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賢王の書~ ELSIUM OF EUPHORIA~  作者: LSABA
一章 本当の始まり
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第53話

詫びの品です

『では、説明しましょうか』


 一瞬消えてしまったんじゃないかと焦ったが、声が聞こえたことで一安心した。

 下部が消えてしまったことで焦ったデガが、少しスピードを上げて迫っている。だからアイの説明を一回で覚えるつもりで聞いた。


『未だ龍気解放は使えません。ですから今は夜天闘気を使います。これを使えば、属性値に補正がかかるので破断の攻撃力と合わせれば黒頭にダメージは入ります。計算が正しければ五回の最大攻撃で一つは破壊できます。つまり普通に触れば十回で一つです』

「使い方は?」

『先ずはデガに接近してください。使用はスキルの一つとされているので失敗はありません。移動中に説明します』


 アイの言う通り、デガに向かって走り出す。騎士の人の声が聞こえた気がしたが、無視して足を動かす。

 

『私の合図で破断にMPを吸わせ、五秒後に戻してください………今です』


 言われた通りに行動する、吸わせるというのが難しいと思ったが普通に成功した。戻したMP、魔力は黒く変色し僕の体を覆った。


『後はそれを心臓付近に集めてください。その後大きく飛翔しデガに接近』


 集めるという行為に少し手間取ったが、何とか成功。

 一瞬激しい動悸が起きたと思ったら、靄の様に魔力が漏れ出し、明らかに走る速度が上昇した。


『夜天闘気。ステータスに補正をかけ属性値を大幅に上昇させます。ですが時間は三十分間、五分おきに一度心臓に激痛が走りますので耐えてください』

「簡単に言うね!」


 地面を大きく蹴ってジャンプした。直ぐに地面に落ちることは無く、滑空している様な速度だった。

 そのまま空を蹴ってデガに接近、実際には魔力を蹴った。


「ギィイェエエエエエエエエ!」


 口を大きく開き鳴いたデガ。その開かれた口から、無数の鳥の様な黒いものが飛んでくる。


『闘気を拡散して蹴散らしてください。MP切れの心配はありません』

「了解!」


 拡散は色々あって得意なので直ぐにできた。

 黒いものが闘気に触れると、一瞬で霧散し消えた。だが数が多く、中々骨が折れる。鳥に集中していた僕の目に、こっちを向いた黒頭が写った。

 

『マスター!闘気を破断に纏わせて防御してください!』

「え、ああ…!」


 直ぐに破断を巨大化させ地面に刺し闘気を纏わせる。

 こっちを向いた黒頭が大きく口を開き、その口にエネルギーのような物が集まる。甲高い音が止んだと思ったら、そのまま口からレーザーを放った。

 破断が削れる音が響き、轟音と共に黒い光線が放たれる。十秒以上続いたそれが止んだと思ったらすぐに鳥がやって来た。


「これは、マズイ」

『下に回り込めば人型が来ます。ですから光線を警戒しつつ上から接近してください』

「分かった」


 直ぐに飛んでさっきの事を繰り返す。

 それを繰り返し数分、一度目の副作用が僕を襲った。感じたことのない激痛、まるで心臓を握りつぶされている様な感覚に、思わず胸を抑える。

 だがそれも一瞬で終わり、直ぐに行動に移す。


「はやく………早くしないと」


 効果時間が終わる前に終わらせないとという焦りで一瞬の隙ができてしまい、鳥のくちばしが腕に刺さる。注射を打たれた痛みしかなかったので気にしなかったが、アイの慌てた声が聞こえた。


『マスター!早く回復薬をかけてください!刺されればそこから腐ります!』


 腕を見ると、本当に色が変わってきていたので、慌てて回復薬を取り出し振りかける。

 集まってきた鳥を倒し、黒頭に一撃入れる。これをあと九回繰り返すのか………。


 何分経過したんだろう。胸の痛みは限界を迎え、立っているのもやっとだった。

 アイの声も聞こえなくなりそうなとき、確かに耳に団長の声が入って来た。


「しっかりしろ!俺達が一瞬抑える。だから………!」


 その言葉で意識を取り戻し、胸の痛みを我慢し飛ぶ。

 破断を巨大化させ、闘気を限界まで纏わせる。

 団長の合図と共に、地面から無数の鎖が伸びデガを取り押さえる。中には死の力に耐え血を吐きながら立っている人もいた。


「今だケント!」

「破断!!」


 僕は黒頭目掛けて破断を振り下ろした。

 破断が直撃した黒頭は悲鳴を上げて霧散した。三つの内一つを破壊した。これで終わる、そう思った僕たちに突き付けられたのは悲しい現実だった。

 悪夢だと思いたかった。夢であってほしかった。でも現実は容赦なく僕たちを襲った。


「ギィイェエエエエエエエエ!!!!」


 残った二つの黒頭が大蛇に変化し、デガの前身の毛が逆立った。

 頭からはもう一本の角が生え、背中には棘が生えていた。その棘が飛び散り、何人もの騎士が犠牲になった。

 ここからが本番、デガはそう言っている様だった。もう駄目だと皆が絶望したときに、爆発音が戦場に響いた。

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