第3話
調べてみて分かった事だが、本体設定は電源が付いた時点で半分は終わっていたらしい。元々設定の大半はアバターの設定だった様だ。
VRゲームはアバターが必要だが、現実と体格が大きく異なる物にすると生活に影響が出る恐れがあるため、あらかじめスキャンを行って大まかな情報を固定するらしい。
それがゴーグルをつけるだけで出来ていたと知ったときは驚いた。
後は年齢確認やその他の設定らしいんだが、発売されてる他の機器と番号が合わないせいで設定画面の出し方が分からない。他は眼鏡とかコンパクトなものが多いし型落ちなのかな?
「設定はどうやって開くんだ…」
ポツリと小さな声でそう呟くと、ゴーグルから電源を入れた時の様な機械音がしたと思ったら、機械的な声が響いた。
『設定画面への切り替えを実行します。生年月日・所在地・使用言語の設定を行ってください』
「うお!」
流石にびっくりして声が出た。まさか音声認識だったとは思ってもみなかった……。
設定画面が開かれたが入力方法が分からない。これも聞けば教えてくれるのかな?
「入力はどうすれば良いの?」
『入力方法はキーボード操作を推奨します。タップによる入力も可能ですがパソコンとの接続の後、キーボードによる入力が最も確実です』
毎回話始める前に起動音が流れるのにはなれないが、言われたとおりにするのが早いだろうな。
でも接続方法も分からないな。パソコンはある程度使える方ではあったが、こういうものは初めてだからよくわからない。
『パソコンの接続は専用データのダウンロード後、パソコンによる操作で接続可能です』
「そうなのか…ありがと……う?僕今声に出した?」
『いえ、脳波の解読により思考を読み、疑問にお答えしました』
「へー…AIって思考読めるんだ。作った人は相当頭いいひとなんじゃない?」
『マスターは仕事の片手間で私を作られました。想像するにあまり難しい事ではない気がします』
技術の進化ってすごいんだな…。昔はAI何て考えられないようなものだったらしいし、そもそもVRすら無かった様だ。遡って考えればパソコンもあり得ない技術だっただろう。そう考えると普通の事なのかな?
まあ設定方法も分かったし一つ一つ終わらせていこう。パソコンとの接続を済ませ、情報を入力していく。
2030年5月6日生まれの住んでるところは日本、言語も日本語であと名前か。
「名前は灰野賢人っと」
入力を終わらせて確定すると今日だけで何度も聞いた機械音が聞こえ、機械的なAIの声が響いた。
『本体設定の終了を確認……情報を記憶。最後に音声認識の為の固有名称の設定を要求。設定完了後はVRダイブ中も音声による検索及びその他の機能の活用が可能になります』
「つまり……君の名前を決めればいいってこと?」
『はい』
「んー名前か……」
正直名前何て付けたことがない。
ペットを飼った経験も無いし、花や自分の持ち物に名前を付ける程豊かな感性は持ち合わせていない。
ゲーム中に使うのであれば呼びやすい名前が良いだろうし、声も機械音性のせいかやけに女の子っぽいからなあ
「じゃあアイで。AIだし」
『名称をアイに設定します。それではマスター、改めまして。T社個体識別番号003学習型ラボAI…アイでございます。これからマスターのサポートをいたします。よろしくお願いします』
「よろしく。じゃあ早速で悪いんだけどFAがしたくて……」
『了解しました。起動を開始します』
初めてのゲーム。しかも自分が興味を持った物だ。絶対に面白い、僕はそう確信していた。最初は少しでも今を変える要因になるかもと思って調べたものだったが、今は純粋にただこのFAというゲームを楽しみたいと思っている。未だ見たことのない新たな世界を自分で見つけていきたい。
ああ、そうか。忘れる程感じていなかったこの感情は、好奇心だ。
「僕はワクワクしてるんだ……」
『起動準備完了。行ってらっしゃいませマスター」
アイがそう言ったと同時、僕の意識は眠りについたように落ちていった。
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薄暗い部屋。無数のモニターの光と機械音。タイピングの音が響く部屋。
その中でも一際大きい、黒板程のモニターの前で煙草をくわえた男がいた。
「宗助君。ここら辺に置いてあった。3番個体を知らないかい?」
「3番ですか?3?……3は———ああ、龍二さんのゴーグルですか?」
「そうそうそれそれ、業務中にサブ機として使うのはやはり彼の物が一番効率が良いからね。丁度彼も帰ってるし少し拝借しようと思ったんだが—————」
「それなら龍二さんが持ち帰ったはずですよ」
「持ち帰った?3番をかい?」
「はい。昨日確かに手にもって帰るのを見ましたよ」
「彼が仕事を家に持ち帰るとは考えにくいが……何故かわかるかい?」
「詳しくは分かりませんが……あ!そう言えば。龍二さんが昼食の時にこれを秋さんに渡して欲しいって」
「ん?手紙かな?どれどれ、相変わらず丁寧な字だねえ。パソコンで打ち出すのと大差ないじゃないか」
「え!?それ手書き何ですか?」
「そうだよ。昔からパソコンで入力したみたいに綺麗な字を書くんだよ……ん?二日ぐらい休む?あの龍二が?いやまてよ……あいつが休んだらいったいどれぐらいの仕事が僕に回ってくるんだ?」
現実から目を背ける様に、秋はもう一本の煙草に火をつけた。
大きく吸って吐いた息は、たばこの煙と一緒に直ぐに消え聞こえなくなった。
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