第17話
目の前の赤髪が立ち上がり、鼻が触れる位の近さで僕を見る。
正直今すぐにでもログアウトボタンを押したいが、ここはグッとこらえる。押した方が後々面倒だからだ。魂の抜けた体が残るだけだしね。
「ほら、やっぱり灰野じゃね?」
「お前、違ったらどうするんだ。ごめんね、こいつ礼儀とか知らないから」
『その様ですね、初対面でここまで接近する者は初めて見ました』
先ず、僕が焦っている理由はいくつかある。
一つ目。僕はあまり……というか全く外に出ない、だから僕の事を知っているとしたら学校関係それもクラスメイトに絞ることが出来る。
二つ目。このゲームは顔は結構いじれるらしい、普通は現実とはかけ離れた顔にするそうだ。だが僕は、現実と殆ど変わらない、違う点は髪が銀髪なだけ。
『普通は犯罪対策で顔に大きな変化を与えるそうですが、私も起動後間もなかったせいで情報が足りていませんでした』
これは適当にした僕も悪いんだが……。そんなことは重要じゃない、バレたのは仕方がない。別にかくしてやっているわけでも無いしそういう事は気にしてないんだ。
では何が悪いのか?それは……
「俺は将太だよ。徳川将太」
「僕は中山圭吾。こっちでは普通にケイゴって名乗ってるよ」
「あ、俺のプレイヤーネームは将軍だ」
名前を言われても誰か分からないことだ。
あっちは僕に見覚えあるのか知らないが、僕は認識できていない。本当に誰?という感じだ。
「ほら、お前に消しゴム借りたことあるだろ?俺だよ俺」
「……ごめん、覚えてないです」
正直に言った。どうせ関わることも無いだろうし、そう思った。でも返って来た言葉は僕の予想外の言葉だった。
「だよなあ、お前他の奴らなんか興味ないって感じだったもんなー。でも!お前もゲームやるんだな!何時からやってんの?」
「え、いや最近始めた。ほんと…二、三日前に……」
「何!?二、三日前だって?それにしては進む速さが早すぎる、ちょっと灰野君。僕にも話を——————」
その後はあまり覚えていない。
色々と話をさせられて直ぐに別れた……はずだ。でも、気が付けばログアウトの時間になっていた。
『少し、楽しそうでしたよ』
「本当に?僕は一瞬の事みたいに感じてあまり覚えてないよ」
『……楽しいことは一瞬。と言いますからね』
————————
電源を落としたゴーグルを外し、パソコンにつなげる。
明日は学校。少し憂鬱な気分で眠りについた。
朝。目を覚ますとパソコンが付いていた。ゴーグルも電源が入っていたので何事かと思った。
パソコンの画面は目まぐるしく変化しており、開いては閉じを繰り返している。
だが数分すると消えたので、後でアイに聞いてみようと思った。
リビングに出ると、二千円が目に入った。やはりここは変わらないらしい。その二千円を持って着替えてからコンビニへ向かった。
「らっしゃーせー」
いつもの店員がいつも以上に抜けた挨拶をしてくる。
それを聞き流しつつ、いつも買っているパンがある売り場に行った。が、そこにそのパンは無かった。
売り切れ?いつもこの時間は余ってるはずなのに……。仕方ない別のを買うか。
適当なパンを持ってレジに行くと、さっきの店員が話しかけてきた。
「ああ、いつもの…すいません。あのパン販売停止になったんですよ」
「あ、そうですか。わざわざ有難うございます」
少し残念な気もしたが、そこまで好きだったわけでも無いのであまり気にしなくても良いだろう。
「ありがとうございましたー」
通学路、しっかりと周りを見たことが無かったからか、少し新鮮な感じがする。
自分の家を守るように立っている大型犬が、こっちを向いて吠えていたり、二歳児ぐらいの子供を抱きかかえた母親がベビーカーを押しながら歩いている。中には赤ちゃんが乗っており、二児の子育ては大変そうだった。
そんな風に周りを見ながら歩いていると、もう学校に着いてしまった。
ため息交じりに下駄箱に向かい、履き替えて教室に入るとすぐに声をかけられた。
「よお灰野!眠れたか?」
「おはよう灰野」
昨日の赤青だ。どっちが将太でどっちが圭吾か分かるか心配だったが、話し方で直ぐに分かった。
将太の方はスポーツマンの様な短髪、少し茶髪交じりな感じだ。
圭吾の方は少し長めの髪を中央から分けて流している。ただ、別にもっさり感が無い。しかも男の僕から見てもイケメンで、アイドルグループに居そうな顔をしている。
「お…おはよう」
なれない挨拶を済ませ僕は席に着いた。すると二人が僕の席に集まって来た。
「なあ灰野。賢人って呼んでいい?」
将太がそう言ってきた。正直急に近すぎないか?と思ったが、昨日の事を思い出すとまあこんな感じかと思ってしまった。
別に拒否する理由も無いのでOKする。圭吾の方はまだ灰野と呼ぶ様だ。僕的にはそっちの方が有難かったりもする。
今日一日こんな感じで二人は距離を詰めてきた。昼休みも三人で食べたし、授業中も話しかけたりしてきた。そして放課後、現在は僕の家まで行くという話になり、下校中だ。
「いやあ、賢人って話してみるといい奴だよなー。俺正直言うと全く喋んないから苦手だったんだよ」
「まあお前みたいなのが急に喋りかけてきたら、誰でも無視するでしょ」
「何だと!?」
僕も君のフレンドリーさは苦手だよ?と思ったがそんなことを口にできるはずもなく、ぐっと我慢する。
そもそもゲームで会った位、そして一日喋った程度で人の家には普通は行かない。普通お宅訪問はもっと仲良くなってからじゃ無いのか?
学校へ行った時よりも沈んだ気持ち……だったが今は少し楽しい。これが高校生活という物なのか?と思うと、少しだが嬉しくなるんだ。
「着いたよ」
「……は?ここ?」
「うん。そうだよ?」
少しの間辺りは静まり返った。だがその静寂を破るように、将太の叫び声が辺りに響いた。
「いや!いやいや!広すぎだろ!何だよこれ!?」
「これは流石に予想外だね……。しかも外装も綺麗だ」
広い?ここで育ってきたから僕にはこれが普通だけど……。まあ褒められてる気がしてなんだか照れるなあ。
驚く二人を取り合えず中に入れる。庭を通るときも、
「何だよこの花壇!デカ!広!あ、いい匂い」
「綺麗なキキョウだね。良く手入れされてる」
父がいじっているであろう花壇を見て驚いていた。
中に入ったらもっとうるさそうと思ったのは内緒だ。
感想待ってます!




