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賢王の書~ ELSIUM OF EUPHORIA~  作者: LSABA
一章 本当の始まり
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第35話 衝撃

 数名の脱落者がアナウンスで発表され始めた。

 脱落者と言っても未だ十名ほど、参加者の殆どは残っている。

 どうやらソロ部門の場合、一人で楽な分襲われた時のリスクが高いらしい。自分の完全なる死角から、自分が気づく前に攻撃されればほぼ確実にリタイアだ。だから参加者の殆どは警戒に意識を集中させ、漁夫の利を狙うらしい。さっき実際にその現場を見たし、試合の動きを考えても間違いないだろう。僕の最初の戦闘も、開始直後だったから良かったが、タイミングが違えば僕も脱落していたかもしれない。

 作戦を練りながら、僕は森林エリアで息をひそめていた。何故そうなったのか、理由は少し前に遡る。

 開始十分後、未だ草原を歩いていた僕は熊に遭遇した。と言っても本物の熊ではない、熊の様な人だ。岩でも詰め込んでいるのかと疑う程のゴツゴツとした大きな肩、僕の頭ぐらいなら簡単に握りつぶせそうな手、少し離れた所で僕が先に発見したので、見つからないように行こうとUターンしたとき、岩が飛んできた。

 距離はあったし音も立ててない。なのに奴は気づき、自分の背丈と大して変わらない二メートル程の大岩を投げ飛ばしてきた。

 

「何だよあれ!おかしいだろ!」

『逃げるしか無いでしょうね』

「分かってるよそんなこと!!」


 脱兎のごとく走り出した僕に、軽々と追いつきそうな熊は、僕が魔法で作った土壁も笑いながらタックルで破壊して進んだ。


「ガハハハハ!無駄だケント!」


 追いつかれそうだったので強化魔法を軽めに使用し、森に逃げ込んで現在回復待ちという訳だ。

 流石にあれは怖かった。ただのデカい人ならそうでもないが、魔法も使わない特殊な装備を付けてるわけでも無い、ただの上裸のおじさんが、トラック並みの破壊力を持って突っ込んできたら話は別だ。

 あの巨体なら森だと動きにくいだろう。追ってきてる様子も無いし、草原エリアに行かなければあれに会う事は無いと信じたい。

 もうそろそろ動けるようになるという所で、戦闘音が聞こえてきた。

 剣と剣がぶつかり合い高い音を鳴らしている。案外近くで聞こえるが、今は未だギリギリ戦闘に参加できる所じゃない。

 見るだけ見ようと、木の裏から顔を覗かしてみるとさっきの熊と二十代ぐらいの男性が戦っていた。

 僕が剣の音だと勘違いしていたのは、あいつの拳の音だった。


「ありえないだろ!何だあの音!!」

『マスター。そんなに大きな声を出しては聞こえて………』

「あ………」


 気が付いたときにはもう遅い、あれとばっちり目が合い、さっきまで戦っていた男性は釘を打ち付ける様に地面に頭だけ出して埋められ、嬉しそうにあの巨体が木々をなぎ倒して走って来た。


「もう逃がさんぞ!」


 流石にこの距離じゃ逃げるのは無理、身体強化も直ぐには使えない。

 なら一撃当ててから逃げる!まともに戦って勝てるはずがない。取り合えず僕は、汚く生き残ってでも本選には出ないといけない。

 拳を少し前に出しつつ構え、あれが来るのを待つ。

 そのまま突っ立ってても轢かれて終わりなので、あいつが一歩踏み出したタイミングでその足の下から石柱を出現させ、体制を崩す。

 見事作戦通りに行き、よろけて尻もちをついた。

 この隙に今度は周りの木から垂れたツタを操り、拘束を試みる。が、当然の様にそれを引きちぎりまた向かってくる。

 もう一度石柱を試すが、盛り上がってすぐに踏み砕かれた。

 いや強すぎだろ!何しても無理じゃないか!と半ば諦めていたが、あいつの頭上のマークを見て困惑する。色がオレンジだったのだ。

 オレンジはフレンドの証、だがこんなゴリマッチョのフレンドは見たことが無い。一体どういう事だ?


