第72話
忘れてました
授業中、僕は昨日の事を思い出していた。
僕は鮮明に思い出せるあの赤い髪の女の子。だけど他の人は誰一人として覚えていなかった。
あれだけ目立つドレスや髪色で、オークション会場で目玉商品を競り落としたにも関わらず、僕以外の記憶からは最初から存在しなかったように綺麗に姿を消していた。
あの後色々考えたが、僕がプレイヤーだった事が記憶がある理由であると考えるのが妥当だった。でも引っかかるのがあの発言。
他にも年の割に落ち着いていたし、話し方もおかしかった。もしかしたら何十年も生きてたり………。
考えれば考える程謎は深まっていく。ただ一つ分かった事は、あの魔石が規格外という事だけだった。
解析を使用した瞬間、頭が割れる様な痛みに襲われた。
あの魔石に込められた魔力量、情報量が大きすぎたんだ。アルカナでもあれ程の痛みでは無かった。
流石に怖かったため、破断に付けるのはやめている。取り合えず良いのが見つかるまでB位の物を使おうと思っている。だからあれは永久封印だ。解析もしないと思う。
………それにしても寒いな。未だ秋に入りたて位なのに背筋が冷える様な寒さを感じる。
「賢人。立て、お前に椅子はいらん」
学校一怖い事で有名な科学の先生。
ピシッと決まったネクタイと眼鏡が似合う、外見から頭の良さがにじみ出ている男の先生で、名前は橋口先生という。
オールバックが似合う顔の整った先生と学校では有名だ。
寒さの原因がこの人と分かったのは果たして良かったのか分からないが、以後この先生の授業で考え事をするのは気を付けよう。
「よし、では授業を続ける」
こういう人って家に帰ったら何してるんだろう。
やっぱり仕事なのかな?まあ、僕には関係ないか………。
未だ開始から十分しか経過していない授業の終わりを待ちながら、腰をまげてノートを取った。
………………
………
結局終わる十分前まで座らしてもらえず、終わった後も二分位小言を言われた。
小言と言っても聞いていなかったところの簡単な説明が大半だったので、別に嫌な気持ちにはならなかった。見た目のせいで嫌な先生だと思っていたが、どうやらいい先生の様だ。
ただ間違えてほしくない。いい先生というだけで優しい先生なわけではない。その後数枚の宿題を渡されたのである。
「お前はゲームを良くしていると聞いた。死んだ魚の様な目をしていたお前が物事に関心を示すことはいい事だが、授業中に呆けて良い理由にはならん。安心しろ、私の説明を聞いていれば二十分もかからない。ゲームの時間加速も無くなったし安心だろ」
説明とはどっちの説明なんだろう?授業なのかあの二分の小言なのか?授業だったらその倍は時間が掛かりそうだ。
二分の方であってくれと願いながら、僕は帰路についたのだった。
案の定、一時間近く宿題に時間を使い、今日のゲームは無しにして眠りについた。久しぶりにゲームをせずに眠ったのだが、心なしか寝つきが良かった気がする………。
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翌日
朝一で持ってこいと言われた宿題を提出し、朝礼が始まるまで教室でゆっくりしていると、興奮気味の将太がやって来た。
嫌な予感しかしなかったが、そのまま逃げずにいると、またあのFAの雑誌を取り出して口を開いた。
「なあ、これ見ろよ賢人!浮遊城スフィア出現。Aランクパーティー三組と神剣のパーティーが挑むも全滅だってよ。流石に強すぎるだろ?こんなの誰も勝てねえよ」
浮遊城スフィア。六魔の一体であり別名を意思無き浮遊城という。
スフィアとは浮遊城を浮かしている下の球体の生物の事で、浮遊城はまた別物なのだが、城とスフィアを合わせて浮遊城スフィアと呼ばれている。
詳しい事は分からないが、浮遊城は旧科学時代の物らしい。下から見上げる事しか出来ないためその全容は分かっていないが、スフィアを囲む外装や攻撃手段が旧科学時代の物と一致するためその可能性が高い。
「初めてスフィアを横から取った写真がこれだよ。すごくね?これとかビルだろ、これは………何だろうな。まあでもSFみたいでカッコいいだろ?」
「え?ちょっと見せて」
将太から雑誌を受け取り大きく印刷された写真を見た。
そこには見慣れた景色が映っていた。高層階のビルらしきものや整備された道路、コンクリートに似たもので作られた建物等、都市部でよく見る建造物が多く存在していた。
前々から考えていたことの裏付けが取れたことだけでも大きな収穫だったが、驚いたのはそれだけではない。
都市の真下から顔を除くように存在するスフィア。大きな一つの目に真っ黒な球体。赤く光る瞳は、真っすぐにカメラの方を見ていた。
明らかに異質。科学の産物では無いような気がする。どちらかと言えばデガと似ている気が………。
「飛行能力は必須で攻撃される前に都市に降り立っても防衛機能が作動するらしい。攻略難易度は今のところ不可能に近いだろうね」
投稿してきた圭吾が話に入って来た。
スフィアの攻略論争は色々なところでされているらしい。現にここでも行われているんだが、この話は終わらない気がする………。
(こいつら、言い争うと長いんだよな………)
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