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賢王の書~ ELSIUM OF EUPHORIA~  作者: LSABA
三章 魔王と姫とLASTライブ
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第134話

 スフィアの話によると、ステラは現在もゆっくりと上昇を続けているらしい。力を抑えるのもギリギリで、とにかく生き物の居ないところへ行こうとしているのではと予想していた。


「昔の彼は荒れていたが、王と出会ってからすっかり変わった。時には自分を犠牲にしても他を守る程優しくなった。そんな彼を見て王は喜び同時に心配していた。いつかこうなるだろうと、遠い昔から予見していた」

 

 だからこそ道中で暴発しないようゆっくり確実に上へ向かい、誰にも迷惑の掛からないところで死ぬつもりなのだろうと。

 一人寂しく生きていたステラを想像し、過去の自分と重ねた。まだそんなに時間は経っていないが、この世界に出会ったおかげで僕は変わった。もう寂しくはない、僕には夢があるから。進むべき道を見つけたからだ。


「そうか…………やっとしっくり来たよ」


 ずっと不思議だった。どうしてここまでしてステラを助けたいのか。最悪龍の影響が出ないようにするのであれば、ステラの言う事を聞いて放置していれば因子は消えたかもしれない。それは無理だったと今では分かるが、最初から僕はステラに会う事だけを考えていた。

 会って話して、()()()()()()()を考えていた。この世界で僕は色々な人から力を貰った。そして強くなっていると自分でも思う。これ以上力を求めるのは強欲だと責められるかもしれない。

 だけど、僕は僕以上の強者を知っている。僕では足元にも及ばない事を自覚している。だからこそ、そんな敵が目の前に立ちはだかった時に自分の道を曲げない様に、逃げないように強さを求めているのだ。それにはステラの力が必要だと、最初から分かっていたんだろう。

 ステラの為でも母さんの為でもない。僕は僕の為にあの龍を助ける。そして自分の力にする。その結果誰もが自分の望んでいた結果を得るのだ。


『ここからなら見えるでしょう。さあ行ってください』


 スフィアが映し出した画面には、面積が減り小さくなった浮島が見えていた。尻尾や翼の先が見える程に小さくなった浮島は、今この瞬間も少しづつ砂になって崩れている。

 

『友を…………頼みます』


 そう言ったスフィアは、自身の霧を分離させ小さな雲を作った。それに乗り浮島へと向かう。

 目を閉じ眠っていたステラの前に降り立つ。近くにいるだけで肌がヒリヒリする。これもおそらく破壊の力の影響だろう。ステータスを確認すると状態異常の印に加えてHPが徐々に減っている。どちらにも残された時間はあまりない。目を開けこちらを見たステラは威圧も何もせず、ただゆっくりと口を開いた。


「帰れ。お前では無理だ」


 弱弱しくそう言ったステラに僕は少しイラっとした。今にも死にそうなのに誰にも頼ろうとしないのだ。


「今にも死にそうなのに?試してみるだけでも違うんじゃない?」

「…………お前たち親子は祖龍の因子を舐めている。かの勇者が適応したのは理の因子。この世のシステムに干渉できる力。蒼もそれを想像しているのだろうが全く違う。これは暴れる力そのものであり龍の我ですらコントロールできない力を人の身で抑えるだと?笑わせるな。これは龍の因子とはわけが違う。少し流れただけでお前は破壊衝動に支配され危うく国を滅びしかけた。にもかかわらず()()だと?冗談では済まんぞ」


 いくら弱っていても龍は龍。その瞳からは力強さと圧を感じた。確かに軽率な発言だったことは認めよう。でもあの時とは違う。自分の中にあった確かな力を今は感じる。王因。同じ力を持った母さんに出来て僕に出来ないわけがない。


「僕には王因もある。あの時とは違うんだ」

「ハハハハ!その力を使いこなせてもいない小僧が笑わせる。自惚れるなと言っているんだ。王とお前では天と地ほどの開きがある。自ら勝ち取った力と譲り受けた力とは格が違うのだ」


 譲り受けた力。大手を振って自分の力だと言えないことは分かっている。だからこそ僕はここにいる。たとえ王因のお陰だとしても、自分の意志で母さんが出来なかった事を僕がすれば、それは少しでも自分で手にした力だと思えるから。自信をもって先に進めるから。

 

「何で自分から嫌われるようなことを言うんだ?遠ざけるためか?」

「…………何?」


 ステラの表情が変わった。前から思っていたが、ステラの言葉は少し強すぎる。これでは損をしてばかりだろう。これまでコミュニケーションを取ってこなかった僕が言うのもなんだが、明らかに言葉の裏に別の思惑が透けて見える。だからこそあえて分かっていないように聞いた。今はどうでもいい会話かもしれない。HPも半分を切った今は時間が無いが、今後に必要だと思ったからだ。


「大好きだった母さんの子供だもんね?ちょっと気にしてたんでしょ?それに今も」


 ステラは無言で僕を見つめていた。徐々に小さくなっていく足場のせいで、必然的にステラとの距離が近くなる。このままいけばパクっとやられる距離だが、それでも構わず続けた。


「そういうのってね、ツンデレっていうらしいよ?ハハ!」

「……お前は本当に蒼に似ている。その腹の立つ顔も喧嘩になるとすぐに関係ないことを言い出すところもな」


 ステラの顔が目と鼻の先にある。僕は黒く綺麗な顔に手を置き、そこから覗く瞳を見つめた。手が焼ける痛みに耐え、HPも気にせず自分の気持ちを伝える。


「僕は僕の為に君の力が欲しい。母さんの頼みとか他の事は一切関係ない。僕自身の為に君と契約したいんだ」


 力強い瞳。そんな瞳を見て龍は思い出す。壊すことを止めたあの日の事を。そして目の前の少年とかつての王を重ねてみるのを止めて、真っすぐに少年を見た。


「似たのは、悪いところだけではないらしい。いいだろう。どうせ少ない命、賭けに出るのも面白い」


 そう言った龍は立ち上がった。過去ではなく明日を見るために。

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