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賢王の書~ ELSIUM OF EUPHORIA~  作者: LSABA
一章 本当の始まり
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第59話

 ビナーに放り出されて数分、早速一人目の依頼者が現れた。

 これでも先生の弟子として学んだことがある。それらを生かしていけば、目標達成も簡単だと思っていた。だがそれは甘い考えだったと知ることになる。


「この草を乾燥させて紐を作って欲しいんだ。お願いできるかな?」


 依頼者が多く来てくれるように、今行ける範囲で宣伝用のチラシを配っていた。

 そのおかげでこうして依頼者が現れた訳だが、最初は簡単な依頼だった。

 乾燥も紐の作り方も本に書いてある。これを読みながらやっていけば失敗することは無いだろう。

 そう思い快諾し、早速作成に取り掛かった。今から三十分以内に六本作っておけばいいらしいので、少し急ぎ目に作業を進めることにした。

 ………

 ……

 三十分後、依頼してくれた男性が戻って来た。

 一本多く完成した計七本の紐を手渡すと、男性の表情が変わった。


「ん?作り方分かるって言ってなかった?」

「はい、三十分で六本の依頼は達成したと思うんですが………」

「それはそうなんだけど………」


 男性が僕を傷つけないように気を使っているのが分かった。

 恐らく、男性が求めている物では無かったんだろう。男性はそれ以上は何も言わず、お礼だけ言って去って行った。

 その去り際の表情を見て、自分が調子に乗っていたのだと悟った。それと同時に出来ると言っておいて不完全な物を渡した自分が恥ずかしくなる。

 このままじゃいけない、そう思った僕は一度貼ったチラシを全て回収し、転移で集中できる場所に転移した。

 全てが始まった場所、大森林の中にある先生の家である。

 僕は急ぎ足で図書館に駆け込み、扉の前で座り込む。

 一冊一冊読んでいれば時間が圧倒的に足りない。何年かかるか分からない以上、そんな悠長な事はやってられない。だからこそ、全ての本の題名を見て違うものは除外してを繰り返した。

 何分経過したか分からないが、やっと望みの物を見つけることが出来た。「加速の秘術」を書いた本だ。これを読んで秘術を習得し、思考と体の動きを加速させれば膨大な数の本を短い時間で読み切る事が出来る。

 覚えられるかどうかが問題だが、そんなものは覚えるまで繰り返せばいいだけの事、今は一刻も早く………。


『強制ログアウトの要請を確認しました。今から十秒後にログアウトします』


 本を開こうと手を置いた瞬間、機械のアナウンス音声の様な物が響いた。直接脳内に送り込まれたような感覚だった。

 

『………零。ログアウトします』

 

 そう聞こえた瞬間、浮遊感と共に目の前の景色が切り替わった。

 僕の部屋、だがそこにはいつもと違う光景があった。

 ゲーム用のゴーグルを片手に佇む父さんの姿がそこにはあった。眉間にしわを作り僕を見ている。


「朝までログインしているとはな、何かに熱中することはいい事だがやりすぎは感心しないな。これは一日預かっておく、やりすぎは体には毒だ、気を付けなさい」


 そう言うと、そのまま部屋を出て行ってしまった。

 外からは、シャッターを開ける音の後バイクの排気音が聞こえた。

 父さんの発言が気になり時計に視線を移す。針は朝の七時を指している。見間違いでも無かった。

 少し頭が痛い、徹夜でゲームをしていたんだから当然だろう。ただ、そんな状況でもやらなければいけないことがある。


「学校行かないと………」


 急いで準備して家を出る。青い空から容赦なく太陽の光が僕を射す。眩しくて手で目を覆う。頭の痛さもあってか、太陽に腹が立った。

 ボーっとしながら登校していると、あの男性の顔が浮かんだ。そして紐の出来事を思い出し、その時の感情も湧いてきた。


「悔しい………」


 何故そう呟いたのかは分からなかった。

 鞄の紐を握る力がいつもより強い気がした。今日一日ゲームを忘れてしまえれば楽だっただろう。だが、今の僕にはそれが出来なかった。

 

————————


 学校も終わり家に帰ると、父さんの姿があった。

 風呂上りらしく、上裸で首からタオルを下げていた。水滴が滴り落ちる髪の隙間から覗いた目がこちらを見る。


「ゲームをするなとは言わないが、体には気を付けなさい」

「はい。ごめんなさい」

「分かれば良いんだ。あ、そう言えば今日学校から連絡があってな、新型の感染症の蔓延防止の為に休校だそうだ。なんでもそこまで危険では無いらしいが、念の為だそうだ。休みだからと言って羽目を外すなよ」

「分かった」


 僕の返事を聞いた父さんは、鼻で笑って服を着だした。

 その後台所まで行って温めてある弁当を持ってきた。唐揚げのイカ墨ソースの弁当と、エビフライの弁当だった。

 どっちを選ぶのか聞かれたので、僕は迷わずエビフライの方を取った。それを見た父さんは嬉しそうに微笑んだ。


「やっぱりそっちだよな」

「逆にそっちを取ると思ったの?」


 今日の夕食は何だかいつもより楽しかった。

 談笑しながら食事をしたのなんて何時ぶりだろう。もしかしたら一度も無かったかもしれない………。

 ゲームの事なんてすっかり忘れ、夕食を食べ終わった後も父さんとの会話を楽しんだ。

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