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賢王の書~ ELSIUM OF EUPHORIA~  作者: LSABA
一章 本当の始まり
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第62話 銀紫

 それから俺は蒼と仲良くなりたいと必死だった。

 彼女の制服は名門校のもの、反対に俺の学校は校門に落書きがされている様な底辺中の底辺だった。

 だから俺は勉強した。一人称すら知的に変えて髪も黒く染め、彼女に少しでも近づくためにと必死で努力した。


「なあ龍二いー。そんなに勉強してどないするん?」

「いい大学に入る」

「ええー。俺と一緒にゲーム作ろうやあ、絶対楽しいってー」

「秋。邪魔をするな」

「冷たいわあ……」


 ひたすら机に向かい勉強し、大学を受験した高校三年の冬、秋は自分の会社を一刻も早く作りたいと高校を中退した。

 俺は無事大学に合格し、合格発表の日に蒼と再会した。再会と言ってもあっちは気づいていなかっただろうが、同じ学校に居るという事がたまらなく嬉しかった。

 大学でも彼女は変わらず、正義感が強く優しかった。だが、そんな人が損をするのが世の常、彼女の表情は日に日に曇っていき、綺麗だった長い黒髪も肩より短くなった。 

 それがいじめのせいだったと気づいたのは少し後、寒い季節に入った頃だった。

 体育館裏というベタな場所に一人で行く彼女が気になり、後をつけるとそこには初めて会った時と似たような光景が広がっていた。

 違うのは、庇われる子供は居らず標的になっているのは蒼という事だった。

 男二人に女二人、後ろに男が居て女がメインでいじめている。


「おまえさあ、調子乗んなって言ったよねえ?」

「い、いじめはよくないって言っただけでしょ」

 

 そう言った彼女の言葉に、昔の様な気持ちは乗っていなかった。

 言動から推測するに、いじめられている誰かを庇ってああなったのだろう。そして次は自分が標的にされ、ああなるまで追い詰められたと………。

 腹が立った。昔の様な彼女を奪ったあいつらにもだが、それ以上に今まで何も出来なかった自分に。


(何がふさわしいようにだ………。彼女を守るのが一番大事だろう!見守る?嫌われたくなかっただけだろう!)


 急いで間に入り蒼を庇う様に立つ。

 

「あ?どうした陰キャ君。邪魔だから退いてくれない?」


 男の一人がそう言う。その声にも不快感を覚えたが、手を出すのはまだ早い。


「失せろ、怪我したくなければな」

「………プ!あははははは!聞いたか今の?ああコワイ!助けてえ~~!」

「陰キャ君。悪い事は言わないから帰んな、な?」

「そうだよこんな不細工はほっとけって」

「不細工………?」


 ああ、もう我慢の限界だ。

 顔を近づけてきていた金髪の不細工を膝蹴りで倒し、それに驚いたもう一人の………彼女を不細工と言った男の顔面に拳を叩きこんだ。

 女二人は逃げていき、金髪の男が気絶したもう一人を抱えて去って行った。


「大丈夫ですか?」

「あの………ありがとうございます」

「蒼さん」


 俺がそう呼ぶと、蒼さんは不思議そうに顔を上げた。

 

「貴方は自分の正義を貫いている時が一番きれいだ。私はそんな貴方を見ているのが好きだ。だから、元気を出してください」

「もしかして、あの時の……」

「おい!そこのお前。ちょっとこっちに———————」

「不味い、もうチクられたか……すいません。少し失礼します」


 そう言って私は彼女を抱え、追ってくる警備員を撒いて彼女と別れた。

 その時連絡先を聞いていなかったのを後悔したよ。

 翌日、私はAIに関する講義を受けていた。

 出席確認が終わった後、隣の席の人が声をかけてきた………蒼だ。


「あの灰野君」

「はい何です………え?」


 本来ここにはいないはずの人が居たことと、自分の名前を知っていることに驚いた私は、変な声を出してしまった。


「出席の時に名前は聞こえました。授業は………たまたまです」


 実は彼女は、俺がこの教室に入るのを見てこの授業も選択したらしいのだが、それを知るのはもっと後の事だった。

 同じ授業を受けて、昼食も一緒に食べる事が多くなった。

 

「どっちの弁当が良いですか?」

「私はエビフライの方で、イカ墨はちょっと………」


 そう言って蒼はエビフライの方を取った。会話も多くなって自然と仲も深まった。


「何で髪染めたんですか?」

「ああ、貴方の隣に野蛮な男は似合わないと思いましたから」

「……良くそんなこと平気で言えますね」

「……?正直に言う事は良い事だと教わりましたが……何故そんなに顔が赤いんですか?」


 幸せだった。自分はこの時の為に生まれたんだとそう思える程に。

 

「付き合ってください!」

「………!嬉しい。でも何で紫の帰郷?」

「実は………種から育てたんだが青色を買ったつもりだったのが紫で………嫌か?」

「ううん、全然。むしろこっちの方が良い」


 順調、二十一歳の時に結婚した。

 色々な所に行った。バイクに乗って夜景を見に行ったり、俺が刺青を入れるのについてきてくれたり、楽しかった。見たことの何所に行き、家族と呼べる奴らにも会った。蒼も楽しそうだった。2人きりじゃなかったのは不満だったが、それでも楽しかった。

 

「ねえ、好きって言ってくれないの?」

「子供が生まれたら言うよ」

「………もう」

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