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賢王の書~ ELSIUM OF EUPHORIA~  作者: LSABA
二章 華の国編
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第85話

 御前試合に出場することが決定し、少し安堵した。

 このまま何も出来ずに終わってしまったら、ここで僕の旅も終わるんじゃないかと思ったからだ。

 ただ、出場できるということも、他人から与えられた結果にすぎない。それなのに喜んでいいのかと疑問におもう。

 自分が思っている以上に、良くない方法で進んでいるんじゃないのか?そもそも進めているんだろうか?

 最初と何も変わらないようでは、意味はないだろう。

 そんな考えが、頭の中を行ったり来たりしてごぢゃごちゃにしている。

 初めて自分で決めた目標の為に、諦めないと決意して試合の日を待った。


————————————————


 数日後、御前試合の時がやって来た。

 対戦相手はもうわかっているが、正直運が悪いのか良すぎるのか分からなくなる相手と戦う事になっている。

 その相手とは、五剣一の太刀。龍炎(たつえん)という女性だ。五剣は強くなる程番号が若いので、今代の五剣では一番強いという事になる。

 何者かの悪意を感じるが、だからと言って逃げることは許されない。


「いやあ坊主も運が悪いね。でも恨まないでくれよ?」


 上半身で、晒と袴を履いている所以外は素肌が丸見えな女性がそう言った。

 目のやり場に困りすぎる格好だが、そんなことはお構いなしに赤い眼がギラリと光る。


「この御前試合には開始の合図は無い。だからあたしから行くよ!」


 刀も持たず、その身一つで間合いを詰める。

 赤い髪が大きな炎の様に見えた。大きな……?


「おいおい、惚けてたら終わりだぞ!?」


 砲弾をモロに食らった様な衝撃が走る。その場から数メートルは後方に吹き飛び、地面に当たった衝撃で更にダメージを負う。

(おいおい……殴られた衝撃じゃ無いぞ……?)

 倒れた相手を待ってくれる訳もなく、そのまま龍炎は追撃を仕掛ける。

 流石に土壁で防いだが、2mはある壁のちょうど真ん中からヒビが入り、土壁が土塊に変わった。

 そこから顔を見せたのは、口の端を釣り上げて笑う女。

 再度放たれる拳が顔まで迫るが、破断の装備が何とか間に合い、長さを伸ばした破断で拳を逸らす。

 そこからは防戦一方。ひたすらかわして防いでの繰り返し、こっちから攻撃する暇は無い。

 はっきりいって強すぎる。大会で優勝したりして、自分も多少は強いと思っていた。だけど、そんなものは自惚れでしか無かった。少し大陸の外に出れば、自分の遥か上を行く化け物が居るんだ。


「良いじゃねえか坊主!だがなあ、観客も飽きてるからな……終わらせてやるよ」


 その瞬間、炎に晒されているような熱気を感じた。

 危険を感じ距離を取ったが、龍炎は動かない。

 龍炎の周りが歪んで見える。空間支配系のスキルか何かか?いや……これはどちらかと言うと……。夏の道路が歪んで見えるみたいな……。


「まさか……!?」


 ニヤリと笑った龍炎が、居合の型をとる。それと同時に龍炎を真っ赤な炎が覆う。


「我が名は龍炎!我が心に宿すは燃え盛る炎!敵を屠り灰に変える業火である!我が太刀は、猛る炎が如く!」


 周りの炎は龍炎の手に集まり、一つの刀となる。赤と黄色が混じったような色の刀。まるで刀を打ってる最中のように赤い。

 そしてここまで感じる熱気。刀の周囲はこれ以上の温度だろう。だからか、龍炎の額からも汗が流れる。

(こんなこと考えてる場合じゃない。急いで盾を構えないと!)

 バラバラになっている刀身を何とか破断のサイズに変化させ、龍炎との間に構える。

 だが、そんなものは無駄だと嘲笑うかのような一撃が放たれた。。


「そんなもので防げる訳ねえだろお!!?」


 金属を叩くような音がしたと思ったら、破断の剣身に赤いラインが入る。そこから燃えるように炎が吹き出し、破断が真っ二つになった。


「「「わああああああああ!!」」」


 歓声が上がり、それと同時に試合終了の合図が入る。

 僕は折れた破断を見ていることしか出来なかった。そんな僕の前に、龍炎が立つ。


「坊主、型にハマりっぱなしじゃ弱いままだぞ」


 そう言って僕の頭をわしゃわしゃと撫で回し、龍炎は去っていった。

 大会以外の方法を考えられるほど、僕に余裕は無かった。


「くそっ…………」


 歓声にかき消され、僕の捨て台詞は聞こえていない。

 だけど、僕の心には嫌な何かが残った。それが何なのかは、僕にはまだ分からない……。


――――――――――――


 観客席最上部


 赤い炎を眺める月は、大きなため息をついた。

 思い出すのは過去の景色。それと今を比べ、さらに大きなため息をつく。いつから変わったのか、それを思い出せないほど長い年月が流れた。


「つまらん……星の気配を感じ、もしやと思うたがあれでは話にならん。しかも、手も足も出んとは………本当に三段階目の巡礼者か?あれではそこいらの小石と変わらぬぞ」


 桜の肩に乗り、肘をついてそう言うツクヨミの言葉を、桜は無言で聞いていた。

 そんな二人のそばで、ケタケタと笑う声がする。


「そう言うてやるな。本当の巡礼はここから………逆にあれでここまで来られたのを褒めてやるべきではないか?」

「阿呆。あれは死ぬ気の努力をしていない証じゃ。見てくれだけ良いのが一番質が悪い」

「カカカカ………。縁に恵まれるのも、またその者の力の一つよ………」


 少し暗めの一室に、怪しく青い目が光る。その目が見るのは、旅する少年ただ一人。


「小僧。ここからが正念場だ」


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