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11 三体の番犬


 「人いっぱいだね」


 「そうだな。ギルドハンターってこんなにいたんだ」


 「私、とりあえずどんな依頼が来てるか見てくる」


 「分かった。俺たち三人はここで待っとくよ」


 アンスが人込みの中に消えていった。


 「ねえ、ハルト。なんかみんなピリピリしてない?」


 ヘデラからそう言われ俺は改めて周りの人を見回す。

 確かに全員とは言わないが、ほとんどの人が緊張感をもっている。

 目つきも、普段のこの町では考えられないほどの鋭さだ。


 「ハルト君。そんな装備で大丈夫か?」


 どこかで聞いたことがある言い回しだな。


 「ああ、俺の装備はこの剣一本だよ」


 「安っぽい剣だけどね」


 「ヘデラは黙っとけ!」


 この町では一番の破格を求めた剣だが。


 「そういうサザンはロンT一枚でいいのか?」


 「私はこれがしっくりきたから」


 「そっか。前の服は?」


 「あれは夜に取っといてる」


 「え? 誰のために……?」


 「冗談だよ。人間の世界ではあれはさすがに着ないかな」


 あの露出度の高い服での戦闘姿は見たかった。

 そう言っているうちにアンスが一枚の紙をもってきた。


 「これはどう? 私たちの実力ならこんなもんだと思うんだけど……」


 ‘‘三体のケルベロスを討伐せよ‘‘


 「三体のケルベロスか……合わせて九首だな」


 「そうね。九尾みたいだわ」


 「なに言ってるか分からないけど、相変わらずハルトとヘデラは呑気ね」


 「ねえアンス。ケルベロスって群れないんじゃないの?」


 サザンがそんなことを聞く。


 「基本は群れないと思うけど……今回は異例だからね。多分すぐ見つかるよ」


 「そっか。じゃあ行こう」


 アンスとサザンが先陣を切って歩いて行く。

 俺もあの自信を見習わないと。


 「なんかあの二人を離れてみると姉妹みたいね」


 「俺も思った」





 「ここにいるといいな~」


 「おい。ヘデラ。ちゃんと探せよ」


 「ギルドによるとこの辺から探知されたって聞いたけど……いなくなったのかしらね」


 それだと無駄足になる。

 頼むからなにか成果の一つでもあげたいところだ。


 「ねえ、あそこにいるのって……」


 サザンが指を差す。


 「いたわね」


 茂みの中で見えにくいがそこには確実にいる。頭が三つの犬。いや狼といったところか。威嚇と怒り、そして威厳の三つが合わさったような顔をしている。


 「静かに!」


 アンスが口に人差し指を立てる。


 「こちらには気づいてないようね」


 するとアンスが身を屈め低姿勢で俺たちを見る。


 「あなたたちはここで待ってて……不意打ちのチャンスだわ」


 「分かった」


 「気を付けてね。アンス」


 アンスがケルベロスに近づく。


 「ねえ、ハルト。ケルベロスって頭が三つだからあそこも三つなのかな」


 「おい! 今喋る場面じゃないだろ!」


 「ハルト君。静かに!」


 とっさに口を閉じる。

 ケルベロスのいる方向を見るが、こちらには気づいていないようだ。


 「ヘデラ。次余計なこと言ったらあのケルベロスのエサにするからな」


 「分かったから。そんな目で私を見ないでよ」


 「ハルト君。もうすぐアンスが攻撃するよ」


 本当だ。アンスの右足には赤いオーラが纏っている。


 「いちにのさん!」


 するとこちらとは反対側を見ていたケルベロスのお尻に強烈な一打が下された。


 「ギャオオオオオーン!」


 「うわ! 今のは効いたぞ!」


 その証拠にケルベロスが遠吠えのような悲鳴をあげた。


 「よし! みんな! 総攻撃よ!」


 「任せろ!」


 俺も剣にバフ魔法をかけてケルベロスに向かう。


 「おりゃ! くらえ!」


 剣を振りぬくが思ったより重い。

 かなりぎこちないスイングでケルベロスに攻撃する。


 「ギャア!」


 が、バフ魔法のおかげか刃がケルベロスの皮を貫いて肉に入る。


 「えー! 俺こんなに力あったんだ!」


 「ちょっとハルト! なによそ見してんのよ!」


 「あ!」


 するとケルベロスと目が合う。

 三頭全部がこちらを見ている。

 怖い。まじで怖い。こんなやつとまともに相手するってバカだろ。


 「ハルト! 危ない!」


 ヘデラの声をかき消すかのようにケルベロスの噛みつきが来る。 

 まずい! 俺の異世界生活が終わる!


 「あれ?」


 「間に合ったよ。ハルト君」


 ケルベロスが遠くにいる。


 「なにしたの?」


 「さらった」


 「まじ?」


 「まじ。そんなことより、戦闘中はよそ見はしたらいけないよ」


 俺は命の危機を感じた。

 さっきまでの呑気な空気が消えたことを分からせられる。


 「俺の剣が刺さったままだ……」


 「ナイスよハルト。あの剣の刺さった部位を見てごらん」


 ケルベロスの背中部分を見る。

 血が流れ落ちている。しかもそれが止まない。

 ケルベロスが必死に取ろうとしているが三つの顔がそれぞれを邪魔して取れていない。


 「身に直接入っているから、継続的にダメージを与えているわ。こうなったら相手が弱まるまで耐久よ。サザン! みんなの身体能力を上げて!」


 「分かった」


 サザンが手を振りかざした。

 その瞬間、俺の体が急に軽くなった。


 「よし。ナイスよサザン。私が囮になるからみんなはケルベロスに攻撃して!」


 「分かった!」


 するとアンスがケルベロスの前にきて挑発した。


 「かかってきなさい。犬の手懐けは楽勝よ!」


 「ギャウ!」


 するとケルベロスはアンスを捕まえようと後を追いかける。


 「よしヘデラ! 魔法攻撃だ」


 これができれば勝てる!


