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賢王の書~ ELSIUM OF EUPHORIA~  作者: LSABA
零章 書き出し
16/149

第16話

 この領では兵士がいる場所への部外者の出入りが禁止されている。だから探す範囲は半分で済む、そう思っていたがそれは間違いだった。

 避難用の大通りの横へ入ればすぐに入り組んだ道になる。そこにも店や住居はあるわけでここから探すなんて至難の業だ。

 今日は諦めて他の事でもしようかな……と考えていると、何やら美味しそうな匂いが鼻に入って来た。匂いの元を探すように歩くと、そこには饅頭に似たものを売っている屋台があった。

 値段も手ごろでそれに見た目も良い。見ているだけでお腹が鳴りそうになる。一つ……買おうかな。

 

「あいよ!二百円だ」


 もらった饅頭は程よい熱さで食べれないなんて事は無かった。

 一口食べてみたが、絶品と言わざるを得なかった。もちもち食感で中のあんこは程よい甘さ、生地に練りこんであるのか少し塩味がするのもいいアクセントだった。

 

「おじさん、もう二個ください」

「あいよ!」


 買ったうちの一つを食べながら、さっきの事を思い出していた。

 そう言えばお金の単位って同じなんだって。こっちとしてはやりやすいから全然問題は無い、何なら有難いぐらいだ。

 でもさっき僕と同じぐらに饅頭を買っていたプレイヤーが、


「円って単語をゲームで聞くのも新鮮だよな」

「だな。他のゲームはベリーとかジェムとか色々あるもんな」


 と話していた。

 僕は他のゲームをした事が無いから違和感は無いが、他のプレイヤーからしたら違和感が強いらしい。

 そんなことを考えながら歩いていると、路地の横を通りかかったときに声がした。


「おい爺さん……い……から」

 

 少し途切れ途切れで聞き取りづらかったが、仲良く話をしているという場面ではないことは、容易に想像できた。

 よく見てみると男三人が老人を囲んで殴ったりしている。

 

「助けないと……」

『レベルはマスターより少し上程度で相手は三人、それに場所が悪いですね。武力行使はあまりお勧めできません』

「なら……こっちです衛兵さん!」


 誰かが襲われている時は、大人の人を呼ぶか警察に任せる。昔テレビで有名人が言っていた言葉だ。

 幸いあの三人はビビッて逃げてくれたので、老人の方へ向かう。

 男性だったようで、あごひげを伸ばした如何にもな人だった。

 取り合えずここにずっと居るのもアレなので、大通りに出て手ごろなベンチにおじいさんを座らせる。


『擦り傷等の外傷は目立ちますが、骨折等のこの年で命に係わる様な怪我はしていない様です。擦り傷程度ならメティスがくれた回復魔法の本で対応できます』


 そう言ってアイが緑色の本を出してくれた。

 その本を手に取り魔力を通す。MPの数値が少し減ったかと思ったら、ページがひとりでにめくれる。

 本が緑に発光したのでおじいさんに手をかざして、頭の中で回復魔法を使いたいと念じる。するとおじいさんもうっすらと緑色に光り、擦り傷が徐々に治る。

 ゆっくりではあったがすべての傷が無くなった。


「お前さん、ありがとうなあ。おかげで助かったよ」

「い、いえ。流石にまずいと思っただけで」

「それでも儂は嬉しかった。ありがとうなあ」


 そう言ったおじいさんのおなかの音が鳴った。

 どうやら昨日から何も食べてないらしく、相当疲弊していたらしい。そこにあいつらが来たから抵抗も出来なかったそうだ。

 確かさっき買った饅頭が余ってるはず。僕は紙袋から饅頭を取り出しおじいさんに渡した。


「良いのか?」

「はい。僕はもう食べましたから」


 おじいさんは饅頭を一口で食べ終わった。どうやら相当お腹がすいていたようだ。

 元気になったと言ったおじいさんは、本当に元気がよさそうだった。饅頭一個で?

 

「本当にありがとうな!儂の名前はフーガだ、物売りをしてるから気が向いたら来てくれ」


 おじいさん、フーガはそう言うと急いでその場を去った。

 良いことをしたぞ!と満足していたんだが、そんな僕の気持ちはアイによって砕かれる。


『結局目的の物を回収できていませんね』

「……今いいとこなんだからそう言うこと言わないでよ」

『申し訳ありません。ですが本当の事ですので』


 落ち込んだ……。さっきまでのいい気分が台無しだ…。

 まあ落ち込んでても仕方ないのは事実。僕は一瞬で立ち直るとレベルアップの実を求めて歩き出した。

 が、さっきまで下を向いて歩いていたせいか、直ぐに人とぶつかってしまった。


「いってえ……」

「何してんだよ。てか痛くないだろ」


 腰に剣を下げた二人組の男、一方は赤髪でもう一方は青、面白い組み合わせだと思いつつ頭上を見ると、彼らがプレイヤーであることを示すマークがあった。


「すいません。前を向いてなくて」


 僕がそう謝ると、僕とぶつかった方ではない方、青髪の男の方が口を開いた。


「いや、こいつも前を向いていなかったからお互い様だよ」


 優しい人で良かった。さっきみたいな奴らだったら今頃ボコボコにされていたに違いない。

 赤髪の人の方を見る。青い人は許してくれたが僕がぶつかったのはこの人、この人が怒ったらどうすることも出来ないし……。

 結構じろじろ見られてるし怒ってるかも……。


「お前……灰野じゃね?」

「……え?」


 どちら様ですか?

感想待ってます!

誤字報告有難うございました

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