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賢王の書~ ELSIUM OF EUPHORIA~  作者: LSABA
二章 華の国編
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第86話

 一回戦敗退という結果に終わった僕は、落ち込んだ気分のまま城下を彷徨っていた。

 そんな僕を見かねてか、ライブラが慰めの言葉をかけてくれる。が、それが耳に入らない程、僕の頭はいっぱいだった。


「………重症ですね。今までが上手く行き過ぎた分、最初の壁が厚く高いせいでしょう」

「そういう………今はそっとしておくしかなさそうですねえ………」


 周りのお祭り騒ぎが雑音に聞こえる中、僕の目には茶色い地面しか映らない。

 そのせいか、目の前の人物に気が付かずそのままぶつかってしまった。


「あ、すいませ………桜さん?」


 白装束の大男。その方には少女が乗っており、その少女が僕に向かって一言「来い」とだけ言いそのままスタスタと歩いて行ってしまった。

 僕は何も考えず指示通りに後を追い、小さな小屋に辿りついた。その小屋に入った瞬間、周りの音が掻き消える。


「待っていたぞ。小僧」


 甚平で身を包んだ青い目の少年が、怪しげに笑いながらそう言った。

 ツクヨミより少し大きいくらいの背丈の少年は、ブカブカの甚平の袖をまくり、置いてあった木箱に腰掛ける。


「我の名はケセド。4番目のセフィラだ」

「どうしてもお主と話したいと言っての、仕方がないから連れて来たのじゃ」


 僕と話したい?一体どういう意図があって僕を呼んだんだ?


「単刀直入に言う。小僧、巡礼を諦めろ」

「え……?」

「先程の試合を見ていたが酷いものだった。あれではこの先の試練は確実に越えられぬ。であれば、早めに諦めさせるのも我らの役目なのだ」

「でも……まだ僕は――」

「そもそも、小僧は巡礼が何なのかは知っておるのか?」


 急な質問をされ、その答えも言えないまま黙る。

 そんな僕を見て溜息をつきながらケセドが答えた。


「巡礼。セフィラの欠片を集め、この循環器を完成させる者を探し出すシステム」


 いつの間にか僕のポケットから奪ったそれをもって、ケセドは続ける。


「今は3つしか穴が埋まっていないが、あと7個集めれば完成する。いいか小僧、これは選ばれし者が行うものでは無い。選ばれし者を探し出す行為、それが巡礼だ。かつて何千何万もの候補者が旅をし、そのほとんどがこの島で散っていった。我は意地悪を言うておるのでは無い。親切心でお主に言っておる。諦めないのも結構だが、今のお主に渡すものは何も無い」

「…………」

「返す言葉も無いか。では、これは預かっておくぞ」


 そう言って、ケセドは闇の中に消えていった。

 アイもライブラも、心配そうに僕を見つめる。嫌な空気が漂う中、ツクヨミが口を開いた。


「儂も、多くの旅人を見てきた。鎖国中も来たバカ者共は問答無用で牢屋にぶち込まれた。そのもの達に会いに行ったとき、皆同じように言ったぞ、これまでは順調だった。俺は神に選ばれたのに……と。何人かは、儂に飛びかかってきた奴もおっての、桜が始末した」


 淡々と話を続けるツクヨミの目は、少し暗かった。僕を見てそうでそうじゃない。

 どこか悲しそうな瞳を閉じて、ツクヨミは話を続けた。


「上手く行き過ぎた奴らは壁に当たれば直ぐに折れる。そこで折れたままなのか、折れたところを治して再度壁に向かうのかはお主の自由。ここが、分岐点じゃ」


 そう言い終えたツクヨミもまた、霧に紛れて姿を消した。残されたのは、祭りを楽しむ人々の声だけだった。


――――――――――――――


 御前試合も終わりに近づき、祭りも熱気を増していた。

 最後まで勝ち残るのはやはり五剣で、それを分かっていても華の国の人々は試合を見て楽しんでいた。

 周りの盛り上がりを見ると、今の自分が更にみじめに見えてくる。試合でも何も出来ず、旅の目的も奪われた。もう、このゲームをしている意味もないんじゃないか?

 そう思ってログアウトボタンに手を伸ばすも、それは寸前で止まる。

 アイとライブラ。2人の顔を見ると、そんな気も消え失せた。ずっと一緒に居てくれたアイ。腹が立つが一緒に居て楽しいライブラ。

(セフィラを探さなくても、旅は出来る。そう思い詰めることもないかな)

 一旦しっかり考えよう、ここまで来たんだ未だ諦めるのは早い。

 一度冷静になると、沈んだ気持ちも元に戻って来た。取り合えず自分のレベルを上げて、また挑戦すればいい。御前試合だけがセフィラに繋がる方法じゃないし、ここに居ればいつかは何とかなる………はず。今は落ち込むよりも何かをしていた方が百倍マシのはずだ。

 やる気を再点火し、今は息抜きで祭りを楽しむことにする。

 それにしても凄く賑やかな祭りだ。花火の音が凄いし、人の声も遠くから大きな声が聞こえる。まるで叫び声の様な大きな声が………叫び声?


「うわあああ!!」


 声のする方をよく見ると、真っ暗な空がぼんやりと赤く光っている。それだけでなく、黒い煙もわずかに見える。

 明らかに祭りのイベントでは無いだろう。多くの人がそっちの方向から走って逃げてきている。


「火事か………?じゃあさっきの音は爆発音か!」

「一先ず消火に協力した方が良いでしょう。あの様子だと直ぐに燃え広がります」


 この国の家屋はその間が狭い。そしてほとんどが木製の為、火事は最悪国全体に広がる。

 その最悪にならないために、僕は赤い空の方へ駆けて行った。

 

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