第82話
気配察知の習得を始めて数週間。現実では少し寒さが強くなってきていた。
ログインする前に暖房と加湿器をつけてからログインするようにしている。
今日も同じようにログインし、直ぐに修行を始めた。結局気配察知については何も情報が無かったので、現実の武道とかの資料を読み漁り、修行法を編み出した。
その方法というのは、目隠しした状態でひたすら気配を感じるという物だ。こんな方法で習得できるわけがなく、時間だけが過ぎている。
でもこれ以外ないし、とにかく続けるしかない。
「でもなー………。目隠しさせるだけさせて後は放置だし………。おいライブラ!サボってアイス食べるなよ!僕は真剣なのに!」
「バレました~?でもこのアイス美味しいんですよ—————ん?何で目隠ししてるのに分かったんですか?」
「え?」
いや、分かる物は分かる………。
ここで違和感に気が付いた僕は、目隠しを取りステータス画面を開く。
スキルの欄には、これまで習得したスキルと新たに気配察知のスキルが追加されていた。
「ええー!?これで行けるの?!うそでしょこれ」
「気配察知というより透視ですね。まあスキルの欄にそう書いてあるなら習得したという事ではないですか。良かったですね」
アイがいらん事言った気がしたが、取り合えずスルーする。
習得は習得だ、目的は達成した。この数週間は無駄じゃなかったんだ。終わり良ければ総て良し、周りから何と言われようと僕が納得しているから!
これ以上何か言われる前に、次の目標に向けて進む。大体の事を知ってるのは国のトップが多かった。だから今回もそうだろう。
次に向かうのはツクヨミの所、ツクヨミは城の一番高い所に居るらしい。ここから歩いて一日の所に城下町があるから、約二日は移動日になるだろう。途中の宿でログアウトしてまた明日進む感じだ。
「よし出発!」
「………まあいいでしょう」
「楽しみですね~。このアイスも本店が城下町にあるんですよ」
いい事を聞いたぞ。
城下町についたら先ずはその本店に行こう。
ついた後の楽しみが増え、その分足取りも軽くなる。
たわいのない会話をしながら歩いていると、移動手段の話が上がった。
最初から言ってることだが、このゲームの世界はとにかく広い。なのに移動手段が徒歩というのは、旅人という職業の僕には酷な話だった。
おさらいすると、今いる華の国の直ぐ近くにあるのが三の大陸。僕たちが今までいたのが二の大陸で、その北東位にあるのが一の大陸だ。その間には断崖という大きな谷がある。
そして、最近読んだ本で分かった事なんだが、どうやらもう一つ大陸があるっぽい。が、そこに国という概念は無く大自然が広がっている様だ。いつか行ってみたいとは思っている。
でも、この広い世界を徒歩で回り切るのは流石にキツイという事で、移動手段が欲しいのだが結局見つかっていない。
「貴方って馬とか乗れなさそうですしね」
「うるさいな………。そもそも馬が居ても色々困るだろ」
「餌と納屋、その他諸々でお金がかかります。金欠の私達には過ぎた移動手段ですね」
「………籠手」
「チッ」
ライブラが嫌な事を思い出すような一言を口にしたせいで、思わず舌打ちをしてしまう。
金銭的に見れば、あの籠手を売ったのは失敗だったかもしれないが、その後魔石も手に入ったし結果オーライだろう。
「使えない魔石ですけどね~」
「だーもう!そうだよ使えないよ!?でもレアなアイテムなんでしょ?」
この前ライブラに魔石を見せた時、ライブラは分からないと言った同時に、自分が分からなければ聖霊王ぐらいしか分からないと言った。
原種である聖霊王しか分からないものという事は、同じ原種が関係しているものでは無いかという事らしい。アイも同意見だったので恐らくそうなんだろう。原種とは世界が出来たころから生きてる化け物だ。それ関係のアイテムという事はレアアイテムだろう。
「使えないと意味はありません」
「仕方ないだろ?情報量が多すぎるんだ」
「情報量が多いというのも引っかかります。単純に内包するエネルギー量が多いだけなら、情報量何て紙一枚分にもなりません。ですがその真っ赤な石はマスターが悲鳴を上げる様な代物。正直に言うと私にはそれが本当に魔石なのかも分かりません」
「でもなー………イーシェナは魔石って言ってたし………」
彼女が言うにはこれは魔石、でもアイはイーシェナの事を覚えていない。
それもおかしなことだった。確実に彼女には何かあるのだろう。ライブラに聞いても分からなかったし、結局魔石の事も彼女の事も謎のままだ。
気が付けば辺りは暗くなっていた。丁度宿の明かりも見えたし、今日はログアウトしよう。
ここは中間地点。港町から城下町の半分の場所だ。明日のログアウト前には城下町にたどり着くだろう。アイスは明後日という事だ。
ライブラが食べていたアイス、楽しみで仕方がない。
感想待ってます!




