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賢王の書~ ELSIUM OF EUPHORIA~  作者: LSABA
一章 本当の始まり
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第55話

「やっぱり貴方、ケントじゃない?名前を聞いたときからもしかしてと思っていたのよ」

「は、はあ………」


 嬉しそうに話していた女帝だったが、隣に居た大臣らしき老婆の耳打ちで空気が変わる。

 先程の少女の様な雰囲気とは一変し、正に女帝と言った感じだ。


「今回の災害の撃退、本当に助かりました。ありがとう………貴方のお陰で多くの民が救われました」

「………」


 僕は黙って女帝の言葉を聞いていた。

 この話はもう忘れたい、そう思いもしたが僕はこの話を本に書くだろう。死んだ騎士を忘れないように。

 女帝を見上げると、目元が少し腫れていた。泣いていたのだろうか?

 彼女もプレイヤーらしくない人なんだろう。一所に留まって王様をやっている様な人だ、そうなんだろうと思っていたが死んだ事を悲しむこともあるんだ………。

 

「貴方はこれからどうするつもりですか?」

「僕は————————」


 僕はこれからどうしようとしていたかを話した。

 未だ騎士団に入って日も浅い、もう少しここに留まるつもりという事、だがいつかは必ずここを去る事を説明した。

 女帝はこのまま帝国に居て欲しい様だったが、それでは僕の目的が果たせないからお断りさせてもらった。


「でも暫くは居るんでしょ?なら私に付き合ってもらうわ」


 そういうと女帝、いやリーアは僕を連れて別室に向かった。

 そこではリアルの話や、ゲームで体験したことなどを話した。体感はそれほど長い時間では無かったはずだ。

 

————————


 夏休み最終日、僕は家の外をぶらついていた。

 何故かと言うと、この夏休み期間中一度も外に出なかったからだ。

 誇張とかそういうのでもなく、家にこもりっきりでゲームをしていたのだ。ゲームだけしていたわけではないが、それでも家から一歩も出てないことに変わりはない。

 流石に一日ぐらいは外に出ないと、学校が始まってから大変だと思ったから今こうして出ている訳だ。

 約一か月剣の訓練とリーアとの会話に模擬戦、騎士としての仕事をやってきたせいか、この夏休みはあっちが現実と思う位ゲームをしていた。

 夏休みらしいことは何も出来なかったから、せめて今日ぐらいはかき氷でも食べようと、近所にある店に向かっている所だ。

 昔からある店らしく、圭吾から夏休みに入る前に聞いていたのを思い出したのだ。

 店の近くに来ると、何やら言い争っている様な声が聞こえてきた。恐らく店内だと思う。


「理亜!今日ぐらい店を手伝えって言っただろ、漫画なんか読んでないでさっさと氷持ってこい!」

「はーい………」


 どうやら店主と娘の会話らしい。トラブルとかじゃなくて良かった。

 風鈴の音が鳴る中、氷を削る音も聞こえる。正に夏と言った感じだ。

 店内に入ると、黒が一切ない肌色の頭にタオルを巻いた店主がいらっしゃいと声をかけてきた。


「何を食べる?」

「じゃあ、いちごで」

「あいよ、理亜!いちご一つ」


 一分もしないうちに赤いシロップのかかったかき氷を持った少女が現れた。

 その子が僕の顔を見た瞬間、かき氷を落としてしまった。驚いた様子の少女をよそに、店主が落ちたかき氷を拾いながら怒った。


「商品を落とすな!」


 だが、そんな店主を気にする様子もない少女は大きな声で言った。


「ケント!?」

「………………え?」


 知ってるか皆、かき氷のシロップって味同じらしいよ。

 関係ない話をしたくなる程に最悪な気分だったのには訳がある。先ず明らかにこの少女はプレイヤー、しかも僕と面識があるという事になる。

 そしてさっきの店主との会話の時に出てきた彼女の名前、予想でしかないが雰囲気からもほぼ確実に………


「私、リーアよ。分かる?」


 嫌な予感と言うのは、当たることの方が多いみたいだ………。

 軽い現実逃避をしながら、新しく用意されたかき氷を食べている僕にリーアは横に座りながら話しかけてきた。

 ゲームと現実の見た目のギャップは凄いが、髪の色と顔が少し違うだけで美少女という点はそんなに変わらない。この店主から何故生まれてきたのか疑問に思う程だ。

 歳は二個下、僕だと分かったのはやはりゲームと顔が変わらないかららしい。

 店主の視線が怖いが、何とかしていい感じに帰らないと不味い事に繋がりかねない。


「ねえ、貴方ってなんかモサッとしてるわね」

「は?」

「いや、なんかこう………もうちょっと髪を整えたらいい感じになる気が………」

「散髪屋に行く時間も無いし」

「それってゲームしてるからでしょ?一回行ってみたら?」


 そう理亜に言われ、僕は閃いた。

 このまま逃げられるのではないか?と………。

 これはとても自然な流れだ、理亜に言われたからじゃあ早速行ってみます!と言って逃げられる。ここに二度と立ち寄らなければ関わることは無くなるし、名案ではないか!?

 そうと決まれば行動は早くしなければ!


「分かった、じゃあ今から行ってみる」

「え?貴方にしては物分かりが早いじゃない。じゃあ連絡先交換しない?切ったら見せてよ」


 こいつのこのコミュ力の高さは何だ?普通ゲームの知り合いにここまで距離は詰めてこないだろ。

 ここで断るのも出来ないので、僕は仕方なく連絡先を交換し髪を切ることになった。前がギリギリ見える位に切っていたので、短くしろとの事だった。

 後で気づいたんだが、携帯を持っていないと言えばもしかしたら………。


『無理でしょうね』

 

 そう言うアイの声が聞こえた気がしたのは気のせいだろうか………?

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