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賢王の書~ ELSIUM OF EUPHORIA~  作者: LSABA
一章 本当の始まり
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第39話 雨

 控室で考え込んでいたが、分からないことが増えていくばかりだった。

 ただ、アイが呟いた言葉が気になっていた。「記憶」確かにそう言ったが、それ以上何か言う事は無かった。


『十回戦目!期待の選手ケント対魔剣士ライナー!では、試合開始!』


 試合開始と同時、水を纏った剣で切りかかってくるライナー。 

 だが、僕は石壁でライナーを囲み、上から石柱で押しつぶした。当たり所が悪かったのか、一撃で気を失ってしまいそれを確認した審判が試合終了の合図を行った。担架で運ばれるライナーと一緒に、控室に戻ったが少し変な勝ち方をしたせいかモヤモヤする。

 次の試合まで時間があるだろう、そう思っていたが次の対戦相手のプレイヤーが急用が入り棄権してしまった為、次は決勝戦………あいつとの戦いになった。

 少し時間が足りない気もしたが、それ以上に今は試したいことがあった。

 

『さあ!いよいよこの戦いも終わりを迎えようとしています!怒涛の速さで決勝まで駒を進めたこの侍!相対するは今大会初出場のこの男、ケント!勝利の女神はどちらを選ぶのか!?それでは皆さんご一緒に!』

『「「「試合開始!!!」」」』


 開始と同時、無言で切りかかってくる男。その余裕の表情は直ぐに驚きに変わった。

 盾で刀を防いだ僕は左右から石柱を出現させそれを男目掛けで発射する。難なく躱されたが十分な距離は取れた。

 だが直ぐに距離を詰められ、また刀の猛攻を防ぐだけになってしまった。

 何とか距離を取ろうと、魔導書を使い攻撃をするが全て躱され本を切られる。流石にこれ以上は本を駄目にされたくない。

 確証も何もないただの賭けだが、やってみるしかないだろう。もし予想が外れたら、先生には頭を下げないといけない。せっかく作ってくれたものを駄目にしてしまうからだ。


「大図書館!複製しろ!」


 そう叫んだ僕に応える様に、空中に無数の文字が現れた。光る文字は形を成し、一冊の本に変わった。僕が念じた氷の魔導書に。

 それを確認した僕は、予想が当たった事に安堵しながら、もう一度、何度も複製を行う。

 空に浮かぶ百を超える本は、魔力を帯びると一斉にその力を発揮した。

 放たれる氷の弾丸は、刀を振るう男に確実に傷を負わせていく。止まらない弾丸の雨は、その激しさを増し氷を断つ刀の音をかき消した。


「何だこの量は!MPが尽きないのか!?」


 そういう男は刀で防ぐのを止め、闘技場の地面を引きはがし屋根を作った。

 だがその屋根をも貫き、氷は止むことを知らず振り続ける。

 僕の予想、それは大図書館が記憶装置という予想だった。

 知らない盾を使えたこと、その盾が本に書いてあった唯一の盾だったこと、時間が無く試すことが出来なかったが、イメージすれば出来るだろうと考えていた。

 予想は的中。壊されたはずの本が元に戻って出てきた事から、収納したときの状態を記憶し保存する物だと確信した。

 だから、僕はギリギリ無くならない程度にMPを消費し魔導書に収納し、それを複製し大量に作り出した。

 複製にMPを消費しなかったお陰で、今状況は僕に有利になっている。このままいけば勝てる、そう思っていた。


「仕方ない。本気を出さねばやられる」


 そう聞こえたと思ったら、全ての魔導書が粉々になり紙屑がひらひらと落ちてきた。

 男の細い眼から除くのは、金色(・・)の瞳、先程とは雰囲気が違っていた。


『おっと!?ケント選手の弾幕を切り払った!これはどちらが勝つか分からないぞ!?』


 刀を納めた男は、僕を見ると言った。


「我が名は華の国、三の太刀、流水(りゅうすい)。先ずはこの戦い、訳あって全力を出せなかったことをお詫びいたす」

「ど、どうしたんだ?」

『口上の様なものでしょうか?今のうちにやってしまわれては?』


 血も涙もないアイの発言は置いといて、今は彼、流水の言葉に耳を傾けた。


「許してもらえるならば、我が全力を持って御相手させてもらいたい」

「………良いですよ」


 こんなことを言われたら、手を抜いてたから負けましたと言われても文句は言えない。後々嫌な思いをするぐらいなら、ここで本気を出してもらった方がいい。

 僕がそう言うと、流水は右拳を顔の前で包み挨拶のような物をして頭を下げた。さっきまでは嫌なやつだったが、ここだけ見れば立派な武人にしか見えない。


「感謝する………。ならば行かせてもらう」


 そう言い持っていた刀を持って観客席の方に向かった。

 何をするのかと思ったが、どうやら知り合いが居たらしくその人に刀を渡していた。


「何してるんですか!名前は出さないって言うから参加したのに、これじゃあ僕がお嬢に怒られるじゃないですか!」

「すまぬ。だがこんなに強い者は久しぶりだ。許してくれ」


 何か話していたが、刀を渡した流水はこっちに戻ってきた。

 そしてもう一度さっきのお辞儀をすると、刀も無いのに居合切りの構えをとった。


「我が名は流水。心意をもって刀と成し、技をもって敵を切る。王を守る刀を、私欲に使う事をお許し願いたい。我が太刀は荒ぶる雨の如く!先祖代々受け継がれし契約に従い我が力となれ!」


 ポツッと雨が降った。段々と激しさをまず雨は、ピタリと止んだ。通り雨よりも早く上がった雨が、流水が起こした現象だと気が付くのは、彼の手を見てからだ。

 地面に貯まった雨水が彼の手に吸い寄せられ、段々と形を成していく。流れる水は刀になり、青く輝く刀身は洗練され美しかった。


「三の太刀。水龍」


 そう言った流水の太刀が、僕の胴を切り裂く。

 一瞬。僕が見えたのは、振りぬいた後の刀だけだった。

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