『相手のプレイヤーの名前は、アーマード・サチエ。どうやらアマ姐さんの様です』

「は?」


 いやいやいや、アマ姐さんは女じゃないの?今は、無いけど?ガッチガチの鉄板しか付いてないよ?

 待てよ………?言われてみれば確かに面影がある。しかもさっき僕の事名前で呼んでたし………。ゲーム内アイテムで性別を変えた?でもそんなの無いはずだし………。


『アーマード・サチエ。通称アマ姐さん、九帝と呼ばれるプレイヤーの一人で通り名は両性類のアマ姐さんです。日によってランダムに性別が変わることからそう呼ばれるようになったようです。つまりマスターが最初にあった日は女、今は男というだけでしょう』

「いやいや!だけって、そもそも何でそんなこと知って——————」

『最近、マスターのパソコンにアクセスして情報収集を行っております。そんなことより、無駄話をしてよいのですか?』


 アイがそう言った時には、アマ姐が目と鼻の先に居た。薙ぎ払う様に振られた右手を、寸前で避けたが僕が隠れていた木は吹き飛んで無くなった。

 あれが自分だったらと思うとゾッとしたが、回避後すぐに体制を整えないと追撃が来る。

 火の魔導書を引っ張り出し、僕は構えたまま魔導書をオートで発動させる。最近身に着けた技術だが未だ練度が足りないせいで、結構集中しないと直ぐに使えなくなる。

 飛んでくる火の玉をまるで虫でも払うかの様に手で払いのけ、勢いよく突っ込んでくる。一応避けれるが、回避後の隙が大きい。

 何度か避けてるうちに、周りの木が無くなり見晴らしがだいぶ良くなってしまっていた。ただ、流石にアマ姐さんにも傷が目立つ。木を素手で壊して無傷だったら本物の化け物だ。

 

「そろそろ決着か?」

「ええ、そうですね!」


 二つの岩壁を出現させ、一本道を作り出す。

 バレバレの誘導だが、あの人なら間違いなく突っ込んでくるだろう。


「面白い!いいわ乗ってあげる!!」

 

 予想通り突っ込んでくるアマ姐、いくつも壁を作り道を塞ぐが、全て頭突きで破壊される。

 最後の壁が壊される………かと思いきや、鈍い音を上げて人が倒れる音がした。

 それもそのはず、最後の壁は中に鋼を混ぜた岩盤。避けてる間ずっと準備してやっと完成したものまで破壊されれば、完全に僕の負けだった。

 転送音が聞こえ、アマ姐の姿は無くなった。一気に疲れが出てしまいその場に座り込む。すると、待ってましたと言わんばかりに後方から矢が飛んでくる。

 完全なる死角に思えただろうが、流石に警戒はしてる。矢を掴みその場に捨てると、射手と思われる女性の声がした。


「何よ、どっちも化け物じゃない!」


 直ぐに立ち上がり、鋼で作った槍を風に乗せ速度を上げて投げる。

 見事命中し、アマ姐と同様に転送音が聞こえた。岩の中に仕込む時と違い、ただ先端を尖らせるだけなら早いから便利な魔法だ。

 転送音がすると、それに群がるように他の参加者が集まってくる。流石にここまでか………と胡坐をかいて座っていると、一向に参加者が集まってこない。

 この戦いで近くに居た参加者も離れたのか?とか考えてたらアイが呆れたように、


『十七時以降は戦闘は禁止です。弓使いを倒した後に放送がありましたよ?』

「え?嘘、全く聞こえなかった」


 アイのため息が聞こえた気がしたが、空耳だろうと言い聞かせご飯の準備を始めた。

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