第29話
日が落ちてきた位で、村に到着した。名前はついていないらしく、住民数の問題でそうなっているらしい。
確かに住民が三十人に満たない。それに年齢層が高い気がする。
村長に話を聞いたが、若い世代は町や王都に行きそこに住むのが普通で、歳を取ったら帰ってくるのが殆どの様だ。
おじさんと村長は昔からの仲らしく、こうやってよく家に泊めてくれるらしい。
「儂はこやつと冒険者をやっとったからな。商人になっても仲間は仲間じゃ」
「いつもすまねえな」
村長は一人暮らしらしく、夜ご飯も自分で準備しだした。
僕も手伝い、三人分の食事を作り皆でテーブルを囲んで食事をした。
食べ終わってゆっくりしていた時、ふと壁にかけてある写真が目に入った。村長に似た男の人と、もう一人の知らない男。そして仮面を被った人、その人は背中に大きめの剣を背負っていた。
仮面の人の隣にも女性らしき人が居たが、だいぶ古い物らしくかすれて顔が認識できなかった。
「それは、儂の遠いじい様の写真じゃ。二百年位前の物らしい。当時冒険者だったじい様は、双子の姉妹と大男と冒険をしとったらしい。だが、あることがあって解散したそうじゃ」
「ある事って………?」
「それは、双子の姉の方が死んだそうじゃ。魔法使いだったその人は、頭もよく物知りじゃったらしい。妹は姉の遺体と共に何処ぞに引きこもり、その後は知らん。と伝えられてきた。儂も父から聞いた話じゃ、本当かどうかは分からん」
何百年も伝えてきたという事は、大事な事なんだろうか?聞きたかったが、当事者はとうの昔に亡くなっている。真実を知ることは不可能なんだろう。
だからあまり気にせずに、その日は眠りについた。
次の日の朝。少し早めに村を出発し、詰所を目指した。道中何事もなく、昼過ぎに詰所にたどり着いた。
もう少し進めなくは無いが、今進むと中途半端なところで野宿になってしまうらしい。だから少し早いがここで止まって一日を過ごす様だ。
詰所には八名の兵士がおり、辺りを見回りながらここの管理をしているらしい。深く流れの強い川に橋を架け、そこに門をかまえるように立ててある詰所なので、怪しいものは直ぐに分かるそうだ。
「そういえば、ここら辺に盗賊が出るって聞いたんですが」
「ああ、それならさっき龍の面を被った兄ちゃんが全員縛って持ってきたよ。だから今後輩二人が王国まで移送してるところさ」
どうやら盗賊は居たが今はもういないらしい。道理で道中何もない訳だ。
ただ盗賊を捕まえたのは兵士達ではなく、あの龍王だった様だ。あの人の事だから、行く途中ついでにやったといった感じだろう。あの時も助けてもらったが何も求めなかったしね。
じゃあここからゴーラ王国までも安全だろう。そう安心しきって、僕は眠りについた。
次の日。兵士たちと朝ごはんを食べてから出発した。
朝早くの出発だった為、朝陽が未だ昇っていなかった。少し霧が出ているせいか少し不気味な雰囲気が漂っていた。
詰所から出て数分の街道。霧が濃くなり、前も見えづらくなってきた。少し肌寒さを感じていると、鼻を刺す嫌な臭いに気が付いた。
「何だこの匂いは………」
「臭い………。おじさんこの布使ってください」
おじさんに鼻を覆うための布を渡し、自分も同じものをつける。
少しマシになった程度だったが、無いよりは遥かにマシだった。それから一分もしないうちに、霧の中から急に人影が現れた。
いや、どちらかと言えば現れたのは僕たちの方だった。目の前に居る男の人は立ち止まっていたからだ。一瞬龍王かと思ったが、背格好が全然違ったから違うと判断した。
「ん~?ああ、すまん。ここ通られへんねん」
「どうしてですか?」
「ちょっとめんどくさいのが通ってな、今それの後処理中や」
そう言った男の人が僕に向かって右手を向けてきた。
開かれた右の手のひらからは、離れていても分かるほどの熱が伝わって来た。
避けようと思った時には遅く、男の人の手のひらに浮かんだ「爆」の一文字が赤く光り、辺りに爆発音が響いた。
「ドシャ………」
爆発音の後に、僕の後ろで何かが倒れる様な音がした。
そこを見ると、何も倒れてはおらず黒い炭のような物が落ちているだけだった。
「びっくりさしてごめんな。ちょっとだけ待っといて~」
男の人はそう言うと、手を胸の前あたりでパンッと叩いた。すると風が吹き荒れ辺りの霧が飛んで行ってしまった。
晴れた視界が捕らえたのは、街道を横切るように続く真っ黒な道。それはビル位の大きさはあった。
そしてその黒い道から湧き出てくる、同じく黒い人のような者。目も口も鼻も何もなく、ただふらふらとこっちに向かってくる。
そのことごとくを爆破させる男。頭だけを綺麗に狙い、吹き出る黒い飛沫は花が咲いている様だった。
百体に届くか届かないかぐらいの数を処理し、男はこっちに向き直った。
「じゃあ、道のとこだけ綺麗にするからはよ行き。僕はもうちょいやる事あるから」
そう言うと、真っ黒だった道の下から綺麗な道が見えてきた。
だが依然として、その周りは黒いままだった。道端に生えている草や花でさえ、枯れたように真っ黒に変わっていた。
「何が何だか分からないけど、ありがとうございました」
「お前さん、俺もよく分からんがありがとな」
「かまへん、かまへん。仕事や」
横を通り過ぎるときにお礼を言い、そのままゴーラ王国まで向かう。
男の人の名前を聞かなかったと思いつつ、手を振っておく。すると、
「しっかり見つけるんやで~~。あと、楽しみや~!」
「………!?それって!」
もう既に見えなくなった男の人は、何かを知っている。
今だけで気になることが増えた僕は、ノートを取り出しペンを動かした。
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