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賢王の書~ ELSIUM OF EUPHORIA~  作者: LSABA
一章 本当の始まり
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第49話

 目が覚めると、保健室の様な場所だった。

 外からは兵士の掛け声や、剣で打ち合う音が聞こえてくる。ここはどうやら詰所の仮眠室の様な場所らしく、僕が気絶した後誰かが運んでくれたようだ。 

 少し気怠さを感じながらベットからのそのそと起き上がる。すぐ横には置手紙があった。僕の名前が書いてあったので破って中身を確認する。


「うちの団長が迷惑をかけたね、起きたら団長室に来て欲しい。地図は同封してるからそれを使ってくれ」

『副団長より、ですか』


 しっかりしてそうな印象を受けた手紙は、一応ポケットにしまい同封してあった地図を頼りに団長室へ向かった。

 部屋を出る時に時計を見たが、十五時を過ぎた位だった。気絶は一応するが、長い間では無いようだ。

 そんなことを考えながら歩いていると、目的の場所に到着した。学校のクラスみたいに、扉の上の方に看板の様な物が付いていたので直ぐに分かった。

 

「………これ入りたくないんだけど」

『マスター仕事という物はサボれないんですよ、それに上司の命令は絶対です。たとえ女帝直属の部隊が嫌だからと言って帰ることは出来ないんです』


 最近、街を歩いている時に聞いた話だ。

 氷の花に剣が刺さり、その剣を噛む龍の紋章。氷帝リーア直属の騎士団が新しく作られ、実力者が集まっていると。

 その紋章が扉に大きく刻まれている。団長は団長でも一番関わりたくない方の団長だったらしい。

 今さら逃げることも出来ないし、大人しく扉をノックする。


「どうぞ」


 中から昨日聞いた声がしたのでそのまま扉を開ける。

 中に居たのは昨日の男と、知らない若い女性だった。どちらも立ったまま書類整理をしている。


「やあ、君がケント君だね。そこに座っていてくれ」


 女性の方が僕にそう言った。

 言われた通りソファーに座っておく。よく見るような、真ん中に膝当たりの高さの机がありそれを囲むようにソファーと椅子が置いてある。

 少しして、女性の方が目の前に座って来た。赤い髪を一つに纏めている、サイドテールという奴だろう。金色の目が綺麗だと思ったが、右目の方に額から頬まで切られたような傷があった。身長も僕より十センチは高いだろう、正に女騎士と言った感じだ。


「私は氷龍騎士団副団長のゼラだ。そして君が戦ったのが団長のカイシン。次は君の事を教えてくれるかな?」

「僕はケントです。二つの国を旅してからここに来ました。来た理由は………剣の修業をしようと思って」

 

 それから面接みたいな質問が続いた。趣味や特技、何故騎士団に入ったのか何処から来たのか等、何個か聞かなくてもいいような質問が入った気がしたが、答えられる範囲で答えた。

 

「へえ、じゃあ空路で来たのか。いや………待てよ?今は空路は封鎖中じゃないか?」

「え、そうなんですか?飛んできたので良く分からないです」

「ああ、飛行船に乗って来た訳では無いんだな」

 

 団長が話に入って来た。僕の話に団長は納得した様子だったが、副団長は頭を抱えていた。


「ん?飛んできた………?何で?私がおかしいのか?」


 取り合えず今日はすることが無いからまた明日。

 ただ学校があるので行けないかもしれないと伝えたら、他にも似たような奴は居ると言われ、別に問題は無かった。僕以外にも騎士団に入った人が居ることに驚いたが、まあこのゲームだとありえなくも無いだろう。

 やることも無くなり、少し早いがログアウトすることになった。明日からの訓練の事を考えながら、いつものように画面を操作したのだった。


————————


 大森林。世界の端と言われる木々が生い茂るそこには、ある言い伝えがあった。

 光る木を見た。小人を見た。妖精を見た………等々、おとぎ話の舞台になる程不思議な事が起こる森だ。

 正式名称を、神獣の森という。

 たどり着くのは簡単、空を飛んでくれば道中の凶悪なモンスターも回避できる。だから彼女もそうしてきた。

 だが、奥にたどり着くのは難しい。大樹の門を潜れば最後、二度と戻ることは叶わない………。


「案外簡単に見つかったな。問題はここからだが………」

「メティス様。もう少し慎重に行動してください」

「旅には思い切りが大切だ」


 大樹の門を背に、ピクニックの様な会話をしている二人。メティスは長年の夢が叶う寸前で浮かれていた。

 精霊の国に行けるから?そうでは無い。もっと別の、彼女が魔女になった時からの夢だ。


「この三日三晩。やはり意味が違うな、三の晩に三日月………?ボウ、今日は何日だ?」

「今日は二十日です」

「あと十四日………か。まあ探索の日数が増えたと思えば良いだろう、進むぞボウ。この三日月という物が気になる」


 周りは背の高い木が生え、まるで壁の様になっているのにも関わらず、足元は不自然なほど草が生えていない。

 メティスは不思議に思ったが、元より戻る気は無いと気にも留めず、森の奥へと消えていった。

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