第94話
特訓を続けて数日、学校から帰ってきてはすぐに特訓という日を続けていた。
継続は力なりとよく言うが、たかが数日の継続では力になる訳もなく、身についている感覚もないままただ時間だけが過ぎていった。
やる気を出してやっていたつもりだったが、桜さんの目にはそう見えてはいなかった様で、アドバイスという名の注意をされた。
「できないと思ってやり続けるのであれば、時間の無駄だ。いつかできるようになると期待してやるのであれば、それもそれで多くの時を必要とするだろう。いいか、できると思ってやるんだ。私は無茶を言うほど馬鹿ではない」
僕から言わせれば、ただの精神論だった。だがその精神論以外に期待できる教育が無いのも事実。
やるっきゃない。その考えが頭をよぎってからは、特に思うことは無かった。下手に考えてもやることは変わらないし、これが出来るようにならないと先に進めない。
「僕なら…………できる!」
そう信じるしかない。数日の特訓で僕も桜さんの思想に染まったんだと実感した。
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過去の話。一人の少年は敬愛する己が神に無理難題を強いられていた。
力も弱い、打たれ強いわけでもない。何もない自分を前にしても、彼女は諦めず試行錯誤し1つの答えを導き出した。
その答えとは単純明快。弱いのであれば相手の攻撃に当たらなければいい。そうすれば死ぬことは無いだろう。そう言って彼女は私の目を塞ぎ言った。
「今から攻撃を仕掛ける。当たるな、避けろ。避けられなければお前が痛い思いをするだけだぞ」
それから始まった鬼のような時間。体の至る所に青あざを作り、する向いた膝をたわしで擦られ少し臭い薬草を練りこまれる毎日が続いた。訓練をどれだけ続けたかは覚えていない。だが長い時間をかけてやっと、目を使わずに攻撃を避けることに成功した。その時の彼女の笑顔はよく覚えている。
自分の事のように喜ぶ姿を見て、もっと強くなると心に誓った。この人を守りたい。またこの笑顔を見たい一心で。
そして現在。あの時の彼女の気持ちがよくわかる。
彼女も最初から信じていたのだ。私よりも私の事を理解していた彼女は、誰よりも訓練の成功を信じていた。
今の私も同じ気持ちだ。彼ならできる。自分の勘がそう告げている。
(この気配どこかで…………)
一度感じたことのある気配を気にしながら、私は彼の指導を続ける。
自分では何も見えないから分からないだろうが、丸太が彼に向かって動く瞬間、彼の体は一瞬反応している。つまり体は攻撃を察知し対応しようとしているのだ。だが精神がそれに追いついていない。自分には不可能だという思いが彼の力に蓋をしているのだろう。
勿体ない。そう言わざるを得ない。故にこの訓練を成功させた後の彼は、いったいどれほど強くなるのだろうかと疑問に思う。
精神が肉体に追いついたとき、今以上の力を得るだろう。それこそ今の五剣にも並ぶかもしれない。
(いや、それは無いか。今の奴らはツクヨミ様に鍛えられている。初代から受け継いできた剣術に加えてそれを昇華させ自分の物にしようとしている)
考えれば考えるほど、鼓動が速くなるのを感じる。
この訓練が終わった後、またあの天下の剣術を感じることができると思うと、今から楽しみで仕方が無い。
「ほらそこ!誰が寝ていいと言ったか!」
気絶した縁真を、ツクヨミ様がたたき起こしていた。
水をかけるとかならまだいいが、岩を投げて起こすのはどうかと思う。昔は自分も受けていたと思うと背筋に寒気が走る。
明らかに逆効果だ。余計に起きないだろう。
昔から変わらない教え方を見ていると、自分も参加したくなってきた。だがその気持ちをぐっとこらえて、今は彼の教育に専念することにした。
もっと強い衝動の為に…………。
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