第37話
パーティー戦の予選も終わり、本選出場者が全員決定した頃、僕は外でコクマーとポテトフライを食べていた。
正確には僕が買った物を勝手に食べているというだけだが……。
「お前、大剣は使わないのか?」
「コクマーもそんなこと言うの?」
この前の男の事を思い出し、少しイラッとしたがコクマーは関係ないので抑える。
コクマーは少し不思議そうな顔をしたが、気にせず話を続けた。
「あれはそのための体術だろう?」
「よく分からないけど、僕は固有装備があるから武器は装備出来ないんだよ」
「あ?何言ってんだ。だから聞いてんだよ」
コクマーは当たり前の事を言うなという感じの顔でそう言った。どうにも話がかみ合っていないような気がするのは、僕だけだろうか?
ここで終わらせたら、確実にモヤモヤが残りそうなので、コクマーに質問する。
「どういう事?」
「どういう事って、そのまんまだよ。大体——————」
「コクマー。また同じことを言わせるつもりですか?」
何か口に出そうとしたコクマーの頭を、いつの間にか来たラジエルが鷲掴みにした。
だいぶ強い力で握っているのか、コクマーが悲鳴を上げている。
ラジエルが何も言わず指を鳴らすと、コクマーの姿が消えた。どうやら問答無用で転送された様だ。
「毎回迷惑をかけてすみません。私も仕事があるので失礼します。あ、本戦頑張って下さいね」
そう言いながら笑顔で手を振ったラジエルも、直ぐに転移して消えた。相当急いでいたようだ。
コクマーの発言に違和感を覚えながらも、本戦の為に出来ることをやろうと思い宿に戻ることにした。
本戦は観客の疲労も考えて期間を一日二日開けて行うため、最後のソロ部門は祭りの最終日の二日前に行われる。だから一週間ほど時間があるのだ。
さっき言われた事も気になるし、せっかくだから王都の図書館に行って調べ物をしてみよう。
大図書館については、先生がくれた本には書いていなかった。ここは結構古くからある国だし、もしかしたら何かあるだろう。
決めたら行動。最近になって習慣になった事だが、意外と良い習慣だ。時は金なりとも言うし、早速図書館を探そう。
『祭りの最中は図書館も休みなのでは?』
「え?流石に空いてるでしょ」
『現実とは違い、こちらは複製技術は進歩していません。旧科学時代はそのような物があったという記録はありますが、現在魔法による本の複製は行われていません』
「つまり………本は貴重品か………。だったら国営でもお金は取るだろうし、祭りで人が来ないのに開ける意味も無いか」
そうなったらただ待つだけになってしまう。さっきまで予定があったからか、無駄な時間を過ごしてしまう気がして、勿体ない様な………。
図書館が空いてないなら誰かに聞くしかないが、知っていそうな二人は仕事中。あの嫌なやつには聞けないし教えてくれるとも思えない。
『行ってみてよろしいのでは?』
「あいつの所に?嫌だね。そもそもどこに居るのかも分からないのに」
『無駄に過ごすよりはマシかと思いますが?居場所なら私が分かります』
「………分かったよ」
何を言ってもアイには言いくるめられるし、アイがここまで言うときは大体そうした方が良い時だ。ここは大人しく従った方が良いだろう。
アイが言った場所は闘技場地下二階の訓練場。そこにあいつが居るらしい。
正直行きたくは無いが、行かないといけないという使命感から、僕は足を動かす。
地下に入るとき、下から上がって来たNPCの騎士のおじさんが声をかけてきた。
「お前さん、今から稽古か?」
「え?あ、はいそうです」
「今はやめときな、ど真ん中に居座ってる外国の男が相当やばい奴でな、行ったら絡まれるぞ」
どうやらアイが行ったことは本当だった様だ。
相当マナーが悪い様だが、居るなら行かない理由は無い。
おじさんに一応お礼を言ってから、僕は階段を使い下に向かう。
二階訓練場、外に騎士や魔術師等が居たが皆が口を揃えて、「やめておけ」と忠告した。無視したわけでは無いが、僕は扉を開けて中に入った。
五十メートル四方で、地面は固い土。
何も置いていないただの空間に、真ん中にポツンと一人座禅を組んだ男が居た。
左に刀を置き、目を閉じていた男は、ゆっくりと目を開けてこちらを見る。
「何をしに来た」
「えっと………装備について教えて欲しい」
「………帰れ」
失望したような眼をこちらに向け、もう一度目を閉じ瞑想を始めた。
この前の態度もあってか、無性に腹が立った僕は気が付いたら魔法を放っていた。
座禅を組んだまま炎を防いだ男は、怒りの表情を見せた。
「何で魔法が?」
『こういう時は拳を交えるのが手っ取り早いんですよ』
何故アイが勝手に魔法が使えるのかは置いといて、今は目の前の男をどうにかしないと不味い。
刀を抜いた男は、ゆっくりと立ち上がり口を開いた。
「俺は瞑想を邪魔されるのが、一番嫌いなんだ………」
ヒュッと風切り音がしたと思ったら、展開されていた魔導書が真っ二つになった。
触らぬ神に祟りなし、こういう状況の事を言うんだと改めて認識した。
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