第15話
馬車での移動中、急に馬車が揺れてそのまま停止した。
道が悪かったわけでも無いし、何かに襲われたわけでも無い。何故馬車が止まってしまったのか気になり、身を乗り出して外を見た。
僕の視線の先には、道を塞ぐように大蛇がとぐろを巻いていた。
緑色の外皮に口から突き出た二本の牙……ジャイアントスネークだ。
毒を持ち、巨体のくせに動きが素早いから危険度が高い。それに魔法に対する耐性があるはずだ。
『マスターでは討伐は不可能だと思われます』
そんなことは分かってる。でも御者の人はNPCだ、僕は生き返るが他の人は違う。
この馬車には僕の他にフードを被ったプレイヤーが一人とNPCの親子が一組、恐らく夫婦であろう若い男女が乗っている。
僕一人なら逃げられるが、このまま逃げてしまえばもうこのゲームが出来なくなってしまう、そんな気がしていた。
対処法を見つけるために、持っている本の中から良いものを探す。
『検索にヒットしたのは蛇対策と生態の本です』
対策はもう遅い、一番可能性があるのは生態か……。
流石にこういった、直ぐに必要な知識ではないものはあまり覚えていない。だからこうして一々出して見ないといけない。僕が覚えていればもっと違ったかもしれないのに。
急いでページをめくり、いい案を探していると、フードの人が立ち上がった。逃げるのかな?そう思ったが、その人は真っすぐに大蛇の方へ向かって行った。
武器も持っている様子では無いし、戦闘が専門じゃないだろう。でもその人はスタスタと、普通に歩いて向かっていた。
大蛇が威嚇をしてもかまわず、そのまま進む。射程圏内に入った者を食らうためか、大蛇は口を大きく開けて向かってきた。フードの人が立っていた付近で土煙が上がり、大蛇の顔の様な物がこっちに向かってきていた。
土煙の向こうから顔を出した大蛇からは、血が流れていた。
僕が大蛇だと思ったそれは、フードの人が大蛇の首を持ってこっちに歩いてきているだけだった。
大蛇の首を脇道に捨て、何事も無かったかのようにフードの人は席に座った。
「あ、ありがとうございます!おかげで助かりました!」
「本当にありがとうございます……」
馬車内の人たちが次々とお礼を言い、小さな女の子もお礼を言っていた。
フードの人はその女の子の頭を無言で撫でて、見返りなんて求めようともしなかった。
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辺境伯領の巨大な城壁が見えてきた辺りで、さっきのフードの人が話しかけてきた。
「このゲームは楽しいか?」
「え……?まあ、はい」
急に話しかけられたので言葉に詰まってしまったが、返答はしっかりできただろう。
声の感じで分かったが、多分男の人だ。
フードの男はフッと鼻で笑い立ち上がった。下からフードの中を覗けたが、顔は龍の面で覆われていた。
「なら良い」
そう言い残し、男は未だ揺れる馬車を後にした。
降りた先を見ても、その姿はすでになかった。誰なのか分からなかったが、強い人という事だけは分かった。
『ジャイアントスネークの首は、引きちぎられた様な形状でした。武器を持っていなかったのも考慮した結果、ほぼ百パーセント武闘家です。が、あのレベルの武闘家で特徴的な面を被ったプレイヤーのデータは存在しません』
あの太い首を引きちぎる!?素手で?しかもジャイアントスネークの首周りは鉄と同じ位固いはずだ。
やっぱり世の中って広いんだな……。と空を眺めながら考えていると、入国審査のための兵士がやって来た。
子爵領で作ってもらった身分証を見せて問題なく通過し、巨大な壁の向こうの辺境伯領へと足を踏み入れた。
ドラウス辺境伯領。二十メートルの高い壁に囲まれた都市。
隣国の侵攻を防ぐための都市だから、街の作りもそのための物になっている。
隣国側には軍の詰所や寮等が固められ、その反対側は居住地。真ん中位に店が並んでいる。万が一にでも領内に入られたとき、避難がスムーズにできる様にするためだ。
そして肝心の物だが、この領のすぐ隣にある森の奥に生るレベルアップの実……という訳では無い。
レベルアップの実、実際は人工の物でただの経験値の塊だ。先生の本には「冒険者が口にすれば力が増大する」といったことが書いてあった。だから最初は木に生っている物だと思っていたが、実際調べてみると以外な物だったのだ。
需要がある分値段も結構な物だが、作れる人物が限られているので量は少ない。製作者が気に入った人物にしか売らず、情報も少ないせいで誰が作っているのかすら分からない。
そもそも、何故こんなにもレベルアップの実を求めているのかと言うと……原因はこのゲームの仕様にある。
敵を倒して経験値を稼ぎレベルを上げ更に強い敵を倒す、戦闘職は基本これだ。
生産職の場合、鍛冶を例に挙げるなら作れば作るほど、レベルが上がっていく。
だが僕の場合、『旅人』以外の職業は無い。旅をすれば上がるのかもしれない。実際に今はレベルは五だ。だがこれ以上は敵が強くて進めない。レベルを上げる必要があるのだ。
だからこそ、僕は藁にも縋る思いでこの地を訪れることにしたんだ……。
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