第41話
もう駄目だ。やっぱり今の実力じゃ意味が無かった。NPCを数人助けて、セフィラを集めるっていう目的を、誰も知らない僕だけの秘密を知って調子に乗っていた。
ここで諦めるのも、いいのかも知れない………。
「やっぱり嫌だ!」
赤く輝く銀色の剣身が目の前まで迫って来た。
回避も不可能、でも諦めるのは嫌だ。調子に乗っていたからと言って旅を終わらせるのは違う、何も関係していない。だから………!
『そうでしょう。それでこそ………私のマスターです』
アイの声が鮮明に聞こえたと思ったら、僕の体が高跳びの選手の様に身を捻り剣を躱した。
コクマーも驚きの表情を見せ、剣を元の大きさに戻すと口角を上げて笑った。
「成程、そういう事か。お前が絡んでいやがるのか、クククク………ガハハハハ!てことは姉貴も関わってんのか?まあどっちでもいい、今は楽しませて貰うぜ!?」
そう言ったコクマーは、剣を地面に突き刺し柄の部分を強く押し込んだ。
押された剣は地面には刺さらず、反対方向にその身を伸ばした。
剣身の中に持ち手があり、それ以外は上も下も剣で出来ていた。それを回しながら嬉しそうな表情を浮かべている。
『話は後でするので、先ずはコクマーに一撃を当てます。そうすればこの試合は終わるはずです』
「でもどうやって?僕の実力じゃコクマーには………」
『それをサポートするのが私の役目です。マスターは魔法に専念してください。体は私が動かします』
そう言ったアイが、僕の体を動かし始めた。
意識はあるが体の自由は効かないそんな感じだった。言われた通り魔法を放つイメージをすると、魔導書が光り魔法がコクマーを襲う。
「大図書館は私が使うので複製は出来ないものと考えてください」
『………分かった!』
話は後で聞く。そう決めた僕はアイの指示に従った。
僕の体は、僕が動かす時とは違い速かった。避けて反撃距離を取って相手を誘って、何が起こっているのか理解は追いつかなかったが、考えても無駄だった。今はただ魔法を放つそれだけだ。
「大図書館、起動」
僕が(アイが)そう言うと、無数の文字が空を舞った。その文字の一塊が一本の棒に変わり、アイはそれを手に取った。
そしてそれを使ってコクマーと戦う。だが力の強さが圧倒的に上のコクマーの攻撃は、直撃は防げてもその衝撃は防げなかった。
「仕方ないですね。マスター!三秒後に変わります。回避をお願いします」
『え!?急に言われても!』
きっちり三秒後、体の主導権を戻された僕は、とにかく後ろに飛びのいた。
コクマーは僕たちが入れ替わったのが分かったのか、攻撃の激しさを増した。使ったこともない武器のせいもあるだろうが、完全に押し負けている。
「おらあ!どうした!自分じゃなんも出来ねえのか?」
「くっ………!」
何も言い返せないし、言い返してる暇なんてない。
考えないと、このままじゃ確実に押し切られる。何か………。
待てよ?この武器、コクマーの物に似ている。長さも殆ど変わらない棒、そしてよく見ると何かが彫られている。さっきアイも大図書館を使うと言ってたし、もしかしたらこれも………。
物は試しだ、どうせこのままじゃ終わるだけ、自分の勘を信じろ!
「頼む………!このまま終わるのは嫌だ!」
アイがコクマーに石柱の雨を降らせて、攻撃の手を止めてくれた今が好機。逃すわけにはいかない。
僕はありったけのMPを棒に流し込む。バチバチと拒否反応を示す武器は、蒸気を発し赤く光った。間違いない、確かにこれは旧科学時代の遺物だ。でも………。
変化の兆しも見えないそれは、爆発音を鳴らしながら光る。そろそろコクマーがこっちに来る、そんなとき手の甲の印が光った。
諦めるな、やれる。先生がそんな事を言っている気がした。
「うああああ!!」
全てを注ぎ切ったとき、棒は爆発した。
だが、砕け散ったわけではない。段々と形を変えるそれは、カチカチと音を鳴らしていた。
剣身を挟み込むように二つの黒い刃が伸びる、柄との境目にはモーターのような物が蒸気を発し高速で回転していた。
『マスター!身体強化を最大でかけます、切ってください!』
「分かった!」
コクマーが持つ剣は、その身を巨大化させて迫って来た。今度は刃を僕に向け、確実にここで決めるつもりなのが分かった。上段大振り、それに対抗し僕は横薙ぎで勝負に出た。
剣と剣がぶつかる高い音が響き、その場で競り合う。超重量の刃は更に重くなり、僕の足は地面に食い込んだ。
何とかしよう、何かしよう。そう思った僕は持ち手を力強く握った。すると下の方が回転し、何かがはまる音がした。
「ああ?何だ今の………まさか!」
何か変なところを触ったと思っていると、柄が勝手に剣身の方に飲み込まれ、二本の黒い刃が降りてきた。その黒い刃が元の剣身を強く噛むと、長さは最初の倍になった。
長さが変わったところでどうすることも………。何て考えていた僕の耳に、今にも壊れそうな程の高い音が聞こえた。
モーターが激しく回り、そしてそこから尖った黒い粒が剣身に沿って回りだした。まるでチェーンソーの様な剣は、コクマーが持つ破断にひびを入れても尚、動きを止めなかった。
コクマーがひびに気付かず力を籠めると、剣は折れ破片が飛んだ。
『今!』
「うおおおおお!!!」
唖然とするコクマーに、僕は音を鳴らす剣を振った。
感想待ってます!




