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賢王の書~ ELSIUM OF EUPHORIA~  作者: LSABA
二章 華の国編
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第89話

 一通り事情を聞いて、考えを纏めていた時。誰かに頭をしばかれた。


「いったあ……誰だよ!」


 振り返るとそこには仁王立ちする桜さんと、その上に乗るツクヨミの姿があった。

 不満そうな顔をしているツクヨミとアイコンタクトをした桜さんが僕の頭を叩くのは、それから数秒後の事だ。


————————————————


 目を覚ました流水と隣に座る僕。一番頼りになる千代さんは席を外していた。

 というか物理的に城の最奥である月輪の間というツクヨミの部屋に連れてこられた。流水が目を覚ましたのはこれも物理的に桜さんがたたき起こしていた。


「で、流水よ。此度の件お主はどう考えておる」

「龍炎の周りに、三の大陸の国の者が頻繁に会いに来ていました。そこから考えや言動がおかしく……」

「ブガンワの奴らか」


 ブガンワ。丁度華の国と海を挟んで向かい合ってる国であり、魔族の侵攻を受けている三の大陸にある国だ。


「前回依頼を突っぱねた腹いせか?それにしても……いや面倒じゃ、桜。十分であ奴らをここに連れてこい」


 1回頷いた桜さんは、瞬きの間に姿を消していた。

 それから丁度十分ぐらい経ったころ。縄でグルグル巻きにされて、顔に少し独創的な落書きをされた五剣の三人と、特に拘束もなにもされていない女性が部屋に入ってきた。


「桜。十分前に来れたのなら早めに来てもいいんじゃぞ?それになんじゃそれは、猫か?」


 大きく何度も頷く桜さん。どうやら正解らしい。


「で?龍炎。此度の件はどういう事じゃ?」

「チッ」


 縄で縛られて正座をさせられている三人。顔に落書きがあるせいで真剣な場面なのに笑いそうになるが、ここはぐっとこらえる。

 

「では質問を変えよう。なぜ民を攻撃した?」

「それはお前が……!いや、何故だ……?」


 混乱している龍炎。それと同様に青い顔をする二人。


「はあ……少々神気を当てるだけで解ける洗脳に踊らされるなど、お主らの大好きなご先祖様が見たらなんというかの?」

「は?洗脳……?どういう……」

「光姫、説明してやれ。この手の事はお主のほうが得意じゃろ」

「は、はい!」


 桜さんと一緒に入ってきた白装束の女性。髪は黒くて綺麗で、瞳も金でとても輝いている。どうやらこの人が最後の五剣らしい。


「魔族特有の洗脳支配です。対象者の負の感情を増幅させ思考を鈍らせるものですが、術者は中級ぐらいかと思われます」

「だ、そうじゃがお主ら、言いたいことはあるかえ?」


 三人の顔がみるみる青くなっていく。そしてほぼ同時に頭を床にたたきつける勢いで土下座をした。


「も、申し訳ありません!」

「たかが中級魔族程度に操られ国を襲った罪は重い、よってお主らの称号を剝奪し——————」


 最後の言葉を言いかけたツクヨミの口を、桜さんが勢いよく塞いだ。驚いた様子のツクヨミは桜さんの目をじっと見ている。ん?桜さんの目?

 仮面を外した桜さんの桃色の目が、悲しそうにじっとツクヨミを見ている。


「……わかった。分かったから離せ。お主はそこの馬鹿どもの縄を解いて顔でも拭かせておけ。そんなんではまじめな話も出来んわ」


 数分後。真剣な表情のツクヨミが、ようやく口を開いた。


「今考えれば腹が立ってきた……。儂の子らをよくもまあ操ってくれたものじゃ」


 わなわな震えながらツクヨミは一枚の鏡を取り出した。そこには洋風の城の外観が映り、ゆっくりと内部に拡大されていく。玉座の間だと思われる部屋には数名の人がいたが、その全員からうっすらと黒い靄が出ている。

 映像は切り替わり町の住民も映ったがすべての人が同じように靄を出していた。


「やはりもうすでに魔族に乗っ取られているではないか……。ならばどうしようと儂の勝手じゃな」


 ツクヨミの体が一瞬光ったかと思うと、その姿はもうどこにも無かった。代わりに先ほどの鏡にツクヨミの姿が映されていた。

 ………………

 …………

 ……

 

 上空から自分の国を見渡す。儂たちが愛した国。それはまるで昔のように、恐怖と暗闇で満ちていた。いくら約束を違えようとも、子は子。成長を促すには少し厳しくせねばなるまい。そう考えていたが……。


「どうやら間違えたのは儂だったらしい」


 ツクヨミの体が眩い程発行し、その姿を変える。髪は長く体は大きく。その妖艶な見た目はまさしく女神であった。


「これは暫く、大きなことは出来ないな」


 ツクヨミの周りを漂う無数の小さな鏡が、華の国の民一人一人の元へ飛んでいく。


「華の国に住まう。我が子らよ。此度の謀反。五剣を誑かした者達がいます。五剣の三名に非が無いとは言いませんが、この者達には私が罰を与えます。なのでどうか許してあげてほしい。死んだ子らを生き返らせることは、私にはできません。だから、貴方達の無念を……私が代わりに晴らしましょう」


 姿が変わったせいで、あの女性がツクヨミだと分からない者達は、誰一人として居なかった。月明かりに照らされるその神々しさを、脳が理解している。このお方が、我らが王であり、月の女神だと。

 映像が切り替わり、そこにはブガンワが映し出される。そこの住民が放つ異様な気配を見て、誰もが息をのんだ。

 ツクヨミの姿は見えなくなったが、目視ができる者達は少なからずいただろう。城下の民たちや、ケント、桜は今のツクヨミの姿を見て泣いているだろう。かつて自分を拾ってくれた、母の姿を……。

 舞。どこからともなく鈴の音が聞こえてきそうな、優雅な舞。長い髪と美しい着物が揺れ、光り輝いている様に見える。段々とゆっくりになる舞が終わるころ、ツクヨミは両手を合わせた。


「月光」


 1回。確かに鈴の音が耳に響いた瞬間。ブガンワを映していた鏡が眩い光を放ち、そこにはもう人のいない都市しか残っていなかった。

 ツクヨミも元の小さい姿に戻り、少し疲れた様子で部屋に戻った。


 ————————————————


 戻ってきたツクヨミは、鏡を残したまま話を始めた。

 昔、まだ国ができる前の話を…………。

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