1 女神の戯言
メンヘラとヤンデレの違いは何か。
それは一言で表せられる。
ズバリ相手の為か、自分の為かである。
メンヘラは自分の為、ヤンデレは相手の為、その意思で行動する。
「おい! あいつ、またボケた顔してるよ!」
「ウケる~」
「寝たふりしてるのだってばれてんのにな!」
周りの声が騒がしい。俺だってお前ら一軍みたいになりたかったよ!
クソ! 早く学校終われよ! 俺には大切な彼女がいるんだ! こんな三次元に興味なんざねーよ!
最近、俺の彼女は少し愛が重くなっている。急に家に押し掛けたり、いきなり道行く人にガンを飛ばすし、どっかで選択肢を間違えたんじゃねーか? ただまたセーブポイントまで戻るのもなんだし……。
なんでこうも上手くいかないんだよ!
「はい! じゃあ気を付けて帰ってね~」
やっとこの地獄から解放された!
この帰り道もなれたもんだ。一目には一切つかない俺専用の帰宅路。
学校に馴染めなかった俺が辿り着いた唯一の答えだ。
「あれ? こんなとこに一人の少女がいる……」
なんでだ? いつも人はいない。いても俺に似たような人しかいないのに。
きっと何か裏があるに違いない!
助けよう!……とはいかない。
こんな所で少女と二人って、傍からみたら事案じゃないか!
こうなったら持前のスルースキルでここを通りぬけるぞ!
「三軍にも入れなかった俺をなめるなよ……」
少しずつ、少しずつ、小さい足音で歩いて行く。
なんかこの少女、不自然だな。さっきからびくともしない。俺の声にも反応しなかった。
こうなったら去り際に表情でも見とくか。何かスッキリするかもしれないし。
俺は少女を通りすぎるときにちらりと横目で少女をみた。
「は!?」
思わず声が出てしまった! 顔が不気味すぎる。目は下を向いているが口は笑ってる。その口角も尋常じゃないほどに。
「お兄ちゃんのば~か」
ふと目が合ったと思ったら急になんてことを!
こうなったら分からせるしかないようだな……。
なんて思っていたら急にナイフを繰り出した!
「え!? ちょっと待っ……」
その驚きを遮るようにナイフが俺の腹を突き抜く。
なんかこの展開……見たことあるな……。あぁ、俺の彼女のバットエンドもこんな感じだったな……。
腹に溜まっていた血を愛撫する。
手が真っ赤に染まっている。
「なん~だ! 人ってこんな簡単に倒れるんだ!」
そう言い謎の少女は俺の腸をつかもうとしてきた。
「やめ……まっ……」
そう言い切る前に俺は意識を失った。
「ええ、任せてください。この子、ハルトは私が導いて差し上げます」
そんな声が聞こえた。
意識がもうろうとする。ベッドに横たわっている中、ゆっくりと目を開ける。
知らない天井だ。俺は助かったのか……?
「あれ? もう目が覚めたの」
その言葉を聞き目をやる。そこには綺麗な金髪の美少女がいるではないか。
「もうちょっと楽しみたかったのにな~」
意味が分からない。
「あの……ここは……。俺はあの後、どうなったんです……? というか俺、死んだんです……?」
「ええ死んだわ! 見るも無残にね! あの少女はあなたの腸を舐めまわしたりしてたわ!」
さすがに死ぬか。無理もないな。というかあの少女はそんなことしてたのか……。
「ここは?」
「ここはあの世とこの世の間って感じね。死んだ人の魂を導くの!」
ずいぶん元気な人だな~。
「あら。人じゃないわよ。私は女神! ヘデラ!」
「人の心読めるの!?」
「ここにいる間はね」
俺は死んだんだ。どうせならこのヘデラとかいうやつに天国へと導いてもらおう。
「天国に行きたいのは山々だけどあなたは天国にいけないわ」
「なんで!」
「説明し忘れてたわね。あなたを殺したあの少女、実は転生者だったの。ただこちらのエラーでああいう性格になっちゃったの。あなたも不憫でしょうがないよね。よね!」
うるさい。ただただうるさい。
「その救済処置でね。あなたは別の世界に飛ばすの! いわゆる異世界にね!」
「異世界に? 天国はいけないの?」
「いけない。そういうルールだから」
腐ったルールだな。
「まあ、そう怒りさんな。あなたが好みそうな異世界に飛ばしてあげるわよ!」
「俺の好み? そんなの知ってるの?」
「あらあら、そんなこと聞いちゃうのね!」
かなり嬉しそうな女神だな。
「あなたのことは何でも知っているのよ! あなたが初めて寝返りを打った時、あなたが初めて喋った時、あなたが初めて歩いた時、あと他には~」
「もうやめてくれ!」
なんでこんなに知っているんだ! 怖すぎる!
「あなたが生まれた時にね! ビビッと来たのよ。その感触はまさに運命だわ。間違いない! それからあなたが死ぬまで見守ろうと決めたの。意外と早く死んじゃったけどね。でもこうなったのは本当に運命だわ! 神様、ありがとう!」
「神様はお前だろ……。あとさっきから俺のお腹をさするのやめてもらえます? なんか手触りがいやらしいんですが……」
「ああ! そうよね!」
焦ったヘデラさんは少し可愛いじゃないか!
「この異世界の魔王を倒したらなんでもいうことを聞いてあげる! 私が何とかして融通を聞かせるわ」
「魔王いるんだ……。俺好みの異世界じゃないか。もちろん魔法はあるよね?」
「ええあるわ!」
来た! こんな展開を待っていたのさ!
「そうときたら早速、チート武器やらチート能力なんかを俺に授けてくれ!」
そういうとヘデラは笑顔で固まったまま俺を見つめてきた。
「どうやって出すんだっけ?」
おいおい、まじかよ。こいつ無能だろ。
「無能とは失礼ね!」
そういえばこの場所は心の声が読めるんだっけ。
「あなたが死んだっていうから急いでこの場所に転職したのに……」
「どうするんです?」
悩むヘデラ。
「そうだわ! 私が一緒について行ってあげる! そうすればあなたと一緒にいられるわね! 名案だわ!」
「嫌です。ヤンデレチックな人はあんまり……」
「じゃあ、チートはなしね。自分の力で魔王を倒してくださいな。あと向こうの世界で死んだら地獄に行かせるから」
「一緒に行きましょう」
こいつ卑怯にもほどがあるだろ!
「そう答えると思っていたわ! じゃあもう早速転生するね!」
そう言い準備をするヘデラ。
なんか忘れてることがなかったっけ。
「さあ、準備ができたわ!行くわよ!」
思い出した!
「転生の時、エラーがあるんじゃないっけ……」
「ああ、大丈夫よ! ちょっと性格が変わるだけだから!」
あの少女の変わりようは異常だろ!
「もう後戻りはできないわ! せーの!」
その言葉が最後に聞こえ、目の前が真っ白に輝いた。