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賢王の書~ ELSIUM OF EUPHORIA~  作者: LSABA
一章 本当の始まり
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第42話

 剣を振って直ぐ、コクマーの拳が目の前にあった。

 避けきれず地面に叩きつけられたが、観客の大歓声が闘技場を満たした。


『皆さん!我らが父王の顔に傷が付いています。歴史上二回目、私たちは歴史的瞬間を目の当たりにしています!』

 

 実況の興奮した声が響いた。それを聞いたラジエルが試合場に降り立ち、コクマーの顔を確認すると一瞬コクマーを馬鹿にしたような笑みを浮かべて言った。


「ケント選手による一撃を確認。よってこの試合、挑戦者の勝ちとします!」

「「「うおおおお!!!すげえ!」」」

 

 ラジエルの宣言を聞き、更に湧く会場。

 正直何があったのか整理が出来ていないが、喜んでもいいのだろうか?


「ああー………久しぶりに楽しかったぜ?」

「何がどうなったか分からないんだけど………」

「まあ、負けは負けだ。手を出せ」


 僕が差し出した手に、コクマーは灰色の宝石を落とした。

 その宝石は時計に吸い込まれるように消え、白い宝石のすぐ隣の穴に収まった。

 達成感が沸き上がり、少し顔がにやけている僕にコクマーが言った。


「まさか一撃食らうとはな………ほら持ってけ」


 コクマーが渡してきたのは、さっきの棒。破断だった。

 

「え?いや、貰うのはセフィラの欠片じゃないの?」

「あ?お前人の話聞いてなかったのか?それに、セフィラの欠片は参加賞。最初に言っただろ」


 困惑する僕を見て、ラジエルが笑った。

 クスッと笑っただけだが、笑っているのを見るのは初めてな気がする。


「確かに参加しろとは言いましたが、優勝しろ、俺に勝てとは一言も言っていませんね。私は言ったかもしれませんが」

「あ………確かに」

「そういう事だ、持っていけ」

「でも、僕はさっき使ったのもあるし………」


 流石に人の武器を持っていくのは気が引ける。

 コクマーなら正直素手で十分だとは思うが、何だか貰うというより奪うみたいな感じで気が引ける。

 それにさっきも言った通り、大図書館で出せるし使うかも分からないものを持っているのも………。


「ん?ああ、牙砕(がさい)の事か?じゃあ尚更持っていけ」

「ケントさん。ああいった旧時代の遺物は、複製の能力で使えるのは一度きりなんです。神が定めた法則で、何でもずっと複製出来たら誰も探さないでしょ?との事で………ですから」

『どうやらあれは使えない様ですね』


 ええ………。

 使えないのは少し残念ではあるが、物凄く使いたいという訳じゃないから別にいい。でも、それを使ってこの目の前の武器を貰わない口実が作れないのが痛い。

 コクマーの顔を見るが、絶対に引き下がらない顔をしている。まあこんな数の人の前で言ったことを守らなかったら何を言われるか分からないし………。

 でも僕が持ってても使えないんじゃ?


『情報のみの複製とは違い、実物を再現する事になるので問題なく使えると思います』


 じゃあ受け取るしかないか………。

 棒を手に取りコクマーにお礼を言うと、また観客が湧いた。

 自分の気持ちとは真逆の観客の反応に少し困ったが、目的は果たし気持ちを切り替えていこう。

 大剣の練習をしないといけなくなったが、これはこれで面白そうだしね。


「あ、ケント。アルカナは人目のない所でやれよ」


 そう言ったコクマーは、少し寂しそうに去って行った。

 

————————


 表彰式も終わり圭吾と将太に色々質問攻めにされた後、僕は町はずれの草原に立っていた。

 そこであの時計を取り出し、今回貰った欠片を覗き込む。

 灰色の雲の向こうに見えるのは、「ダレット」の文字。声に出すとタロットの本が浮かび上がり、三ページ目に玉座に座った女性のカードが収納された。

 大アルカナ、女帝のカードを手に入れた僕は次の行き先を決めることにした。

 このままいけば三番目のセフィラの元へ向かうのが普通だが、少しレベルを上げてからの方が良い気がするから行かないことにした。

 レベルと言ってもプレイヤーレベルの方ではなく、単純に技を磨こうと考えている。レベルも上げるがせっかくもらった物を使わないのも申し訳ないし、それに悔しかったからというのもある。幸い時間は大量にあるから焦らずやって行こう。


『マスター。運営からの緊急メールです』

「え、僕に?」

『どうやら全プレイヤーへの一斉メールの様です』


 届いた通知を確認した僕は、目を疑った。

 さっきまで話していたことが丁度書かれていたからだ。


『時間の経過の修正の為、一日サーバーを閉じます。プレイヤーの皆様にはご迷惑をお掛け致します。だそうです』

「これは………。少し嫌な予感がするね」


 色々確認したいこともあるので、急いでログアウトする。

 現実に戻ってきた事を確認し、急いで起き上がりパソコンを立ち上げる。ニュースで取り上げられていたので直ぐに見ることが出来たが、書かれていることはこうだ。

 今回開催した大会期間中の時間経過を、一か月で一日に設定したところ、時間の感覚がおかしくなったという電話が殺到。これまでの仕様も運営で会議を行ったところ、流石に良くないのではないかと言った意見が多かったため、今回のメンテナンスをもちまして時間の経過を現実と同じに致します。プレイヤーの皆様におかれましてはご理解の方をお願いします。

 予定が狂ったどころの話ではないが、正直これでいいと僕は思う。確かに時間の感覚がおかしくなっていたし、それに問題が悪化する前に対処できたことは良い事だ。


「どうしようかな………」

 

 次の目的地を考える時間は、そこまで多くは無かった。

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