第50話
学校から帰り家事を終わらせゲームをすることが日課になった。
前の僕からしたら考えられないことだが、今では当たり前の事になってきている。今日もログインし絶賛訓練中だ。
騎士団の訓練は、それぞれの団によって異なりその内容は騎士団長に決定権がある。要するに団長の好みによって変わるという事だ。
因みにうちの団長は良く言えば屈強、僕の言葉で言えば脳筋だった。
魔法をくらっても体が丈夫なら燃えないとか、凍らされてもそれを壊せるぐらい筋力があればいいとか、体力が尽きない程鍛えれば負けないとか。
最後の方は途中まで理解できたが、最初に言っていたことは意味が分からなかった。
そんな団長の訓練内容は、午前は体力作り、午後からは実戦形式の訓練だった。武器は普段使う物、僕の場合は破断だが能力の使用は禁止だった。刃がある武器で打ち合えば当然怪我をする。実際腕が取れかけた人を見たことがあるが、直ぐに回復薬をかけて直していた。
危険な訓練で怖くないのかと聞いたことがあったが、その時返ってきた言葉が忘れられない。
「痛みに成れていれば実戦で腕を切られても相手をやれる。だからうちの団は訓練中も殺す気でかかってる」
やはりトップの影響は酷い様で、その下に居る人たちもそれに近づいてしまうらしい。僕はそうはなりたくない。
「集合!」
訓練中、副団長の招集がかかり皆直ぐに剣を納め集まった。
団長が前に出てきて、話を始める。
「最近。モンスターの活動が活発化している。この帝国にも影響を及ぼす可能性を考え、女帝より勅命が下った。今日から三日後、国防の黒鉄騎士団を残し全騎士団で各地のモンスター掃討に向かう。この団はライン山脈中層付近の廃鉱に向かう事になった。各自準備を済ませておくように。尚、遺書の準備は許さん。以上解散!」
実力順で配置された騎士団。僕たちの団は国一番の団だから一番危険度の高い場所に配置される。
ライン鉱脈、数々の希少鉱石を産出してきたらしい。が、数十年前に魔法の暴走により迷宮化した。
迷宮は宝が眠る場だが、危険なモンスターが数多く出現するため、許可が無ければ入れない。出現するモンスターの危険度別に迷宮もランク分けされ、このライン廃鉱迷宮は危険度上級の超危険地帯である。
そのためここ最近は誰も迷宮には足を踏み入れず、湧くだけ湧いたモンスターが今溢れたという事だ。
そのタイミングが最悪だった。モンスターの動きが活発になる時、周期ではなく突然来るそれは【狂乱】という。何の前触れもなくモンスターの凶暴性が増し、人を襲う頻度が増えるだけでなく、強さも増すという感じだ。
これだけでも最悪で国の全兵士を投入するレベルなのに、今回の迷宮の問題。生きて帰ることが難しいだろう。僕達プレイヤーは違うが、騎士団は圧倒的にNPCの数が多い。これまで切磋琢磨してきた先輩たちは辛いだろう。
「早く終わらせて皆で酒飲もうぜ」
「ああ、俺が大事にしてる百年物を開けてやるよ!」
「何!?そいつは楽しみだ!」
皆笑ってはいるが、内心は違うだろう。
『マスターは参加できるのですか?』
「うん。丁度夏休みに入る」
全員を生きて帰す何て言えないが、一人でも多く救えるように僕は準備を進めた。
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大陸の下半分を分断するように伸びるライン山脈。危険なモンスターが多く生息する場所だが、その分資源も豊富だった。
モンスターが死ぬことで魂がエネルギーに変換され、山に消えることでそこの資源となり、鉱石や薬草等様々な物があった。だから、豊富にエネルギーを内包していたからこそ、坑道は迷宮へと成った。
危険度Aレベルのモンスターが生息し、浅層でもその数は多い。その分宝は期待されたが、誰も奥までたどり着くことは出来なかった。
モンスターの掃討がほぼ一度も行われなかった迷宮が、溢れるのは時間の問題。分かっていた事ではあったがタイミングが悪かった。
狂乱の時期に重なったのは偶然か必然か、準備を終えた騎士達の顔には確かに覚悟の深さが窺えた。だが一方で、プレイヤーの顔には違うものが写っていた。
彼らの前に映し出された一枚の画面。そこには危険の二文字とサイレン音、次に映し出された文字で賢人の顔色は一気に悪くなった。
『緊急クエスト、災害デガの撃退………。成程、モンスターが山から下りてきていたのはそれが理由ですか』
出発の一日前、門の見張りが警報を鳴らした。
山から下りてきた大量のモンスターは何とか食い止めたが、そのどれもが、特に人型のモンスターは怯え切っていた。まるで何かから逃げる様にここまで来た気がしていた。
僕以外のプレイヤーは気が付いていない。画面は表示されているが何が起きているのか分かっていないんだろう。
なら行動できるのは僕しかいない、一刻も早く皆を止めて避難させないと………。
デガは………。あれは人がどうにか出来るものじゃない………。
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