脱走
私は"F-2246"と生活することになった。生活を始めて三日が経った。
「なあ、お前、部屋の外に出たりしないのか?」
「はあ、あなたのせいですよ。あなたの観察をしないといけないので最低限の外出は控えているからですよ。」
「俺のこと無視しして出かければいいのに。」
「それができたら苦労しませんよ。あなたはこの研究所の最高機密事項と言っても過言ではない存在なんですよ。牢屋に入れることさえ最初は反論が多かったんですよ。結局あなたが牢屋に入るって言ったから上の人たちもなんとか納得していましたが、本来ならもっと厳重なところで管理されているんですよ。」
「まあ、それはいいんだが、さすがに三日も部屋にいると飽きるな。」
「はあ、わかりましたよ。上の人たちに許可をもらわないといけないので少し待ってください。」
私はすぐに上の人に連絡した。
「はい、MIRA-5ですが、どなたですか?」
「MIRA-6です。」
「あら、どうしたの?」
「"F-2246"が外出したいと言っているので、許可をもらいたく連絡しました。」
「そういうことね。構わないわよ。」
「いいんですか!?」
「ええ、ただ、条件があるわ。一つ目が"F-2246"から目を離さないこと。二つ目が"F-2246"と5メートル以上離れないこと。最後に"F-2246"が暴れた場合止めに入る。また"MIRA"の上位5名には連絡すること。わかったかしら?」
「わかりました。どの範囲なら行っていいのでしょうか?」
「そうね。普通の研究者が行ける範囲なら行ってもいいわ。」
「わかりました。では失礼します。」
そして電話を切った。
「許可が取れましたよ。」
「そうか。ありがとな。」
私は驚いた。"F-2246"は感謝などしないと思っていたからだ。しかも今回の件に関しては無理やり出ようと思えば出れたはずなのだ。
「なんだ?驚いた顔して。」
「いえ、てっきりあなたは感謝などしないものだと思っていたので驚きました。あなたなら簡単に出れたでしょう?」
「出ようと思えば出れたが、出た後"MIRA"の奴らと戦うのはめんどくさいからな。」
「そういうことでしたか。」
「てか、早く出かけたいんだが?」
「はあ、そうせかさないでください。わかりました。出かけましょうか。ただし私から離れないでくださいね。」
「わかったよ。離れたらめんどくさいことになりそうだしな。」
そして私は"F-2246"と一緒に部屋の外に出かけることになりました。
部屋を出て30分ぐらい経った。
「楽しくないですか?」
「お前と一緒じゃなかったら少しは楽しいだろうがな。」
「そんなこと言わないでください。これでも私は女性なんですよ?傷つきますよ?」
「前も言ったが、俺はお前のことを異性として見ていない。」
「ショックですね。」
「研究者を異性として見ろって方が難しい話だろ。」
「それはそうかもしれませんね。私もあなたを異性として見てませんし。」
「まあ、お前からしたら俺は実験対象だしな。」
「というか、お前って呼ぶのはやめてください。私には神谷夏鈴という名前があるんです。お前ではありません。」
「じゃあ俺のことも雪と呼べ。あなただとか"F2246"とか呼ばれるのは好きじゃねえ。」
「わかりました。これからは雪と呼ばせてもらいます。」
「じゃあ俺も夏鈴と呼ばせてもらう。」
そんな話をしていると放送が流れ始めた。
「避難警報。避難警報。先ほど実験室Fより"F-4053"が脱走しました。現在実験室G付近で逃走中。"MIRA"の方々はすぐに"F-4053"の確保、または殺害をしてください。」
「まためんどくさそうなことが起きましたね。」
「はあ、どうする?」
実験室Gは今いるところから遠いというわけではない。行こうと思えば10分程度で着く距離なのだ。
「雪はどうしますか?」
「暇つぶしになりそうだし、行くか。」
「わかりました。案内するのでついてきてください。」
そして10分後、実験室Gについた。ついたとき、実験室の前に立っている女性が見えた。女性は笑いながら何かを言っている。
「ハハハ、こんな凄い力を手に入れられるなんて。ここがどこかはわからないけど、こんな力をくれたことには感謝しないとね。アハハハハ。」
「あいつが脱走した奴か?」
「そうらしいですね。」
よく見ると実験室Gのドアや通路などに半径10センチ程度の穴があったのだ。
「おい、そこの女。」
「あら、なにかしら?」
「お前を捕まえに来た。拒否するなら殺すことも許可が出ている。大人しく捕まる方が俺的には楽なんだが。」
「ハハハ、私は神に近い能力を手に入れたのよ。神を捕まえることなんて不可能よ。」
その女性は笑いながら話していた。雪の顔を見ると呆れた顔で女性を見ていた。
「はあ、自分のことを神とか痛いこと言うなよ。」
「真実よ。私は巨大な力を手に入れたのよ。」
「はあ、じゃあその力で俺を倒してみろよ。」
「そんなこと簡単よ。」
女性がそう言うといきなり雪の後ろの壁に穴が空いた。
「な!なんであなたに穴が空いてないのよ!」
「お前の能力、多分《直線にある物体に穴を空ける能力》だろ?」
「!?なんでわかったのよ!そしてなんで穴が空かなかったのよ!」
「俺の能力の方がお前の能力より強かったって話だろ。」
「そんなことあるはずない!この力は最強の能力よ!あなた程度に負けるはずがない!
はあ、あの女性は相手が誰なのかわかって言っているのだろうか。相手はこの研究所の最高傑作にして最強の能力者なのよ。あの程度じゃ負けるはずがない。というか、あの程度なら私でも勝てる。
「雪、そいつは殺して大丈夫よ。能力もわかったし、また脱走されても面倒だし。」
「わかった。」
「な、なによ!私を殺せると思ってるの!あなたが死ねぇ!」
そしてまた雪の後ろの壁に穴が空いた。
「学べよ。お前じゃ俺には勝てねぇよ。」
雪がそう言った瞬間、目の前の女性は身体に穴が空き、その穴は正確に女性の心臓を消していた。それを見て私は、やっぱり雪は最強の能力者ね。と思うのであった。




