第71話
一週間後に開催されたオークションは、目玉商品が二つあった。
一つは聖遺物。これは僕が出品した物だが、こちらが一番の商品とされていたが、僕的にはもう一つの方が気になっていた。
その商品とは、魔石だ。そこらへんにあるようなものでは無い。等級がAオーバーの地龍の魔石だ。
出品者は秘匿されているが、龍を狩れる人なんて限られる。それこそ先生位の人じゃないと無理だ。ザックさんならいけそうだが、あの人はここでは活動してないはずだし違う。
じゃあNPCか?まあ誰が出品者にしてもあれは欲しい。籠手が高く売れたら僕も参加してみよう。
「さあ、五十万からですよ!どなたかいらっしゃいませんか!?」
会場が少し上品な感じだったので、もう少し静かな感じだと思っていたが、司会の人が元気いっぱいだった。
オルゴールが百万で競り落とされ、次が僕の出したミダースの籠手の番になった。
「さあ、皆さんお待ちかねの目玉商品。聖遺物の登場です!」
籠手を覆っていた布が取り払われ、金に輝く聖遺物が姿を現した。
会場がざわつき、それを見た司会者が嬉しそうに口を開いた。
「一千万からのスタートです!」
「千二百!」
「千四百!」
金額がうなぎ上りに上がって行った。
五千を超えたあたりで声が二人だけになった。
うち一人は如何にも貴族という見た目のダンディなおじさまだったが、もう一人は明らかに二十歳を超えていない見た目の少女だった。
どこかの貴族令嬢かな?口から飛び出る金額がとんでもない額だから多分そうだろう。
「五千五百」
「七」
「七千五百………!」
「九」
少女がそう言うと、おじさまは黙ってしまった。
当初の予定の二倍以上の額になった籠手は、九千万で落札されることになった。
これだけあれば魔石も買えるのでは?そう思いワクワクしながら魔石の登場を待った。
数分後、目の前には二メートル越えの大きな魔石があった。
「あれでは杖には付けられませんね」
「まあ龍だしね………大きいよね」
仕方なく九千万をインベントリにしまい会場を後にした。
気を紛らわすために暫く歩いていると、さっきの少女が歩いているのが見えた。
ニコニコ笑顔で大変ご満悦の様だ。腰まで伸びた真っ赤なくせ毛が印象的で、ドレスの色まで赤い。所々に黒い布と白いレースが混じっているドレスは、結構高級そうだ。
「兵士を呼びますよ」
「いやいや!そんなんじゃないでしょ!ちょっと、その目で僕を見ないで!」
そんなやり取りをアイとしていると、幼女が何者かに連れていかれそうになっていた。
うわ、これは不味いでしょ。ばっちり眼もあってるし。
「本当に兵士を呼びますか?」
「それじゃ間に合わないでしょ。行くよ」
周りに人もいないので僕が行くしかないんだが、相手は二人。うち一人は剣を腰に下げている。
破断の刃は少女に当たるといけないし、今回は棒だけで何とかするしか無いだろう。
「何だお前!死にたくなければ失せろ!」
「………」
はい失礼しますよっと。
案外弱かったので一瞬で終わった。
頭を殴って腹を付いたら終了。後は縄で縛って引きずって兵士の詰所まで連れて行った。
「大丈夫だった?」
「ん?ああ、すまんな。助かったぞ」
少し変わった喋り方をする彼女の名前はイーシェナというらしい。
保護者は居ないのかと聞いたが、「逆に保護する立場」と意味の分からないことを言われたので一旦考えないことにした。
「そう言えばお主、籠手を出品した者じゃろう。何故これを売ったんじゃ?」
「えっと………。魔石が欲しくてその為にお金を稼ごうとしたんだ」
「金?そんなものこれでいくらでも稼げるじゃろう」
「う………僕より必要としてる人が居ると思って………」
そう言った僕をキョトンとしてイーシェナが見ている。
流石に金メッキの籠手を売りました何て言えない。罪悪感が湧いてきたが、それをイーシェナの笑い声が吹き飛ばした。
「ハハハハ!気に入ったぞ!魔石なら私がやろう。ついでじゃ、私を覚えておくことを許してやる!ではまたな」
そう言うと、首に下げていたペンダントを豪快に引きちぎり、それを僕に渡して去って行った。
何とも変わった少女だったなと思いながらペンダントを開けると、そこには小指の第一関節位の大きさの石が入っていた。
真っ赤なそれはただのルビーに見えた。まあ、子供がくれた物だし大切にとっておこう。
「それにしても、この一直線の道でもう見えなくなったけど………足早くない?」
「マスター?誰の話をしているんですか?」
「え?誰ってイーシェナの事だけど」
「イーシェナ………?誰ですか?」
「誰ってさっきの幼女だよ。助けたじゃないか」
「助けた?先程は暴れる二人組を取り押さえただけでしたが………」
どういう事だ?忘れている?最初から存在しなかったみたいな反応しか返ってこない。
頭が混乱していた僕は、さっきイーシェナが言った言葉を思い出した。
「覚えておくことを許してやる」
気になってオークション会場に戻って司会者にも聞いたが、どんな人だったか覚えていないとの事だった。
明らかにただものじゃない。そう確信した僕は、宿に戻って魔石を解析することにした。
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