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賢王の書~ ELSIUM OF EUPHORIA~  作者: LSABA
二章 華の国編
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話外 お詫びの一話

 町から遠く離れた「仁王山(におうざん)」と呼ばれる山。夜から明け方は濃い霧が立ち込め人の侵入を拒み、日中は干からびそうな程の高温のせいで人が立ち入れない。

 だがそんな劣悪な環境に居を置く変わり者が一人。今日も山に鉄を打つ音が響く。

 最低限の大きさしかない小屋。周りは火が燃え移らない様に木を伐採している。こんな寂しいところで一人作業をする彼の名前はスミス。神代と呼ばれるはるか昔から生きる「超人種」である。

 数多くの作品を世に生み出してきた彼。人生のすべてを鍛冶にささげた男であるスミスには、ある悩みがあった。この物語は、そんな彼が夢を叶える物語である。


 ————————————————


 朝から作業を始めて、何時間経ったんだろう。壁付近の温度が数度下がっているのを見ると、今は日が沈む少し前といったところか?

 一度手を止めて確認する暇は無い為、俺は鉄を打ちながら炉の温度を上げた。


「火の精霊よ、あと二度上げてくれ」


 何度も叩いて何度も焼いて、素材を変えて試して失敗して。それを繰り返した結果ただの鉄を打って剣を鍛えている。鍛冶を始めてから何年過ぎたのかはもう覚えていない。

「唯一無二の最高の一本」それを求めて鍛冶を始めて何本も打って鍛えた。自分の名前も忘れたころ、食糧と素材を持ってくる商人から、自分が神代(マスター)鍛冶師(スミス)と呼ばれていることを知った。同族の子孫に認められても達成感は無く、商人の息子のそのまた息子がここに来なくなった今も俺はこうして鍛冶を続けている。


「あ」


 バキッと高めの音が響き、完成間近の剣が折れた。

 失敗した…………。考え事をしながらやっても今までこんなことは無かったのに、やはり最近調子が悪い。

 壊れた剣を片付け一息ついていた時、古びた戸を叩く音が聞こえた。


「失礼しますスミス様。今週の食料と素材を持ってきました」


 礼儀正しくお辞儀をして入ってきた身なりの良い男。こいつは商人の子孫だ。俺の剣を買う代わりに食料と素材をこの山に持ってきている。こいつが来たということは、いつの間にか夜が明けていたようだ。


「お前か、すまないが剣をダメにしちまったから今回の分は待ってくれ」

「問題ありません。スミス様の作品は一本で豪邸が建つものもございますから…………しかし珍しいですね。スミス様がミスをするなんて」

「ああ…………それが—————」


 俺は事の経緯を話した。俺が鍛冶をしている理由も知っていたからか、少し悩む様子が見られる。俺も答えを求めていた訳ではなかったが、人に話しても特に変化は無かった。

 少しして、商人の手を叩く音が静寂を破った。


「小屋を出ましょうスミス様!」

「は?」


 急に意味の分からないことを言い出した商人に、俺がここにいる理由をもう一度説明した。だがそれを聞いた後も、目を輝かせて話を続ける。


「だからこそですよ、ここにいても成長を感じられないのであればこの小屋にいる意味は無いはずです。違う知識を学ぶなら一度もやってこなかった事をする必要があります。つまり!この小屋を出るのが一番です!」


 確かに一理はある。今までやってこなかった事は外に出ることだ。外で人間がどんな暮らしをしているのかも知らない。商人とも事務的な会話がほとんどだった。こいつが来るようになってから少し世間話をするようになったが…………。


「これからの納品はどうする?俺が小屋を出て学びを得るということは一所にとどまらないという事だろう?」

「安心してください。私共が行っている事業はほかにもあります。それにスミス様の刀剣には、先祖の代から恩恵を受けています。私共が今の地位を得ているのは、スミス様のお陰と言ってもいいでしょう。だからこそ一族の大恩人であるスミス様の考える最高という物を私も見てみたいのです」

「そうか…………分かった出よう」

「え?」


 俺が小屋を出ることを決意した瞬間。商人からは思わぬ反応が返ってきた。


「なぜ驚く。小屋を出ろといったのはお前だろう」

「いえ、もう少し悩まれると思っていたので…………」

「悩んで何か変わるのか?選択肢がそれしかないのなら悩むだけ時間の無駄だろう」


 やはりこいつらのこういうところは理解できない。不老ではないこいつらにとって時間は貴重な物のはずなんだが…………。

 決断した後の準備は早かった。俺は金槌と愛刀を持ち小屋を離れようとしたが、慌てた様子の商人に止められた。


「ちょっと待ってください!どこに行こうとしてるんですか?」

「とりあえず町に行く。あとの事は着いてから考えればいいだろう」

「路銀も地図も無いのにどうやって町に行くんですか!?」


 その日は人生で初めて説教という物を食らった。なんだ、まだ小屋で学べることもあるではないか。

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