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賢王の書~ ELSIUM OF EUPHORIA~  作者: LSABA
二章 華の国編
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第91話

「お主らが特別だと言っておった桜は、超人種というところ以外スペックに差は無い」


 超人種。寿命も長いし身体能力も高い。その他の力も通常の人類よりはるかに優れているらしい。


「桜はただの突然変異。普通の人間の両親が生んだ。じゃが、その当時は黒髪が普通だったせいで忌み子と恐れられ捨てられたのを儂が拾った。超人種と言っても寿命が長いだけの、いうなれば欠陥じゃった」


 桜さんは当時を思い出してか、少し悲しそうな顔をしている。


「力も弱い、魔力も少ない。可哀そうな子じゃった。姉上が居なくなった穴を埋めるように溺愛したもんじゃ。剣を造る勇気は無かったがの」

「え?じゃあその刀は…………?」

「儂がそこらへんで買ったただの刀じゃ。名刀でも神器でも無い。じゃが儂の神力を吸って丈夫にはなった。当時の桜と比べれば、お主たちはだいぶ恵まれておる」


 ずっと羨ましかった存在の衝撃的な過去。五剣全員が目を見開いていた。

 驚く者たちを無視して、ツクヨミは話を続ける。


「まあ、無駄話は置いておいて本題じゃ。儂はもう待つのを止める。五剣に失望したのは事実。待ってても意味は無い。故にここで一度原点に返り、儂がお主らに稽古をつけてやろう。初代五剣にした様にな」


 その言葉を聞いた瞬間。僕以外の全員の目の色が変わる。

 ツクヨミは不敵な笑みを浮かべ、桜さんは手をパチパチさせて喜んでいた。


「ですが、我らにはそんな資格…………。民も許さないでしょう」


 一瞬冷静に考えた縁真が、下を向いてそう言った。

 確かにそうだ。いくら神が許したからと言って、被害者が納得するかは別だ。逆に行き場を失った怒りがどこに行くか分からない。それは当事者が一番よくわかってることだ。


「それは考えがある。お主らは手足を縛って一日城下の広場に放置する。好きにしろと立札を用意してな」


 それはつまり?石を投げたり殴ったりしろという事か?許すといってた割にはむごいことをするな…………。


「まあ安心せよ。儂にも考えがある」


 ————————————————

 

 そう言ってツクヨミが笑ってから、すぐに次の日がやってきた。案の定、城下の広場には怒声と鈍い音が響いていた。


「国を守る武士のくせに!」

「あんたらのせいでお袋は死んだんだ!」


 等々、容赦のない攻撃が続いた。

 だが五剣の三人は一切抵抗も反論もせず、ただ謝罪をしていた。三人だけじゃなく、流水と光姫まで横に並んで頭を下げていた。二人は国を守ったことが民に知れ渡っているのでなにもされていないが、三人はひどいものだった。

 太陽が真上を通り過ぎ、沈んであたりが暗くなり始めたころ。桜さんとツクヨミがやってきた。そして三人の無事を確認し、集まっていた民たちに向かって口を開いた。


「お主たちは、誰も殺さなかったのだな。家を焼かれ家族を殺した憎き相手を前にしても、誰一人として…………なぜじゃ?」


 その問いに、答える者は誰も居なかった。決してツクヨミを恐れているわけではない。誰一人として、その理由が分からないだけだった。

 

「教えてやる。それはお主たちが優しいからじゃ。臆病だからではない。ただ失う悲しみを知ったから、たとえそれが誰であろうと同じ気持ちにさせたくないと心の奥でそう思っているのじゃ。故に、こうしてこやつらは五体満足で生きておる」


 誰もがツクヨミから目を離さなかった。一人として目をそらさず、ただツクヨミの声を聴いていた。


「儂が言えばずるいのかもしれぬ。だが言わせてほしい。こんなことは二度と起こさぬ。だからどうか、許してやってほしい」


 そういってツクヨミは、深々と頭を下げた。そこにいた全員が、頭を上げてくれと頼む。もう誰も、五剣なんて目に入っていなかった。神が頭を下げる。それだけでもう十分なのでは無いか?そう思い始めたのだ。

 いくら五剣を責めても死んだ者は帰ってこない。ならば今やっている行為は無駄なのではないか?そう考えているのかもしれない。


「神が頭を下げたことで一瞬怒りが消えました。そのおかげか、民達も神の言葉を信じる気持ちになったのでしょう」


 アイが耳元でそうささやいた。

 これが普通の国であったなら?王が頭を下げただけで民が許すだろうか?僕はそうは思わない。

 過去を見てきたわけじゃない。でも、積み重ねた信頼がこの景色を生んだのだろう。

 その日の夜。供養と埋葬が行われた。遺族一人一人に頭を下げて回る五剣とツクヨミ。最後には遺体の一部である髪を焼いていた。その大きな火の前で舞うツクヨミの姿は、小さいながらもこの間のような神々しさを感じた。ただ巻き込まれただけだったが、学ぶことが多かった気がする。

(これからどうしよう。巡礼用の、ケセドが循環器と言っていたあれも取り上げられたままだし……)

 結局僕は何をしていたんだろう?この一件も正直何もしていない。大事な話を聞いていたぐらいだ。

 そんなことを考えながら落ち込んでいる僕の前に、桜さんがやってきた。


「どうした小僧。落ち込んでいるのか」


 透き通るような中世的な声。その声が桜さんの口から発せられたものだと気が付いた僕は、驚いて大きな声を出してしまった。

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