第77話
四方を海に囲まれる小さな島国、一の大陸にも二の大陸にもどこにも属さない国。名を華の国という。
圧倒的武力で知られるその国は、生産性では他の国に劣る為、貿易で食料を賄っている。
見返りは伝統的な工芸品や、華の国特有の技術で作られた武器が主だが、稀に………戦場でその姿を見かける事がある。
肩には一人の少女を乗せ、戦場を駆け敵を屠る。
名を桜。華の国最強の男である。
何故そんな話をするのか?それは————————
………………
………
……
あれから数日が過ぎたが、未だに気配察知の習得には至っていない。
そもそも前の宿題の龍気解放も習得していないことを思い出したが、今はそれどころではない。この気配察知、難しいという次元じゃない。
そもそも何の理論も無い為本当に一人でどうにかするしかない。誰かに聞こうにも誰もいないし、今はセフィラの欠片を使った連絡も禁止されている。禁止というより封印に近い。いくら使おうとしても反応が無いのだ。電波が無い状態で携帯を使おうとしている感じに似ている。
これをやれと言われて渡された物に何の説明も無ければ、出来ないのは当たり前だが、出来る様にならなければ何時まで経っても目的は達成されない。
死ぬ気でやるしかない。それを分かっていてあの人も何も教えてくれなかったんだろう。
難易度が思ったより高く、そのせいで少し気が滅入ってしまっていた。
「少し気分転換に街に出ましょう。何か参考になることがあるかもしれませんし」
アイが気を使ってそう提案してくれた。
アイの言う通り少し別の事をしよう。出来ないことを繰り返していれば、気が滅入るのは当たり前だ。少し外の空気を吸いに行こう。
「そうだね、そうしようか」
「はい。では早速行きましょう」
アイに案内されて僕は街に繰り出した。
一度も見ていない場所を探して歩いているうちに、何だか楽しくなっている。さっきまでの憂鬱な気分が嘘のように街歩きを楽しんでいた。
そんな時、脇道に品物を広げている女性と目が合った。
「そこのお兄さん!良ければ商品を買っていきませんか?」
少し気分も良かったので、女性の呼びかけに応じそのまま店の商品を見る。
が、商品が一つだけしかなく明らかに売れ残りだった。しかもその商品、ボロボロの天秤だった。さびてるし所々金属じゃない物で補強されてるし、一気に買う気が失せてしまった。
そもそも天秤?話にならない。使いどころも無いし何よりライブラがちらつくのが癇に障る。
「申し訳ないんですが、やっぱりいいです………」
「そんな!お願いします、これを売らないと今日のご飯が!」
「いや………でも——————」
「こんな汚い天秤誰も買ってくれないんです!家で息子たちがお腹を空かせて待ってるんです!お願いします!」
押しが強い女性と押しに弱い僕。結果は分かりきっていた。
この天秤にしては高い五千円で購入。一気に気が沈んだ僕は宿に戻ることにした。
宿に戻り天秤を机に置く。
良く見てみると、修理していない部分は金で出来ている様だ。だが割合は無いに等しい。
どうせ金メッキだろうし、五千円は高すぎたな………。
「マスター。このマークは何ですか?」
アイが天秤の底にあるマークを見つけ、それを指さし聞いてきた。
どう見ても天秤座のマークだが、アイは知らないのかな?いや………線が一本多いな。
「汚れかな?」
横に真っすぐに入った線を親指でこすると、下の線が消えて見慣れたマークになった。
その瞬間、妙な気配がしたかと思ったら、天秤が光り始める。ボロボロと石の部分が崩れ、中から金色の光が覗く。
「今日はてんびん座の———————」
僕は今朝のニュース番組を思い出していた。ああ本当に占い何てクソだ。
辺りが急に暗くなり、天秤が弾け無数の星が飛び出す。それはゆっくりと形を成し、人になった。
背中側が半分以上肌が見えている真っ白な服。太もも辺りから足先まで切れ目が入ったロングスカートからは、長い足が見えている。
金髪金眼………見覚えのある整った顔は、無性に腹が立つ顔だった。
「あ、金メッキだ」
「な!?誰が金メッキですか!」
「うるせえ!早く帰れ!」
「何を言ってるんですか!契約で呼び出したくせに」
「………は?」
何を言っているのか分からないという顔をする僕に、ライブラが状況の説明をし始めた。
ライブラ曰く、十二の星霊は聖遺物と呼ばれる物を媒介にして僕たちのいる場所に存在する。いつもはあの神殿の様な所に居るらしい。
世界に散らばった聖遺物は長い年月をかけて変化し、見た目は粗悪なものになった。
その粗悪品が星霊と契約出来る物等誰が分かるのか、星霊の契約者は今まで現れなかった。
そもそも契約に足るMPが無ければ触ってもただの物らしい。だから昔は契約者が居なかった様だ。
触った瞬間契約完了とか新手の詐欺?クーリングオフ制度は適用されるんですか?
直視できない現実に頭を抱えながらも、どうにもならないことは分かっていた。
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