第5話
ゲームにログインすればログアウトした場所から始まるだろう。新規のプレイヤーであれば始まりの街とかそう言う場所からのスタートが、ゲームでのお決まりだ。
そう聞いていたがどうやらそれは間違いだったらしい。今僕の目の前には大自然が広がっている。
青々と生い茂る木々に背の高い草、人の手が及んでいないであろう森の中に一人ぽつんと立っていた。
『恐らく特典で与えられた旅人の職業の影響かと思われます。ステータスの詳細を鑑定しましたが、初回に限りランダムの場所に落とされるようです』
特典なのにそんなバットステータスみたいなものがあるのか?と思ったりもしたが、僕が色々なところを見たいと言ったから、三門さんなりの配慮かもしれない。
ただどっちに行けばいいかも分からないし、かといってこのままも面白くないし……。
『旅人の固有スキルに、回数制限付きのマップ探査があります。メニューを開いての操作を推奨します』
「マップ探査?メニュー?何それ?」
『マップ探査は現在マスターが居るフィールドのマップを埋めてくれます。本来は自分の足で埋めていかなければなりませんが、三回まで自動でこれを行えます。メニューは口に出しながら自身で決めた動作を行う事で開ける操作画面です。一度動作の設定が完了すれば、次回からは口に出さなくともメニューは開くことが出来ます』
アイの説明通り、取り合えずメニューを開いてみる。
簡単な動作の方が良いらしいので、右手を右から左に動かしながら「メニュー」と口に出してみた。
すると目の前に小さめの画面が現れた。
『メニューでは主にスキル、装備品、持ち物の確認が行えます。ステータスは表示はされますが何が伸びるかはプレイヤー次第です』
マップの機能もあったが、真っ黒で何も見えなかった。恐らくさっき言っていた探査のスキルを使えば、この区切られている所までは見える様になるんだと思う。
スキルの一覧にはマップ探査3/3と解読があった。マップ探査の方を押すと使用しますか?と出てきたのではいの方を押す。すると画面がマップの方に切り替わり、さっきまで真っ黒だった画面が今度は緑一色に変わった。真ん中にはメティス大森林と表記されていた。
この森以外は真っ黒で、何処に行けばいいかすら分からない。衛星写真みたいな感じだったから、探査を使えば街らしきものが見えると思っていたが、全部木で埋まっている。
闇雲に歩き回って出られなくなっても困るが、そもそもゲーム自体初心者の僕に勘と言うものが備わってるわけでもない。
『取り合えず行動してみましょう。マップの中央付近に、少しですが建造物の様な物が見えました。そこを目指せば何かあるかもしれません』
確かに、よく見れば小さいが白い何かが見える。他にやれそうなことも無いし取り合えずアイの言う通りにしてみよう。
————————数時間後。
こっちでの一日は向こうでの一時間だから、日が落ちた位に終わろうとそう思っていた。しかもメニューに時計までついているので、時間は結構把握しやすい。
僕がログインしたときが丁度こっちでの十時で、今は二十二時を指している。が、太陽は僕の頭上で今も光り輝いている。木々の隙間からの光がそれを強く証明していた。
だが時間は夜。明らかにおかしい。
しかもおかしいのはそれだけではない。時間は間違ってないし体感でも結構歩いた。約半日歩いているのにさっきの場所から少ししか進んでいないのだ。
さっきの場所から目的地を見た時、マップ上では大体二十センチ。半日かけて二センチ分しか進めていない。単純計算で五日間、現実で考えれば五時間はログインしないといけない。
『この場所でログアウトした場合。敵対生物による攻撃で死亡の可能性があります。あまりお勧めは出来ません』
だよねえ……。森だから普通に考えて熊とか猪とかいるかもしれないからな……。
せっかく始めたゲームなのに、ここで死ぬのは嫌だ。でも夜更かしするなって言われてるし……。
『多少の疲労感は残りますが、目的地到着時点での現実時間は朝六時過ぎと思われます。明日は休日ですから今回だけという事にすれば多少はマシかと思われます』
「怒られてもうしちゃダメ!って言われるのも嫌だしな…」
『その可能性は低いと思われます。多少の注意は確実にありますがマスターがプレイできなくなることはほぼ0と言ってもいいでしょう』
「何でそう言えるの?」
『……。勘です』
「勘かあ……」
未だ数時間しか一緒に居ないけど、アイが間違ったことを言ったことは無い。理由は分からないが言うとも思えない。
「んーー……よし!行こう!」
アイの言ったことを信じて五日間の旅に出ることにした。
深い森を歩き、木の根に引っかかって転び、見たこともない花を目にして、沈まない太陽を背に目的地までの長い道のりを歩く。
まだ見ぬ何かに心を躍らせながら……。
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