第133話
スフィアは顔を横に振った。
『違う。その身に感じるのは確かに星王の王因。かつて我らの王がその身に宿していた唯一無二の証。この世の生物を導くことの出来る素質』
スフィアの霧が目の前に集合する。それは円状の鏡に姿を変え、見覚えのある人物を映し出した。
ただ、少し違ったのは髪色が紫色だった事だ。
髪色以外は瓜二つ。スフィアが発した言葉でその存在が僕の母であると確信した。
『星の巫女姫、蒼い一等星、蒼王と、様々な呼ばれ方をした。当時負のエネルギーの影響で戦争の耐えなかったこの醜い世界を導いた存在』
スフィアは涙を浮かべた瞳で真っ直ぐに僕を見た。その目で僕と母さんを重ねているんだろう。
世界を救ったと言われる三人の勇者。その内の一人である蒼王。本名を灰野蒼。僕も実際に会ったことは無いが、全ての情報がその事実を告げていた。
ただ、母さんが無くなったのは僕が産まれる前。当然だがこのゲームは発売されていない。つまり、母さん達がこのゲーム……いや、この世界に来ていたのが15年以上前。そしてそこから何千年という時間が、こちらの世界では過ぎているということ。
「スフィアは僕と話してどうしたいの?」
『私はこのシリウスを貴方に返すためにずっと待っていた。それが王との約束。そして伝言がある』
スフィアは思い出す。色褪せることの無い遠い記憶を。返事のない自分を信じ託してくれた思い。今その約束を果たすことができる喜びを感じていた。
「スフィア。貴方がもし話せるようになったら伝えて欲しいの、私とあの人の子供に。絶対にここに来るわ、そしてこのシリウスが必要になる時も必ず来る。だから貴方が守って欲しい。遠い未来のことになると思う。貴方に辛い思いをさせるわ、それでも貴方を信じてる。だから伝えて……」
王の優しい笑顔とともに、王の子に伝える言葉を思い出す。
『ステラを救えるのは貴方だけ。彼には星の因子の供給が必要、そして祖龍があたえた破壊の因子を貴方が取り込む必要がある。相互に因子を取り込む完全契約でのみ、あの子を助けることが出来るのは貴方しかいない。これには苦痛が伴うわ、それでもどうかあの子を助けて欲しい……と、私からもお願いする。どうか私の友を救って欲しい』
スフィアはその後、契約について説明した。
母さんもステラと契約していたが、それは因子を与える契約。母さんは龍の因子を持たず、星の因子でステラが持つ破壊の力を抑えていただけだった。
星の力の供給が止まれば、破壊の力を抑える術は無くなる。そのせいでステラは元に戻りつつあるという。
破壊衝動を抑えても、その身に触れたものは壊れていく。それはどれだけ寂しいことだろう。
今いるあの浮島は、彼に残った唯一の場所らしい。それまでは母さんの巡った場所を転々とし、そこに残った微弱な因子を取り込み生きていた。
本来交わらない因子を、母さんが契約として無理やりねじ込んだ。それは他の星霊でも、星王でさえも不可能なことだった。
ステラを救う方法は力の分散。つまり因子を半分あたえ、そして因子を半分貰う。こうすることで完全な契約とし、夜天龍を星龍へと変える。
これは因子が二つある僕にしか出来ないこと。そして完全な契約を果たせば、力が暴走することもない。
「やろう。スフィアが連れていってくれるんでしょ?」
『はい。練習がてら私に力を流してください』
因子はもうひとつの心臓のようなもの。そこから流れる力を制御して、魔力と同じように知覚する。あとはそれを指先に集中させるだけ。こうすれば星の力を使うことができる。ライブラの重力操作もこんな感じで使っていた。
これをスフィアに渡す感じで使用するには、スフィアの流れも知覚する必要がある。
形が定まらないから少し苦戦するかと思ったが、呆気なく成功しスフィアの体から金色の光が発せられた。
『素晴らしい。力がみなぎる!』
スフィアの咆哮と共に、天空城が揺れ動く。早速ステラの場所へ向かっているのだろうか?
整理すべき情報は沢山あるが、まずは目の前のステラに集中しよう。
スフィアの協力の元、ステラの居場所へ向かう賢人。その頃地上では、戦争の火種が燻っていた。
魔王の玉座。そこに尊大な態度で腰掛ける男が1人。現在の魔王にして六魔の一体。魔王メイダスはプレイヤーでもあった。スタートを魔族にと望んだ代わりものであり、彼もまた選ばれた節目のプレイヤーだった。
そんな彼が望んだのは世界征服。武力で他種族をねじ伏せその全てを手に入れることを望んだ。
そんな彼が今、最も人が集まるこの時期に戦争を仕掛けようとしていた。
そんな時に運営から打診があった。
それはプレイヤーをキルした数で報酬が出るというもの。それはメイダスの配下がキルした数も対象という、なんとも美味しいイベントだった。運営がそんなことを言うのはおかしい気がしたが、やはり自由度が高いゲームは素晴らしいと感心した。
「ハハハ、運営がお望みなら……このライブを人類最後のライブにしてやろう」
数万の配下が頭を垂れる中、魔王の邪悪な声が玉座の間に響いたのだった。




