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賢王の書~ ELSIUM OF EUPHORIA~  作者: LSABA
一章 本当の始まり
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第36話

 夜になり、辺りもすっかり暗くなってきたころ、初めてこっちで眠った時みたいに木の上で眠りにつこうとしていた。

 僕は寝るとき、色々考え事をするタイプなんだが、深く考えすぎれば眠れなくなってしまう事も多々あった。

 だからいつものように深くは考えないように、このゲームについて考えていたのだが、ふと疑問に思ったことがある。

 こっちで寝ても、あっちでは一時間。五日で五時間、今に至っては一か月が一日だ。最初も疑問に思っていたが、よくよく考えれば流石にやりすぎでは無いのか?

 一日ログインしなければこっちでは一か月。流石に時間の進みが早すぎる。


『そう考えれば確かにそうですね。いっそ時間の進行を同時にすればいいとも思いますが』

「確かにそうなんだけど、僕たちが言ってるだけで他の人たちは普通かもしれないしね」

『………無くはないですね』


 そんな話をしてるうちに、いつの間にか僕は眠っていた。今が予選中だという事も忘れて………。


————————

 

『ギャリギャリ!!!!』


 鉄と鉄をこすり合わせたような不快な音が脳内で響き、僕は目を覚ました。

 アイが発した音という事が直ぐに分かり、そして切りかかってくる男が目に入った。


「油断しすぎじゃないか?ボウズ!」


 振り上げられたロングソードを、寸前で避けたが少し掠っていたらしく頬から血が垂れる。

 油断も何も寝起きで剣を向けられるとは誰も思わないだろう。


『朝七時から攻撃可能です。恐らく丁度になる時間を見計らって近くで待機していたのでしょう』


 とてもいい戦法とは言えないが、ダメという訳でもないしやられたら油断していた方が悪い、という事になる。今日は寝るときしっかり警戒してから寝よう。

 納得はしたが、イライラが収まるとは限らない。知らなかった僕が悪いにしても、流石にこれは………。


「僕は、荒い起こし方は嫌いなんだ!」


 寝起きドッキリという文化が大嫌いな僕からしてみれば、今はそれとほぼ同じ状況。相手を倒すには十分すぎる理由だった。

 胸と足、少し軽めに腹の部分を守る鎧を着こんだ男、身軽な動きで剣を振っているが、躱すか防壁で防ぐ。

 

「チッ、ちょこまかと!」


 しびれを切らしたのか、隙の多い上段からの振り下ろしをしてきたので、避けて地面に付いた剣を土の魔法で離れないようにし、開いた顎に掌打を叩きこんだ。

 白目をむいてカクンッと倒れた男は、まもなく転送された。

 それを皮切りに、あちこちで戦闘音が響いた。どうやら同じ考えの人は多かったらしい。僕も巻き込まれないように、移動を開始した。もしかしたら今日で終わるんじゃないかという位の音があちこちで響いていた。昨日の内に三分の一位は脱落しているはずだから、ここを生き残れば本選に————————

 

「十匹目」


 走っている途中にそう聞こえたと思ったら、目の前に髪の長い男が現れた。流石に反応しきれず蹴りを食らってしまい、後方に吹き飛ばされる。 

 衝撃が残るタイプの痛みで、数秒苦しんだが我慢して立ち上がった。

 負ける………。ここで脱落を覚悟するほど、相手との力量差がどれ程離れているのか想像できなかった。瞬きをするだけで負けが確定しそうで、相手から目が離せない。

 しかも、相手はプレイヤーではなくNPC。確実に上位プレイヤー位の強さはあった。潔く降参しようか、それとも抵抗しようか迷っていた時に試合終了の鐘の音が鳴る。


『終了ー!残った選手は、一斉に転送を行います。戦闘を止めてそのままお持ちください!』


 流れたアナウンスを聞いて、男は残念そうに刀を鞘に戻した。

 いつの間に抜いたのか分からなかったが、あと一秒でも試合が終わるのが遅かったらあの刀で切られていただろう。


「命拾いしたな。本戦ではこうはならんぞ」


 予選と違い本戦は勝敗が決まるまで続く、この人はそう言いたいのだろう。

 運が良かったのは百も承知、ただ今はその運に感謝しておこう。

 転送が始まり、十五名の選手が闘技場に転送された。それと同時に歓声が響き、闘技場の熱量が増す。

 

『さあ!本戦出場者が決定しました。この中で優勝するのはいったい誰なのか!?』


 試合順などは全ての予選が終了してから決まる。だから今からはもう一度観戦に戻ることになる。

 控室には戻らず、そのまま観戦席に行くか外に出るかのどちらかだが、僕は席をとれていないので外に出ることになった。次のパーティー戦の予選アナウンスが流れる中、闘技場の外に出た瞬間首元に寒気を感じた。その場から飛びのき、手で首を確認するがどうもなっていない。

 

「やはり、お前は他の者とは違うな」

 

 物陰から現れたのは、さっきの男だった。

 後ろで髪を束ね、口元を鉄のマスクで隠している。細い眼からは、赤色の瞳が覗いていたが左目の方は縦方向に傷が入っていて、目は白くなり見えていない様だった。

 侍風の男は、僕を暫く見ると不思議そうに言った。


「お前は何故、武器を使わんのだ?」

「どういう意味ですか?」

「いや、お前の体術。この試合中ずっと観察していたが、拳闘が主の体術では無いだろう。何故だ?」


 質問の意味が分からなかった。僕は教えてもらっただけで、何の疑問も持たずに使って来た。だから、何故か?と聞かれても答えることは出来ないし、その質問の意味を理解することも出来ない。


「僕は、武器を装備できないんですよ」

「何故だ?」

「………。固有装備と言って、僕は本を持ち運べる物を装備しているので他のを持てないんですよ」

「固有装備………。何故装備出来ないと思う?」


 正直何故しか言わないから面倒くさくなってきたが、ここで無視するのも悪いので答える。


「そう言われたので」

「そうか、ならば貴様はその程度という事だ」

「………どういう意味ですか」

「どういう?そのままの意味だ」


 そう言って、刀を持った男はその場を去った。僕の闘志に火をつけてから………。

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