第142話
歌姫のライブを聞きながら、ある程度の状況を把握していた。
魔族が攻めてきてここにもその魔の手が伸びてきたと彼らは言うが、僕はその考えを否定した。
「これと同じものを前に見たことあるけど、魔族とは別だと思うんだよね。あの時はデガが関わってたし、今回も六魔関係だと思う」
「一応魔王も六魔の一体何だが?状況的に魔族絡みで間違いないだろ」
真偽はどうあれここも危険ということに変わりはない。戦場の強い気配も動く様子はないが、これの正体も確かめておかないといけない。
ただ、重要度で言えば明らかにここが一番守るべき場所だろう。なんとかここにいながら戦場の様子も確認できればいいが………。
「ねえステラ。ちょっと見てきてよ」
唯一空を飛べる者に声をかける。少し様子見してくれればいいだけだし、あれだけ強い気配をステラも感じているはず。嫌とは言わないだろう。
「………はあ、まあいいだろう」
少し嫌な顔をしながらもステラは翼を動かし飛び立った。
ステラが戻ってくる少しの間、暇になった僕は回復系のアイテムなどを護衛パーティーに配って待つことにした。
*
空を飛ぶ龍は、戦場を一望できる位置で停止した。その視線の先には、一際大きな魔力を持つ少女がいた。
「やはりイーシェナか………。奴が出てくるほど、あれの活動が活発化しているということ………。さてどうするか」
生物の記憶を操作してまで玉座を手放したかったイーシェナが表舞台に姿を現す。それだけでこの状況がどれをど悪いものかがわかる。一度使った大魔法は、もう二度とその効果を十分に発揮しない。つまり魔族の幹部連中がこの原初の魔王を忘れることはもう二度とないということ。にもかかわらず、彼女が行動した理由は………。
「二…………いや三か!これはまずい。一体ここで何人死んだ?」
低く見積もっても一万人以上は戦死していることを確認した龍は頭を抱える。
「ケントに伝えることはできん。これだから巡礼者に関わるのは面倒だ………。これだけ死んでいるとなるとあれは確定で現れる。つまり今は少しでも強化を防ぐために戦っているのか」
戦況はあまり良くはない。追加の死者こそ出ていないが、傷を負ったものが多すぎる。あれでは焼け石に水だ。
「とりあえず一度戻るか………。何とかしてケントも参戦させなければ」
飛びたつ寸前、イーシェナと目が合う。龍に気が付いたイーシェナはあっという間に龍の目の前に現れた。
「おい小僧、お前の主にこの魔核を渡せ。人間どもの支援術者がいるだろう。そいつがいるところで割らせるんだ」
「だが魔王よ、それでは術の効果が半減してしまうぞ?」
ため息をついたイーシェナは、ステラの頭を叩き言った。
「半減したとしても!ないよりはましだろう?とりあえずは結解に守られて安全になるんだからさっさと行け!」
そういいながら、イーシェナはステラを投げ飛ばした。丸まった状態のステラがケントの頭上に落下するのは、この後すぐのことだった。




