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賢王の書~ ELSIUM OF EUPHORIA~  作者: LSABA
一章 本当の始まり
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第69話

 朝、日の光を浴び。夜、月の光を浴びる。双極に近い存在が星。

 太古の昔より星は夜に輝き数多の生物を導いた。人も竜も悪魔も分け隔てなく道を示した。

 世界が生み出した存在の名は星霊。星の力を宿した古代種である。

 その古代種の頂点が十二体の星霊であり、全ての星霊の生みの親が始祖と呼ばれる原種。星霊王である。

 王の名のもとに下した命令は実に単純。

 他を見下さず。他を愛し。他を導き。仲間を守れ。

 星は数が多い。そのため王はルールを守るために必要な存在、十二星王を生み出した。

 そのうちの一体、天秤座のライブラ。均衡を守る彼女は物事を天秤にかける。何方かが傾くなら、その時は………………。


————————


 星空に浮かぶパルテノン神殿の様な作りの建造物から、誰かが出てきた。

 この場所はさっきいた場所ではない。明らかに別空間なんだが、この空間には目の前にある神殿と今僕たちが立っている小さな小島が浮いてるだけだった。

 神殿との間に道はなく、下まで星で埋め尽くされている。そんなところを目の前の人物は当たり前の様に歩いてきている。そこに道はない、浮いているのだ。

 よく見たら足すら動かしていなかった。

 整った顔で、見たことも無いぐらい綺麗な人だった。優しそうなたれ目から金の瞳が覗き、瞳と同じ金色の髪はさらさらで肩より下まで伸びていた。

 神々しいと思ったが………………何を着ている?


「アイ。僕の目がおかしい訳じゃないよね?」

「何の事ですか?」

「どう見てもジャージを着ているようにしか見えないんだけど」

「………そうですね、逆にジャージ以外に見えるなら、マスターの目はおかしいでしょうね」


 神々しさの欠片も無い緑色のジャージ上下のせいで、さっきの感動が一瞬にして失せた。

 もう少しでここに到着するぐらいで僕たちの視線がおかしい事に気が付いたのか、辺りをきょろきょろし始めた。

 そこまでしても自分の格好に気が付かないらしく、横から飛んできた蝶々の様な光が耳元でささやいてようやく自分の格好に気が付いた。

 顔を赤くして急いで神殿に帰り、戻ってきた時にはちゃんとした格好になっていた。乙姫の海外版みたいな格好だ。

 あの浮いてる布だけを取って神官服にくっつけたみたいな格好になっている。


「ゴホン………初めまして。私は天秤座のライブラと言います。急に呼び出してしまい申し訳ありません」

「あ、このまま行けると思ってるんだ」

「マスター………!口を閉じてください!」


 小声でアイに注意されて、自分が思ったことを口に出してることに気が付いた。

 急いで口に手を当てて塞ぎ、ライブラの方を見ると顔を真っ赤にしてプルプル震えていた。


「「「………」」」


 暫く気まずい空気が続いたが、ライブラの咳払いで会話が始まった。


「ケントさん。貴方は今お金に困っていますね?」

「え?まあそうですね」

「私の頼みを聞いてくれるなら手助けしてあげます」


 うわあ………。信用できないなー………。今の格好が初見だったら大丈夫だったけど、ジャージのせいで僕の夢も希望も好奇心もズタズタに引き裂かれたからな………。何を聞いても信用ならない。

 まあでも、この空間を見れば偽物じゃないことは分かるし、一応は話を聞いていた方が良いか。


「頼みって何ですか?」

「受ける、と言うまでは話せませんね」

「………じゃあやめときます」

「え!?何でですか!」

「いやあ………ジャージ…じゃなかった、お金は別にいらないかも………」


 全て言い終わる前にアイに叩かれたので口を閉じる。

 凄い目つきで睨まれるので仕方なく受けることにした。


「ありがとうございます………!実はお願いが二つほどあるんです」


 ………。まあ、アイとの話はまた今度にしよう。今は取り合えず聞くだけ聞いてみる。


「一つ目は天秤の修理ですね。最近調子が悪くてそろそろ直さないといけないんです。二つ目は料理を作って欲しいんです。貴方が食べている物はどれもおいしそうだったのでいつかお願いしようと思っていたんですよ。お願いしますね~♪あ、先ずは天秤からお願いします」


 そう言われた瞬間から、僕は無言になった。喋りたくなくなったのだ。これに何を言っても無駄な気がしたから。

 この場所から出るころには、きっと僕の中でこいつは馬鹿と認識してるだろう。

 一刻も早くここから出たいという願いが大きくなり、お金の事なんて忘れそうになった。ただ、願いを聞かないと終わる物も終わらないので素早く済ませる。

 先ずは天秤。これは誰でも治せそうな簡単な物だった。これが治せないって本当に星霊なのか?と思ったが、ふと考えが浮かんだ。

 これってただの口実なんじゃないか?と、ライブラの頭の中では天秤を直してもらったついでに飯を貰う。という筋書きが完璧に仕上がっているのだろう。

 つまりライブラの目的は飯で天秤はどうでもいいのでは?………いや、駄目だ。ジャージのせいで頭がおかしくなってる。相手は星霊だぞ?ケテル達と同レベルの存在だ。飯の為だけに人を呼びつけるわけがない。

 きっとそうだ………………。

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