表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
賢王の書~ ELSIUM OF EUPHORIA~  作者: LSABA
一章 本当の始まり
60/149

第60話

 一週間の休校期間の内、もう二日が経過し今は三日目の昼過ぎだ。

 あれから加速を一日で会得し、その後現実時間で五時間。体感三ヶ月の間で本の内容を記憶した。それに伴ってステータスも変化した。INT、知力の値が百になっていた。最大値が二百なので、これは大きな成長と言えるだろう。 

 流石に先生の様に全てを記憶する事は不可能だったが、内容はだいたい覚えている。今はそれだけでも十分だろう。

 この体感三か月で学んだことは、本の内容を覚えることの他に確認の大切さだ。

 一か月が経過した辺りで、慣れてきたのか本を読みながら思考することが出来た。そのおかげで初依頼の時の反省をすることが出来た訳だが、やはり一番の失敗は確認不足のせいだろう。

 自分の知識を過信して相手が望む品質を確認しなかったのが失敗の原因だ。

 だからこそ、次からは同じ失敗はしない。じゃないと何も学んでいないのと同じ、つまり無駄な行動をした事になる。


「最終日は保険にして、四日で百人か………頑張るしかないね」


 山の様に積み上げられた本を一気に収納し、楽園へ転移した。

 そのすぐ後に、新しく作ったチラシを各所に貼り後は自分で歩く。

 チラシにはポストの設置場所を書いておき、手紙がいっぱいになるまでは自分の足で探すようにする。

 勿論ポストには一定ラインを超えたら通知が行くようにしてあるので、手紙が溢れる心配はない。

 歩きながら依頼を待つ。これが僕が考えた一番効率のいい手段だった。

 

「ああ、弓が壊れちまった………」


 歩いていると、早速困ってそうな人が居た。

 弓が折れていて使い物にならなくなっている。装備から見ても今から狩りに行くのだろう。なら早めに修理したいはずだ。

 

「大丈夫ですか?よければ修理しますよ」

「本当かい!?助かるよ!」

「任せてください。元に戻せばいいですか?」

「ああ、頼む」


 改良などの無駄な事はしない。壊れる前の状態に戻す。だが直ぐに壊れるといけないので新品同様位まで状態を巻き戻す。

 早速覚えたことが役に立つ。今回は逆巻というスキルを使う。物質、例えば今回の弓の様な物、生物以外の物の状態を巻き戻すことが出来る。状態を進めることはできないので注意が必要だが、今は気にしなくていい。

 新品同様の状態まで巻き戻し、壊れてないのを確認してから持ち主に返す。


「ありがとう!本当に助かったよ!」

「元通りになって良かったです」


 猟師さんはお礼と言って、リンゴを一つくれた。

 真っ赤になったリンゴは、切っていないのに甘い香りがしておいしそうだった。

 後で食べるために収納すると、タイミングよく通知が来た。急ぎ目でポストを置いた場所に転移し、中身を確認する。

 数はきっちり十、その全てを確認して指定された場所に向かった。


————————


「おお!賢者様。良ければこれを持って行って下され。今朝取れた野菜ですじゃ」

「まあ、賢者様!いい肉が入りましたよ!」


 最終日前日、六日目にしてビナーの任務達成まであと一人という所で、僕の周りに変化が起きていた。

 最初は何事もなく通れていた道も、今では歩くたびに声をかけられる。

 困ってる人を無償で助ける聖人が居る。しかも雑用でもなんでも引き受けてくれる、しかも知恵を授けてくれる。

 正に賢者様だと、噂が広まった。

 むずがゆい気持ちだったが、嫌では無かった。むしろ頑張ったと胸を張れる気がした。でも僕は聖人ではない。やれと言われたからしているだけだ。

 ただ、ここ数日は楽しかった。助けた人の笑顔が今でも鮮明に思い出せる………が、余裕が無いのも事実であった。

 九十九人を助けたが、それはステータス画面に表示されたカウントでの話、実際は百人以上はもうとっくに達成していた。

 だが、カウントは百にならない。そのせいで少し焦り始めているのだ。最後だから特別な条件があるのか、それとも嫌がらせか………。考えても答えは出なかった。

 分からないからといって何もしないのは落ち着かないので、人助けは続けている。そんなとき、通知が鳴った。

 転移先のポストには、一通の手紙。他は何処を探しても見当たらず、故障したのか疑ったがそう言う訳では無かった。

 不思議に思ったが、同時に焦りが消えた。理由は分からないが直感が告げている。

 これで最後の依頼だと………。

 手紙の内容は、転移先の座標と一言。


「覚悟が決まった」


 と書いてあった。

 その文字を見た瞬間、全てを理解しビナーに踊らされたと思った。

 本人に文句は言えないしどちらかと言うと感謝している。やっと父さんから話が聞ける。母の事が知れる。

 転移した僕の前には、信じられない光景が広がっていた。

 家だ。現実の、僕の家が目の前にあった。

 恐る恐る中に入ると、リビングのテーブルに腰かける父さんの姿があった、その手には龍の仮面が握られている。


「来たか」

「うん父さん。いや、こっちでは龍王の方が良いのかな?」

「からかうな。ほら座りなさい」


 父さんの正面の席に腰かけ、言葉を待つ。

 大きく息を吸って深呼吸した父さんは、真剣な表情で話し始めた。


「まずは、私の………いや、俺の昔の話からしなければいけないな」


 龍面を握る手に少しだけ力が入ったのが分かった。

感想待ってます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