさん! あなたもしかして、凄腕のハンターでは……」
「あら、ハンターではありません。精霊使いと言った方が正しいかもですね」
「たしかにマズミがハンターの修行をしてるところなんて見たことないわ」
「毎日祈りを捧げるのが私の出来ることですから」
「とにかくありがとうございます! なんとお礼をしたらいいか……」
「あら、お礼なんていらないですよ」
「いや! させてください!」
「そんなに言うなら……。あ! ではアンスさん。明日の夜、いつもの公園で!」
「え? 私?」
「ええ。ダメですか?」
「いや。全然いいけど……」
「じゃ、お願いしますね〜」
行ってしまった。
「ハルト君。私たちも帰ろ」
「そうね。私がサフランの討伐を報告しとくわ」
「助かるよ」
「それにしても……」
「どうした? サザン」
「いや。なんか怪しいなって」
「おいおい。マズミさんがなにもする訳ないだろ」
「そうだといいけど……」
「サザン。そんな不穏なことは置いといて、あなたハルトに膝枕してたわよね」
「え?」
「私の膝枕の方が気持ちいいから!」
こいつなに対抗心燃やしてんだよ。
「まあまあ、あなたたち。帰りましょ」
「アンスの言う通りだ」
「そうだ! 今晩は豪華にステーキなんてどうでしょう」
「アンスにしては羽振りがいいな」
「魔王の幹部を倒したってなると町のみんなから一目置かれるわ! これでお父さんにも近づけたかしら」
「だといいな」




