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賢王の書~ ELSIUM OF EUPHORIA~  作者: LSABA
二章 華の国編
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第84話

劇的に読んでくれる方が増えたのに調子に乗って投稿忘れてました。

 決意したのもつかの間、僕は最初の壁にぶつかった。しかも結構高い壁だ。

 それは出場条件だった。


「あんちゃん。しっかり見てもらわないと困るよ。忙しい中手続きを進めて最終確認で必要な物が無いとか話にならねえよ」

 

 出場条件。華の国出身者、そうでないものは五剣か御三家。下十二家の当主の推薦が必要である。

 という大事な事が、下に小さな文字で書いてあった。

(嫌々、こういう大事な事はもう少し大きな文字で書こうよ。完全に僕が悪い奴になってるじゃん。見なかった僕も悪いけどさ………)

 出場者が多い中、その受付もまた多く、そんな忙しい中に僕みたいな奴が来たら怒るのも無理はない。ここは素直に謝って帰ろう。

 そう思って振り返ると、誰かにぶつかってしまった。

 今僕が当たった大きな壁と同じように大きなその人は、少し見覚えのある見た目だった。


「さ、桜様!?こんな所にどうして………ツクヨミ様の護衛は良いんですかい?」


 さっきの受付のおじさんがそう言うと、桜は袖から腕を出し丸を作った。

 大丈夫ってことかな?まあいいや。取り合えず別の方法を考えないと………。

 一応ぶつかった事に謝罪をした後、桜さんを避けて立ち去ろうとすると、桜さんに肩を掴まれて受付に戻される。

 そしてグイッと肩を掴まれたまま押された。


「え……?どうかしましたか桜様」


 桜さんは自分を指でさし、そして次に僕を指さした。

 

「ま、まさか桜様が推薦されるんですかい………?」

 

 そう言ったおじさんの言葉に反応し、首が取れそうな勢いで頭を上下させる桜さん。

 ビックリして振り返る僕を見つめる桜さんの顔が、少し笑ってるような気がした。仮面付けてるからこっちを見てるかも怪しいけど。

 

「「ええええ!!?」」

「懐刀の推薦だと!?こいつは荒れるぜ!」

「号外もの!号外ものでござる!!」

「おい爺さん!受付を速くしてくれ!一秒でも多く刀をふっとかねえと」


 並んでいた他の参加者が大盛り上がりし、軽いお祭り騒ぎになっていた。

 言う事を言い終えたとばかりに桜さんはその場を後にする。急いで受付を終えその後を追いかけるが、その姿は何処にもなかった。

 

————————————————


「何じゃ、嬉しそうじゃな桜」


 ツクヨミの足をしっかりと握り肩から落ちないように揺れないように動く桜。まるで宙に浮いてるかのように移動する桜が横を通っても、反応する人は一人もいない。

 

「あ奴の驚いた顔は面白かったのお。まあ、期待はしておらんが………。何じゃ、言い過ぎ?くくくっ。逆にお主は期待しておるのか?」


 ツクヨミにそう言われ、先程と同じように頭を上下させて頷く。その理由を聞かれた桜は、右手をツクヨミの足から離し月を指さす。


「成程。あの小娘の事か………。勘違いで儂の本体を切りおった馬鹿者の弟子なら、今のこの状況を変えてくれるかもと思っておるのか………。まあそうじゃな、儂も少しだけなら期待しておこう」


 二つに分かれた月を見上げながら、ツクヨミは考える。


「のお桜。お主もそろそろ御前試合に出たくはないか?」


 そう聞かれた桜は少しの間考えて、首を横に振った。


「何故じゃ、未だあ奴らとの約束を守るのか?もうあ奴らはお主との約束を破ったぞ?」


 そう言われても、桜は未だ首を横に振る。


「最近の試合はつまらん。昔の様な死合いではない………。桜、儂が出ろと命令しても出ないか?」


 桜はまた、首を横に振った。主の命令には逆らわないが、嫌々試合に出させるほどツクヨミも鬼ではない。

 少し不機嫌そうなツクヨミを肩に乗せたまま、桜は昔の事を思い出す。今みたいに大きくなく、身も心も小さかった時。

 ツクヨミを守り支える大きな背中が五つ。在りし日の………尊敬し同時に憧れていた五人の武士との約束を………。


「桜!お主は拙者達よりも長く生き、長い間ツクヨミ様にお仕えできる」

「そうでござる。今から何百年も鍛錬出来るでござる!」

「お主は確実に拙者達より強くなるだろう。だからどうか約束してほしい。拙者達もツクヨミ様との約束は絶対に違えぬ。だから、お主も誓ってくれ」

「拙者達を超えても、後ろを振り返らず、そのまま歩き続けて欲しい。必ず、拙者達も追いつく。もしできなくとも我らが子が孫が子孫が、いつか必ずお主と同じ領域に至る」

「もし離れすぎたら御前試合だけは出ないで欲しいでござるな!他の者のご褒美が無くなってしまうでござる!」

「まあそうはならないでござろう。今のままでは拙者達を超えるのも時間が掛かりそうでござる」

「ああ………。お主が口が利ければ、朝まで語り明かしたかった」


 大きかった背中を次々と見送った。

 老衰で、事故で、暗殺で、水害で、戦争で………。その度に自分が刀を家に届けた。家の者が欲しかったのは刀じゃないのに。

 今でも貰った仮面を持つと、鮮明に思い出す。


「忌み子お?見た目が少し違うからと言って迫害するのは弱虫の証拠でござる!髪が黒くないからとかは関係ない!」

「だが、そう思えるものは少ない。どれ、これをやろう。顔を隠しておけば、少なくとも今は何も言われまい」

「いつかお主を受け入れてくれる世になるまでの繋ぎでござる」


 あの時の事は、感謝してもし足りない位だ。だからこそ、私は約束を守り続ける。だって………破ったのは貴方達では無いから。

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