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賢王の書~ ELSIUM OF EUPHORIA~  作者: LSABA
零章 書き出し
20/149

第20話

 銭湯でさっぱりした後、二人が言うので牛乳を買って飲んだ。

 どうやらこれがお決まりらしい。


「良いか賢人、牛乳はビンだから良いんだ。右でにもって左手は腰!そしてグイッと!!」


 将太に言われたとおりに飲んだ。

 三人一緒に飲んだ久しぶりの牛乳は、記憶にある物よりもおいしく、少し身長が伸びた気がした。


————————


 あれから数週間が過ぎた。

 学校では二人と良く話すようになり、時々ゲームも一緒にしている。帰りに遊ぶこともあったし、あと圭吾が僕を下の名前で呼ぶようになった。

 ゲームの方は、目的だったレベルアップの実を手に入れることが出来た。なんと製作者はフーガさんだった。

 生まれ持ったスキル凝固を使って経験値を固めていたらしい。だが、浮いているわけでも無い経験値をどうやって固めていたのか?と聞くと、


「あ?そんなもん、モンスターが倒れる瞬間に出るだろ?」


 と言っていた。後日二人に聞いてみたが、経験値何て見たことが無いとの事だった。


『この世界の住人とマスター達の違い……でしょうか?』


 分からないし考えても答えは出ないだろう。この件は一旦保留だ。

 レベルに関しては十分上がったので、次の街に行けそうだ。ただその前に……。


「いらっしゃい」

 

 こじんまりとした店舗。少し路地に入った所にあるそれは、未だレベルアップの実を探し回っている時に見つけた。

 その時は余裕が無かったから入れなかったが、今はそんなことは無い。

 ここは、本屋だ。紙の匂いがする店内は掃除が行き届いていた。

 何か見たことが無い本があるかと思って入ってみたが、中々無い。今は大図書館に収納されている物以外の本を光らせる様にしてある。

 この機能は、僕がレベルアップしたことで解放された、大図書館の新しい能力だ。


『流石に全て収納済みですね』

「まあ、ほぼ全ての本を集めたって言ってたしね。簡単には……お?」


 そこには光っている本があった。

 つまり見たことのない本という事だ。これは大発見では?

 好奇心を抑えつつ先ずは購入。店を出て満を持して中身を確認してみる。

 神話を書いた古文書……等ではなく、それは日記だった。

 つたない文字で精一杯書かれた文字は、幼い子供が書いたものだと直ぐに分かった。何故本屋に?と疑問に思ったが、それ以上に内容が気になった。

 


 きょうは、ぱぱがかえってきました。

 けーきもかってくれてました。

 おいしかった。うれしかったです。


 内容は微笑ましいものだった。家族の交流や、その日の出来事。友達と喧嘩したことなど、色々書いてあった。

 少し顔が緩みながら、黙々とページをめくる。半分ぐらいに差し掛かった辺りで、開きにくいページがあった。

 どうやら引っ付いているらしい。ゆっくりとはがし、そのページを開いたとき僕は目を疑った。

 さっきまでの微笑ましい日記はそこにはなく、真ん中に大きくただ一言。「こわい」と書かれていた。そしてその文字は「い」の文字の最後が滲んでおり、ここで指が止まった事が分かった。ページが引っ付いていたのは、この文字が血で書かれていたからだろう。赤黒い文字は所々かすれたり固まっていた。

 あまりにもリアルすぎる。


『日記に書き込むことが出来たという事を考えると、モンスター等に急に襲われた訳では無いでしょうね。恐らくは同じ人類種、それも一瞬では無くゆっくりと……』

「それ以上は言わなくていい」


 あまりにも気分が悪い話だったので、もう聞きたくなかった。 

 十歳以上からプレイできるゲームにしては、生々しすぎる内容だった。そして最後のページには、壁に描かれた瞳のマークと動かなくなった女の子の写真が載っていた。

 本屋に売っていたのにも関わらず、何故こんなものが処分されずに残っているんだ?普通はこんなもの売りに出さないだろう。それに他にも気になる事が多すぎる。考えても答えが出るものは一つもない。


「分からない………」

『知識が多くなってくれば疑問は増える。当然の事です。そういう時は一度原点に戻ってみるのも一つの案です』

「原点………。あの森か」

『幸い、レベル二十突破でスキルも追加されています。そちらを使用すれば一瞬です』


 このゲームは、レベルが一定に達すればスキルが追加される。そのレベルはランダムだが、追加されるスキルは職業に近いものとなる。

 剣士なら剣術、魔法使いなら新しい魔法など人によって様々だ。

 旅人の場合、必要とされたのは「戻る」という選択肢だったらしい。それは今の僕にぴったりの物だった。

 マップを開き、メティス大森林の文字を押す。そして出てきた確認のボタンを迷わず押した。すると景色が一変し、懐かしい物に変わった。この部屋も先生と過ごした場所だ。

 変わっていない。そんなに日が立っていなくても懐かしい気持ちになった。暫くの間部屋を眺めていたが、あることを思い出し部屋を出た。そして迷わず空っぽになった図書館へ向かった。

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