 「ヘデラ! 今だ!」


 あれ? 反応がないぞ。


 「おい! ヘデラ! どこにいる!」


 「ハルトー! こっちもやばいのよ!」


 さっきから一言も喋らなかったヘデラが叫び声を上げた。


 「なんかもう一匹こっちに来てるの!」


 ヘデラの方を見ると、そこには別の個体のケルベロスがいた。


 「うそ!? 流石に二体相手じゃ……」


 「任せて」


 するとサザンが別のケルベロスの方へと向かっていく。


 「サザン! 攻撃はどうするの!?」


 「こうするの」


 サザンがケルベロスを見つめる。

 そんなことして意味ないと思うが。

 あれ? なんかケルベロスが大人しくなっていく。

 するとサザンがそのケルベロスに近づき頭を撫でた。


 「できた」


 「え? なにしたの?」


 「催眠魔法」


 そういえばサキュバスは催眠魔法が使えたな。

 それで男の人を堕として生活してたからか。


 「今回は成功。相手が少し弱かったからかな」


 サキュバスってすごいな。


 「すごいわね! さあ、そのケルベロスをこちらに!」


 「分かった」


 するとアンスを追い回していたケルベロスに向かってサザンが手をかざす。


 「いけ。ポチ」


 ポチ? 名前か。

 ポチがケルベロスに向かって噛みついていく。、


 「魔物同士の戦闘って初めて見た……」


 アンスが驚きながら見ている。


 「ヘデラ! あの二匹をまとめて倒してくれ!」


 「分かったわ!」


 ヘデラが手の平を二匹のケルベロスに向ける。


 「食らいなさい!」


 ヘデラの手からケルベロスまでに一つの筋が出てきた。

 前と同じように雷が出てくる。

 ケルベロスに対して無慈悲な攻撃。相手は悲鳴を出す暇もなく灰となった。


 「ほい」


 やっぱり凄すぎる。


 「よし。あと一匹ね。この調子で倒すわよ!」


 「そうだな」


 「ねえ、ハルト君。あの茂みから何か音が……」


 確かに音が聞こえる。

 風まかせの音ではない。不規則に揺れる葉がこちらに知らせてくる。気をつけろと。

 その瞬間、茂みから三匹目のケルベロスが顔を出す。


 「探す手間が省けたな」


 「そうね……ってあのケルベロス。何か雰囲気が違くない?」


 「ハルト。なんかさっきよりもデカいと思うんだけど……」


 「確かに……サザン。催眠魔法は?」


 「無理。相手の方が格上」


 「まじか……となると自力で何とかしないとな」


 俺は剣を取ろうと鞘に手をやる。

 感触がない。


 「あれ? 俺の剣は?」


 「あ! 多分あそこの灰に……」


 「なにしてくれてるんだ!」


 こうなったら素手でやるしかない。


 「完全に主ね。ハルト! 囮になって!」


 「え!? 俺が!?」


 「引きつけたところに私が相手するからお願い!」


 仕方がない。


 「ハルト! 気をつけて!」


 ヘデラの心配なんていらない。

 アンスは今、右足にバフ魔法をかけていて、サザンがそれ手伝っている。

 それが完成するまで、俺がなんとかするのか。


 「ヘデラ! 俺がそこまで引きつけるから間合いに入ったら魔法を撃ってくれ!」


 「分かった!」


 ここからは俺の仕事だ。

 ヘデラの魔法で体力を削り、決めてはアンスの直撃でとる。


 「さあ、かかってこいよ……」


 腰を少し落とし、どこにでも動けるようにする。

 その瞬間、ケルベロスが猛烈な速さでこちらに向かってきた!


 「うわ!」


 危なかった。

 すんでのところで避けることができた。


 「アンス! まだ?」


 「もうちょっとだけ!」


 「ヘデラ! いつでも魔法は撃っていいぞ!」


 「分かったわ!」


 するとヘデラが詠唱をする。

 何言ってるか分からないが俺の役目は時間稼ぎだ。


 「よし! もう一回来い!」


 避けれる! こつを掴んできた。


 「ハルト! そこどいて!」


 ヘデラが魔法を使うぞ。


 「ほい!」


 すると小さい気泡がケルベロスに向かっていく。

 これ本当にダメージ入るのか?

 ケルベロスに気泡がふれる。

 その瞬間、爆発音と共に煙が舞い上がった。


 「やっぱ、ヘデラってすごいんだな」


 野暮な感想をしてるうちにアンスが煙の中へと走ってきた。


 「さあ、喰らいなさい!」


 右足は青い光を纏い、煙の中へと消えていく。

 あの金属音が聞こえた。


 煙が立ち込めた後アンスが徐々に姿を表す。

 その横には一つの首が折れているケルベロスの死体が横たわっていた。


 「いっちょ上がり!」


 「すご」


 「ハルト君もこれくらいできないとね」


 「いやいや……」


 「さ。そんなことよりさっさと帰りましょ」


 「そうね。この溜まってる欲求を早く解消しなきゃ」


 「よし! 帰るか!」

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