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賢王の書~ ELSIUM OF EUPHORIA~  作者: LSABA
二章 華の国編
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第80話

 無言の圧力を感じながら待つこと数分。体感では長かった時間も終わり、ようやく船が陸についた。

 二人は船が完全に停止し、安定したことを確認すると直ぐに動き出す。

 少女は桜の手を足場代わりに肩によじ登ると、ニカッと笑って言った。


「小僧、儂の顔を覚えておけ。月の女神にしてこの国の王、ツクヨミとは儂の事じゃ」


 月の光に照らされて、金の瞳が輝く。

 女神というにはあまりにも小さく、とてもそうとは思えなかったが、確かに吸い込まれる何かがあった。

 

「また会う事を楽しみにしておるぞ」


 僕が何かを言う前に、ツクヨミを乗せた桜は船から立ち去った。

 周りの人が騒ぎ始めるよりも早く、空気に溶ける様にその存在を消して……。


 ————————


 華の国に到着し、真っ先に行われたのは……宿屋の紹介だった。

 人気の宿から隠れた場所まで、数十種類の宿を説明されたのだが……。入国審査は無い?あ、そうですか。

 華の国に危険な思想を持った数名が入国しても問題は無い、という判断で審査の類は建国から今まで一切してないらしい。

 正直思っていた入国とは違ったが、難癖をつけられて入国出来ないよりは良いだろう。

 早速だが、さっき紹介された宿に向かう。

 僕が選んだのは、少し人通りが少なく静かな場所だ。大通りの奥の木々が生い茂る林の中にひっそりと建っている宿で、建物の見た目は旅館そのもので、掃除も行き届いていて綺麗だ。

 部屋数は少ないが、その分人との接触も少ない。利便性の面で人気があまりなく、部屋も五部屋中一部屋しか埋まっていなかった。

 

「遠路はるばるお疲れ様でございます。ここの主の明美(あけみ)と申します。ケント様でお間違いございませんか?」

「は、はい。そうです」


 薄い桃色の着物を着こなした女将さんが、玄関で正座して挨拶してきた。

 その対応の良さと、事前に聞いていた情報との違いに驚き、思わず言葉が詰まる。

(さっきの人の話じゃここの女将は五十代だぞ?どう見ても三十手前ぐらいにしか見えない…………)

 

「では、こちらへ」


 驚く僕を置いてけぼりに、部屋への案内が始まった。

 少し広めの部屋に案内された後、布団を敷き終わった女将さんを見送って一息つく。

 布団に寝転がってボーっとしていると、アイが居ないことを思い出し、急いでライブラを召喚する。

 契約した星霊は任意のタイミングで呼び出せるので、それを利用した移動方法だ。

 

「何時まで経っても呼ばれないので忘れたのかと思いましたよ」

「ごめんごめん。で?どうだった?」

「それがですね…………」


 アイが少し言いにくそうに話し始める。

 時は遡り三日前、それは急な事だった。ビナーがアイを呼び出したのだ。理由は定期集会、それも五百年周期のものだったらしい。

 アイは天法違反による権限剥奪を下されているのだが、それを取り消すようにビナーと他数名の発言があったらしく、それについての会議だった。

 ただ、権限が無いアイは移動手段が無いため、ライブラが同行し僕が一人になったのだ。

 

「どうしたの?」

「……神の発言で、棄却されました」


 アイはその時の様子を、僕に細かく伝えてくれた。

 

 ————————


「元々権限はあって無かったようなもの、それを今さら無くなったから返して欲しいとはどういう事だ」

「そうなんだよねー……そもそも天法違反でしょ?判決下したのも姉さんじゃん」

「ですから、十分反省しただろうしもういいでしょう。と言っているのです」

 

 ビナーは反対意見の二人にそう言う。彼女も本心でアイに判決を下したわけではない。

 ただアイの事を思っての行動だったのだ。別の者に任せればこれだけでは済まなかったかもしれないから。


「違反者に慈悲は無い。それがたとえ元守護天使だとしても、違反者は違反者」


 そう、絶対的法の番人。裁定者に任せれば、アイは無事では済まなかった。 

 勝手に話を進めたことに怒りを覚えている彼女がいる限り、この話は厳しいだろう。だが、神………ヴァーニが許せば済む話。彼の発言ですべてが決まるのだが………。


「んー。ダメかな」

「な………!?」

「おいおい、少し厳しいんじゃないか?」

「そうですね、元々巡礼の話を出したのは貴方では?それが達成されるための少々の違反なら許してあげてもいいのではないのですか?」


 言葉を失うビナーに、コクマーとケテルがフォローを入れる。

 神の許すという一言を期待していたビナーは、現実を受け入れられず混乱している。


「おいおい、初回チュートリアルの二人は黙ってろよ」

「あ?喧嘩売ってんのか」

「やめろ、見苦しい。貴様らが殴り合うのは勝手だが今は会議中だ」


 峻厳なゲブラーが喧嘩になりそうだったコクマーとイェソドを止める。

 舌打ちをするイェソドを鼻で笑いながら、コクマーはゲブラーに怒られないように静かになった。

 皆が静かになったのを確認した神は、口を開き理由を説明する。


「巡礼が終わって欲しいのは僕の最大の望みだ、でも簡単に終わっては意味が無い。だから彼がこれ以上外からの力を手に入れるのは良くないんだ。だからもしザフ君を戻して欲しいなら、彼から離れてもらわないといけない。元々守護天使だしね………で?どうするの?」

……………

………

「そう言った神に姉上は何も言い返せず、結局次の議題に移りました。私も何も言えず………本当に情けないです」

 

 本当に申し訳なさそうにそう言うアイを慰めて、その日はもう寝ることにした。

 直ぐに忘れることは出来ないだろうけど、別に権限が無くったってアイがアイなのは変わりない。最初から天使としてのアイと一緒に居た訳じゃないから。

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