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賢王の書~ ELSIUM OF EUPHORIA~  作者: LSABA
二章 華の国編
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第88話

最近曜日感覚がおかしい気がします

 少し短い刀を逆さ持ちし、姿勢を低く構えている黒装束。僕は刃を使って攻撃を仕掛けているが、そのすべてを難なく回避している。不気味なのが、攻撃を一切してこないことだ。

 こちらを観察しているのかそれともほかの目的があるのか、その真意は分からない。こちらが無数の刃で攻撃しても最小限の動きで防いでいる。明らかに実力は僕の数段上だった。

 

「気配からして魔法使いか?さっきからこの刃しか使ってないところを見ると、同時に魔法は使えないのか?それとも使えるが意味がないと判断しているのか」


 魔法も同時に使おうと思えば使えるが、僕の処理能力が足りずにどちらかが崩れて隙ができる。そうなるぐらいならこっちで戦っていたほうがマシだ。

 もっと刃を多く鋭く速く。それについていけるように自分も無理をして。


「やはり警戒の必要は無いな。ここで死ね」


 破断の裏からの刺突。完全に死角だったその攻撃を防ぐ術を僕は持っていない。ライブラの援護も間に合わず、完全に積みだと思った瞬間。横から伸びた刀身が、ギリギリのところで攻撃を防いだ。


「き、貴様あ!やはり裏切るか!」

「裏切る?最初に我らが神に反旗を翻したのはお主たちであろう、冥帝(めいてい)!」


 見覚えのある姿と聞き覚えのある声。青い衣を纏った青年がそこにいた。

 

流水(りゅうすい)!?どうしてここに?」

「火消は私の役目でね。それに五剣の謀反ともなれば必然的に私が動く。逆に聞くが何故君がここに?この国にいるのは知っていたが……」


 心強い助っ人に驚いて気が付かなかったが、冥帝と呼ばれた男はいつの間にか姿を消していた。その事実に流水が慌てる様子はなく。ただ黙々と火を消して回っていた。

 消化が一通り終わり、怪我人や逃げ遅れた人がいないか見て回っていた。中には軽傷で済んでいた人もいたが、一生消えない傷を負った人や間に合わなかった人も居た。

 兵士達が到着したことで、流水は後のことを兵士に引き継ぎ、僕を連れて自分の屋敷に帰った。


「まあ、聞きたいことは多いだろうがとりあえず風呂に入ろう」

 

 流水がそう言いだしたときは驚いたが、汚れとか自分の血とかで凄いことになっていたので言うとおりにした。

 まさか一緒に入ってくるとは思っていなかったが、鍛え抜かれた肉体がすごく印象的だった。


「さて、先ずは現状だが……五剣の内三人。龍炎(たつえん)縁真(えんま)。そして先ほどの冥帝(めいてい)が謀反を起こした。私ともう一人、光姫(こうき)にも話は来ていたが、賛同したふりをして当日で計画の邪魔をした。そのおかげで城下に被害は出ていないが、君が抑えてくれていた冥帝の別行動のせいで数十名の被害が出た」

「…………」


 黙り込む僕を見て、流水はため息をはいて口を開いた。


「計画を知っていた俺たちでさえ間に合わなかったんだ。お前が気にする必要は無い。それにお前がいたから最小限で済んだんだ」


 顔を上げると、少し眉間にしわを寄せた流水の後ろに、一人の女性が立っていた。着物の袖をたすき掛けした美人さんだ。でもなぜだろう。美人で笑顔なのに流水の顔よりも怖いと感じる。


「貴方……そのすぐに腹を立てる癖やめたほうがいいわよ?」

千代(ちよ)!?何でここに——————」


 流水が何か言い終わる前に。お盆を使った攻撃が流水の頭に直撃する。そして、元々そのお盆の上にあったであろうお茶が綺麗に2つお盆の上に戻ってきた。

 拍手をしたいほどすごい光景だが、謎の威圧感が……。


「申し訳ございません。主人が失礼を……」

「い、いえいえ!お気になさらず!」

「ありがとうございます。あ、申し遅れました。私、妻の千代と申します」

「僕はケントです!」


 深々とお辞儀をする千代さんに合わせて、僕もお辞儀をする。地面と平行になるレベルでお辞儀をしたが、その時に千代さんの手にあるお盆が目に入った。

(あれ、さっきお茶が置いてあったよな?)

 まさかと思いテーブルの上を見ると、そこには流水と僕の前に置かれたお茶があった。

 速い!?置いた音すら聞こえなかったぞ!?


「では、寝ている主人に変わって私がお話をさせていただきます」


 遠い昔に、月の女神ツクヨミ様と我らの先祖である初代五剣が交わした約定。それを破らない限り、我が子であるおぬしらに平等な愛を与える。それが人と神の間で交わされた約束だった。こちらが守るのは、国と神。これを違えなければ、神は平等に我々を見ていてくださるはずだった。だが今では由緒ある我らが五家は軽んじられ、側近である桜には変わらず寵愛を与えている。これは不平等であると考えたのが五家筆頭の龍炎殿だった。賛同した他二名はならば国を滅ぼすと行動を開始した。


「話が飛びすぎでは?」

「そうです。数十年とこの国を守ってきた者達にしては、あまりにも考えと行動がおかしいのです。ですので私達はこの話には乗りませんでした。少なからず、主人にも同じ気持ちはあったでしょう。私の父、先代当主も同じ気持ちでした。ですがこれは明らかに異常、第三者の介入があったに違いありません」


 国を守ってきた英雄たちが、神様にかまってもらえなくて拗ねた。そして溺愛されてる桜さんに嫉妬した。ここまでは良い。よくは無いかもしれないがまあよくありそうな話だ。だが問題はその次、嫉妬するぐらい好きな神様がいる国を滅ぼす思考になる意味が分からない。

 こういう内乱時によくあるのは、他国の介入だろう。だがそんなに簡単に引っかかるのか?


「それにしても少し冷えますね。窓を閉めましょうか」

「ありがとうございます」


 千代さんが窓を閉めてくれたおかげで、少し部屋が暖かくなった。丁度肌寒いと思ってたんだよ。

 窓の外には、大きな月が浮かんでいた。その月の端っこが少し赤みを帯びているのに気が付いたのは、誰も居なかったかもしれない。

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