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賢王の書~ ELSIUM OF EUPHORIA~  作者: LSABA
二章 華の国編
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第90話

 今より遠い昔、日元(ひげん)と呼ばれる国があった。

 村と呼ぶ方がいいほど小さな国であったが、住む人は皆幸せそうに日々を過ごしていた。

 その頃から女神は一日中国を眺めていた。だが、曇りの日など光の届かない日は見ることができず、どうしようかと悩んでいた時、そんなに気に入ったなら引っ越してこないかと言われたのがきっかけでこの世界に降り立った。

 女神が降臨したことで国は豊かになったが、同時に不幸も生んだ。

 豊かになる国を羨んだ他国が、女神の恩恵を求めて侵攻を始めたのだ。愛する子供たちが神の助けを求めても、女神は何もできなかった。

 女神の力を使えば戦争など簡単に終わらせられる。だが、移神(いしん)である女神は別の世界で力を使ってはならない。もしこれが破られることがあれば、本来の力を失ってしまうからだ。

 目を閉じて涙を流すしかできなかった女神の元を、5人の武士(もののふ)が訪れた。


「戦争を終わらせたい。愛する人を、愛する国を守りたいのです」


 そう願った武士を見て覚悟を決めた女神は、剣を送った。

 その時に約束を交わしたのだ。


「私の力を与えるのです、ならば貴方たちはその剣をもって国を守る義務があります。それは今だけではありません。未来永劫、この日元を守っていくのです。だから、研鑽を忘れることを私は許しません。奢ることなく技を継承し、そしてそれを昇華し更に強くなるのです」


 そうして剣を与えられた5人は後に五剣と呼ばれる様になる。女神との約束を約束を守り続けていた。だが、それは少し前から変わった。技を秘匿し継承した力に驕った五剣は、その日から一歩も前に進んでいない。だから女神は見限った。思えばそれが間違いだったかもしれない。自分の口で伝えていれば、見放していなければ、今とは違った未来だったかもしれない。


 ————————————————


「だからこの件の責任は儂にある。本当にすまなかった」

 

 神が頭を下げる。この国の人々はこの光景に何を思っただろうか。納得しない者も多いだろう。だが、その気持ちは良くも悪くも時が過ぎれば無くなってしまう。昔交わした大切な約束さえ忘れられるのならば……。

 鏡の接続が切れ、全ての鏡に映像が映らなくなる。それと同時に疲れてぐったりするツクヨミを、桜さんが心配そうに支えていた。

 

「まだ、お主らには話しておくことがある」

 

 そういったツクヨミは、桜さんの手を借りながら僕らの近くに座った。


「民に教えた話も嘘ではない。じゃが、少し違う—————」


 女神の力は、自分の光が届く時下界の景色も見ることができる。だから日中ずっと眺めていた女神は名をアマテラスと言った。


「ツクヨミー。夜も見たいのです。貴方の鏡を貸してください」

「姉上……。一日中眺めていて飽きないのですか?」

「はい。あの者たちは心がとても美しい。きっと大きな国になります」


 それから時が流れ、儂ら()()はこの世界にやってきた。


「ああ!やはり自分の目で見るのは違いますね。ほらツクヨミも!」

「私はここで休んでいるので勝手にしていてください」


 女神とはそこにいるだけで周りに影響を及ぼす。豊穣の力も持っている姉上は、国の発展を早めた。当然信仰対象になる。見えない主神でさえ信仰されるのに、会えて話せる神が崇められる早さは異常なほどだった。

 だが、戦争が起きてしまった。

 姉上はすぐに助けようとしたがそれを止めていたのは儂だった。


「忘れたのですか?力を失うのですよ?元いた世界とは訳が違うのです。ここでは力は生命力です。最悪存在が消えてしまう!」

「それでも……!目の前で苦しんでいるのに……」

「姉上は、私に1人で生きろと言うのですか?」


 ずっと一緒だった。好き嫌いも全てを理解しているつもりだ。だからこそ、姉上の辛さも覚悟も分かっていた。だから、儂も覚悟を決めた。


「止めないのですか?」

「……姉上がそう望むなら、私はもう何も言いません」

「ありがとう。でもツクヨミ、私は消えません。この国と共に生き続け、約束通り未来永劫この国を守る存在になるのです」


 5人に与えられた剣。それは持ち主の心と精神と共に成長し、血ではなく魂に継承される神器。

 消えない炎、永焱剣(えいかのつるぎ)。全てを洗い流す豪雨、罪流剣(ざいなのつるぎ)。大地の怒り、憤土剣(ふんどのつるぎ)。日輪の栄光、光輪剣(こうわのつるぎ)。光を支える影、基影剣(きかのつるぎ)

 これら5本の剣は、我が姉アマテラスの与えた物。


「故に、お主らがあるのは我が姉のお陰で、儂は何もしておらん」


 ツクヨミに姉がいたことや、国の成り立ちなど、本にも載ってない様な貴重な話だった。正直僕が聞いてもいい話だったのかは謎だが、1つ気になったことがあった。だが、その疑問は僕より先に龍炎が口に出した。


「今の話、まだ整理ができませんが1つ気になったことがあります。力を使えば生命力を失うと仰っていましたが、まさに今使ったのは神の力なのでは……?それに船を支える力も……」


 そう、先程ブガンワの魔族を消し去った力はまさしく神の力だ。実際目に見えて疲弊している。だが存在が消えた様子はない。それにここに来る時に乗った船もツクヨミの力で浮いていると聞いたが……。


「さっきのやつは月光、自分の光を使ったから消耗はそこまでない。全盛期であればそこまで疲弊しないが、今ではこのザマじゃ。これが現世に干渉し物体を創造すれば話は別じゃ。どれだけ自分の力を使おうとほぼ力思っていかれる。いつも動かしておる船は魔力を使っておるし、核は魔石じゃ。神力を使わなければ問題はない」


 ツクヨミが言うにはどうやら神の力は使っていなかったらしい。それに昔であれば消耗はそこまでしないと言っていた。さっきの姿と何か関係があるのだろうか?

 

「ツクヨミ様。つまり我々は、神の期待を裏切ったと言うことでしょうか?」


 真剣な表情で考え込んでいた流水が口を開いた。

 確かに、さっきの話が本当ならば流水の言う通りだろう。目の前で姉が消えるのを見ていたツクヨミからすれば、五剣のした行為は裏切りに他ならない。


「正直儂は、あまり気にしておらん。神とはそう言う生き物じゃ、怒りというより無関心に近い感情じゃった。じゃが、姉上は違う。お主らが持つ刀は悲しんでおる。姉妹神である片割れがそうなってしまうと、儂の感情も引っ張られる。じゃからお主らが今すべきことは、刀と……剣と対話し力を引き出すことじゃ」

 

 ツクヨミがそういった直後、桜さんの目が少し輝いた気がした。

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