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賢王の書~ ELSIUM OF EUPHORIA~  作者: LSABA
三章 魔王と姫とLASTライブ
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第135話

 少しふらつきながら立ち上がった龍は、今まで使っていた力を全て断ち切り契約の準備を開始した。


「龍との完全契約は因子を取り込むこと。だが我ら古龍は違う。祖龍に与えられし力を分け与え契約者の魂を半分貰う。この過程で我の破壊は力を弱め、お前の魂に結び付いた星の王因で容易に制御が可能になる。だが、人の身からすれば膨大な力がお前の中に存在することになる。お前が強い心を持っていれば制御は可能だが、もしそれが叶わなければお前の魂は半分、我と共に世界へと還る。最悪の結果だ。だがしかし、今更待ったはかけられん。準備は良いか?」


 恐らく破壊の力であろう嵐が吹き荒れる。ステラの鱗は剥がれ、切り傷からは血がにじんでいる。僕も同様でHPはもう三分の一も残っていない。制御以前の問題で先に死にそうだ。

 流石に緊張してきたのか、心臓の音がうるさい。耳元にあるんじゃないかと思うぐらい大きな音を出している。


「ビビってんの?早くしなよ」


 これは自分に向けて言った言葉だ。決断に後悔は無い。どしんと構えて…………いざ!


「ハ!ぬかせ小僧」


 僕の中から何かがごっそり抜け落ちた感覚と共に、嵐が吹き込んできた。体の中から引き裂かれるような痛みに声も出せずその場に倒れこむ。


「耐えろよ?お前がそれを制御し完全に同化したとき、我は初めてお前の魂を受け入れられる」


 前提条件で僕がこれを何とかしないと話にならないってことね…………。


「…………そんなに時間をかけずに終わらせるよ…………」


 ステラの返事を聞く前に、僕の意識は消えた。


 *


 草木に囲まれた透き通るような湖。まるで湖その物が光を発しているほどきれいに輝いていた。雄大な自然だがどこかおかしい。どちらかというと前にステラに会った時の精神世界に似ている雰囲気を感じる。

 ぼーっと池のそばに座って眺めていると、強烈な痛みが胸を襲う。暫くの間うずくまっていた僕の額に少し冷たい手が触れた。


「ふむ…………人の身で私の力を欲するとは、お主は傲慢だな」


 目の前には、真っ白な少年が立っていた。服も髪も何もかもが白いその少年は、目を離した瞬間老人に変わった。次は女性、犬等様々な姿に変わり留まらない。不気味さも感じるが同時に神秘的な雰囲気があった。

 変わった姿のどれもが美しく不快には思わなかった。そんな少年は僕が混乱しているのを悟ったのかゆっくりと湖の方へ歩いて行き、白い龍にその姿を変えそこから変わることは無かった。


「神性を帯びた生物は徒人の目には留まらない。混乱するのも無理は無いだろう。改めて名を名乗ろうか、私はエンシェントドラゴン。祖龍と呼ばれる全ての龍の祖であり、理の守護者である」


 白い髭を生やした祖龍は、ステラと違って虹色に輝く鱗を持っていた。虹色と言ってもビカビカに光り輝いている訳ではなく、どちらかというとシャボン玉に近い。それみたいに柔らかくは無いが、全ての色が混じったような不思議な色をしていた。

 祖龍はゆっくりと顔をこちらに近づけ、僕のおなかをペロッと舐めた。その瞬間痛みが引き、少し腹痛を感じる程度になっていた。


「破壊か…………今は確かステラと名乗っていたな。奴の力は他の龍を軽く超える。私の純粋な力を分け与えたからな。人の身ではまず耐えられんだろう」

「そんな力を、なぜステラに与えたんですか?彼が苦しむのは分かっていたでしょう?」


 僕の質問に対して少し苦い顔をした祖龍は、前足で髭を触りながら答えた。


「私が生きられないからだ。私はこの世界に存在しなくてはならない存在。世界の為にもそうするしか方法が無かった。強くなりすぎた力を分け与えることで、私はやっと肉体を捨て精神の存在に成った。これでようやく世界のバランスが保たれたのだ」


 想像していたよりも大きな答えに僕は言葉を詰まらせた。僕が何を言っても意味のない事、今更うだうだ言っても仕方のないレベルの話に追及を諦める。

 何故か知らないがせっかく回ってきたチャンス。今のうちに制御について知っている事を聞いておけばと考えたが、そんな甘い考えはすぐに壊された。


「お主が自分の力でどうにかすると言ったのだ、何も話すことは無い。私は理を正しに来ただけ、特にお主に肩入れする理由は無い。もう()()()()()()()()()()。私の目的はすでに達成されたのだ。去れ、人間。あとはお主次第よ」


 前足でデコピンされた僕はありえないぐらい吹き飛んだ。すぐに小さくなって見えなくなる湖の代わりに、真っ黒い景色があたりを埋め尽くす。何もない寂しい精神の世界。そんなところだったここに、気が付けば色々なものが増えていた。今まで出会った人やその時の思いで、そんな景色の奥の奥、僕の目標でもある先生が見えた。その顔は少し小ばかにしたような顔で、なんと言っているかは容易に想像できた。


「起きろ馬鹿弟子」


 その顔に勇気づけられた僕は、ステラの目の前で起き上がった。足場も無くステラの手の上で起き上がった僕に向かってステラは嬉しそうに聞いた。


「どうやった?まさか本当に成功するとはな」

「気合」


 少しふざけてそう言った僕とステラの笑い声が空に響いた。


 *


 湖の上で寛ぐ祖龍は、手にしたどす黒い何かを握りつぶし眉間にしわを寄せた。つぶれたそれは悲鳴のような音を上げ塵になって消える。それを見た祖龍は不快そうな目をした。


「私が干渉できない事を良いことに好き放題した挙句、私の創造物に手を出すとは…………。いずれ必ず、落とし前をつけてくれるわ…………」


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