第33話
遅れました
「何故大会に?ケテルさんには十分注意されていたはずですが?」
「んー?ああ、あいつの事か。ラジエル、お前はおかしいと思わなかったのか?」
「おかしい?何が?」
本当に分からないという顔をしていたラジエルに、コクマーは似合わない真剣な表情で答えた。
「あいつにとってはたかがゲーム。死の恐怖と天秤にかけるものじゃない。だがあいつは人命をとった。流石は特異点、だが………」
「何ですかじれったい」
「殺し合いを知らんガキが何故あの場で最善を選択できたんだ?」
「それは………」
「ハハッあいつ、なんかあるぜえ………」
口角をつり上げたコクマーを見て、ラジエルはいつも通りため息をついた。これに巻き込まれた少年を哀れに思いながら………。
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国立、大闘技場。
世界各地にある様々な闘技場の中でも最大を誇る、この国の自慢の一つ。
場外に設置された巨大なスクリーンやその他必要施設等、王都の大半を占めている。
この闘技場が出来たのはこの国が建国されて直ぐ。数百年かけてコツコツと増築を重ねているらしい。
国王、いや。父王コクマーの完全なる趣味である。
父王は公の場では仮面を被り、その素顔は誰も知らない。と本人は思っているらしい。
秘密の王はかっこいい!と言って二百年位前から始めたらしいのだが、そもそも絵も残っているし大会で顔も晒しているから国民は全員、顔は把握していると聞いた。
「そもそも、父王は体がデカすぎる。あれ程の肉体を持った奴は早々居ないし、建国当初から生きてる超人種だ。バレない方がおかしいんだよ」
と、さっき通りかかった屋台のおじさんから聞いた。
どこに行っても串焼きの屋台はあるし、匂いにつられて食べたくなるのは普通の事だ。情報も聞けたしいいぐらいだろう。
『コクマーは超人種で通っている様ですね。セフィラが生まれたのは一万年以上前ですし、ここが国になったのは五百年前です。結構な古い国になりますね』
超人種とは、旧科学時代後期に誕生した種族だ。
死ぬことはあるが、病気にかからず老いることも無い。そして超人種の誰もが必ず特異な才能を持って生まれる。
聞いた話では、かつて月を破壊した女が居るとか。かつては一つしか無かった月だが、超人種の女が持っていた大剣で両断し、今の双子月になったと言われているらしい。
まあ、絶滅したらしいので本当の事を知る人は居ないだろう。
食べ歩きながら向かったのは闘技場だ。今日から開催された予選。僕は六日後なので今は観戦したりして時間を潰している。
「さあ!今年もこの時がやってまいりました。我らが父王主催!大闘技大会タッグの部サバイバル予選の開幕です!」
花火のような音と共に、闘技場から大歓声が響く。
ちなみに僕は中には入れなかった為、外の大スクリーンでの観戦だ。
まあ、実は予選は中と外あまり関係ない。予選で選抜されるのは十五組程、その中でプラス人枠だけ父王推薦枠が存在し、大会の中で父王のお眼鏡にかなったものは本選に行けるという物だ。だが前例は三回ほどしかないらしい。
この大会、約十五組を選抜するのに参加者は百組を超える。そのため狭い闘技場では選抜は困難。初めのころはそこまでだったらしいが、今では各国から集まる。そこで考案されたのが、父王の側近。百聞百見のラジエルの固有スキル。空間掌握による別の場所での予選だ。
僕が使った物とは違い、入り口を指定しそこに入った者を別空間へ飛ばすものだ。
これで参加者たちをゴーラ王国領地の山に転送。そこでバトルロイヤル形式で試合を行い、残った十五組を本選に出場させる。
だがこれでは試合を見れない。そこでまたラジエルの出番。異名の由来でもある全てを見る力を使い、試合の映像を闘技場に設置したスクリーンに送りそれを観戦すると言った形だ。
戦いが始まればそれを優先して流すらしいが、この予選各部門ごとに三日の期間が設けられている。食事も自足自給、完全サバイバルなわけだ。つまり見られて困る所は流さないようにしているらしい。
大会期間はほとんどの仕事が休みになるそうで、闘技場で寝泊まりする人が大半らしい。夜は攻撃しない暗黙のルールがあるらしく、泊っているのは席をとられたくない人だろう。
「開始早々戦闘が始まった!我慢が出来ない荒くれ物は誰だー………おっと!?」
解説の女性の声が聞こえたと同時、スクリーンが草原に切り替わる。
この予選会場、草原、山、滝や洞窟等様々な環境がある。実際の自然を利用しているから当然なんだが、こういった草原では弓等の遠距離攻撃を警戒しなければならない。
今始まった戦闘も、姿を消していた選手が弓を放ったことで開始している。
「見えない射手から放たれた弓を、ノールックで防いだ!これは有力候補の予感だあ!」
映し出された人物は、妙に既視感があった。
青と赤。二人の少年は、前よりも装備が充実している。
「へえ………。2人も出るのか」
友人の出場を知り、応援する気持ちと学校で会ったら話のネタにしようという考えが浮かんできた。
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