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賢王の書~ ELSIUM OF EUPHORIA~  作者: LSABA
一章 本当の始まり
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第25話

 学校が休みの土・日祝日は、普通に過ごしていた。テレビを見たりダラダラして一日を終わらせていた。

 だが、学校がある日に休んだことは無かった。だからか、一秒がものすごく長く感じてしまう。暇………とも少し違う気がする。言葉で表せないような気持ちを抱えながら、僕はただベットに寝転んでスマホをいじっていた。

 ゲームもやる気にならない。向こうでは一か月以上経過しているんだろう。そう考えると物凄く長い間意味のない時間を過ごしているんだと思った。

 だが今行っても無意味、セフィラも手に入らないしそれに………。


「………セフィラが手に入る………?」


 世界を支えるセフィラ。それが手に入ると何故思っていた?そんなことはありえないはずだ。

 じゃあ、セフィラを探してどうするんだ?本当に世界の事が分かるのか?


「そうか、そういう事だったんだ」


 僕はパソコンを立ち上げ、セフィロトの樹についての文献を読み漁った。

 それだけで時間は直ぐに過ぎて行った。今日は金曜日、明日は普通に学校は休みだ。


————————


 『おかえりなさいませ、マスター』

 

 機械音と共に、少し含みのある声がした。

 暫く聞いてなかった声に、何だか懐かしい気がした。


『答えは出ましたか?』

「うん。待っててくれてありがとう」

『いえ。私はそういうものですから。ではFAを起動します』


 強烈な眠気と共に意識が薄れ、見慣れた景色に切り替わる。

 滞納分の宿代を払い、僕は迷わず教会へ向かった。大きな扉は僕を拒むことは無く、迎える様にゆっくりと開いた。


「お久しぶりですね。ケントさん」

「お待たせしました」


 僕を値踏みするように見るケテル。

 一瞬だけ目を閉じ、そして同じく一瞬だけ笑みを浮かべ言った。


「では、汝に問う。何故我らを求める」


 優しかった口調は急に様変わりし、圧倒的上級種としての威厳がそこにはあった。

 全てを見透かす瞳は、期待と不安の色に染まっていた。


「僕は、ずっと考えてました。先生に言われた、本を書くというのは僕の目的じゃないのか?と、でも答えは出なかった。でも、僕がこの世界の事を見たい、知りたいと思った気持ちは本物だ。僕は………僕はこの世界を知りたいと思った理由を探すために、旅がしたい。セフィロトの樹はついでです」

「それが汝の答えか」

「………はい!」


 暫くの間沈黙が続いた。

 そんな静けさを掃う様に、ケテルが手を叩き拍手をする音が響いた。


「素晴らしい。この回答は予想していませんでした。本当に素晴らしい」


 ケテルは本をめくりながら手を左右に動かす、すると教会のあちこちから光の粒が集まり、ケテルの前で形を成す。

 それは懐中時計の様な物に変わり、ゆっくりとケテルの手に落ちて行った。

 一つの大きな石を一周し囲む十の穴、そこの一つに白い石が嵌められた。


「これは私の本体のかけら、これを持っていれば次のセフィラの近くに行けば反応します。私の役目は、これを渡すことと後もう一つ」

 

 僕に時計を手渡したケテルは、真剣な表情で言った。


「思考することを止めないでください。何事にも疑問を持ちなさい。何故そうなるのか、どうしてなのか。そうすれば答えは必ず見えてくる。そして最後に、これが一番大事です。線引きをしっかりしなさい。それを怠れば、いずれ溢れたモノに飲み込まれますよ」

「それってどういう………」


 そう言いかけたケテルが、口元でバツ印を作り言った。


「言ったでしょう。考えなさいと」

「そう、でしたね」


 僕は時計を強く握りしめた。回答としては十分では無かったかもしれない。何故と聞かれたのに分からないと答えたのだ、十分であるはずがない。でも、いつかちゃんと分かったらもう一度言いに来よう、そう決心し教会を後にしようとした。すると肩を掴まれ足が止まる、僕を止めたのはあの大男、メタトロンだった。


「頑………張って」


 少し低めの声でそう言ったメタトロンは、親指を立ててにっこり笑った。

 見た目に反して可愛いなと思ったのは内緒である。今度こそ………と思ったが今度はケテルに呼び止められる。


「あ!そうそう、ケントさん。わざわざ来なくてもその時計を使えばいつでも話せますからー。頑張ってくださいね」


 ………………僕の決心を返せ。


————————教会


 賢人が去って静かになった教会。少し名残惜しそうな表情をしたケテルが、独り言のように呟いていた。


「まさかこれから見つけます。何ていう返答がくるとは思いませんでしたね。ですが彼は心からそう言っていた。本当に面白い」


 パラパラと本をめくり、最後のページでその手を止める。

 そこには縁がボロボロになった写真が張り付けてあった。大人数で撮ったと思われる写真には、ケテルの姿とメタトロンの姿があった。

 

「本当に懐かしい。期待していますよ、巫女の忘れ形見………」


 静かに本を閉じたケテルは、ゆっくりと目を閉じそしてメタトロンに言う。


「さあメタトロン仕事の時間ですよ。今日も迷える人の子らに可能性を見せていきましょう」


 小さく頷いたメタトロンは扉を開き、ぞろぞろと人が中に入ってくる。全員が座ったのを確認しケテルが口を開く。


「皆さん。おはようございます」


 今日もケテルの一日は始まった。新たな可能性に希望を抱きながら、迷える人たちに救いの手を差し伸べる。

 これが、第一のセフィラ、ケテルの役割だった。

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